81話 樹海の狩人
木々が海のように生い茂る、樹海の中を銀色が走る。その背には、灰色の長髪と漆黒のローブを靡かせる少女、アステルが居る。
風の刃がアステル達を襲い、狼達が躱す。
行き場を失った刃は、木々を切り倒し、彼方へと飛んでいく。
「こんな所で鎌鼬の群れと遭遇とはなぁ!」
スズカは楽し気に言った。
迫り来る木、不意に飛んでくる刃。それらを避ける為に、狼達は緩急をつけ激しく動く。
木の上では葉が揺れ、風を切る音と共に風の刃が飛来する。
狼達の荒い息遣いが樹海の中で重なり合う。
「どうにか出来ないの?」
フェリスが周囲を見渡し、鎌鼬の姿を探す。
「場所が悪すぎる。止まれば一瞬で木端微塵にされるぞ」
ラセツが答えた。
次々と迫りくる風の刃と木を掻い潜り走り続ける。
アステルの後ろから風が吹く、風の刃が前方へと飛んで行き、目の前の木が音を立てて倒れた。
「まじかよ!?」
カインが声を上げる。
前方にはラセツ、シリウス、フェリスが居た。
しかし、木が倒れた事により、その道は断たれた。
「飛び越すか?」
「それは、ダメかな。……ツヴァイ」
スズカの提案を否定し、アステルは倒れた木を飛び越す事はしない。
ツヴァイは全身の筋肉を使い、急ブレーキを掛け、直角に曲がる。
その後ろに、カインとスズカ、シルヴィが着いてくる。
「飛び越せない事もなかったのではないか?」
「この子達でも、空中では回避行動は出来ないからね」
アステルとスズカであれば、空中でも風の刃は撃ち落とせたであろう。
しかし、現状、カインにその余裕はないようにも見える。
孤立させる訳にもいかない。
ラセツ達と分断されてしまった。だが、それは鎌鼬の群れの方も同じこと。
先ほどより、迫りくる刃は減っている。
ツヴァイ達の横の動きも減った事により、周囲の状況が見えやすくなった。
アステルの手に黎明色の魔力の短剣が生成される。
木の上で葉が揺れ、風の刃が撃ち出された。アステルは指を弾き、風の刃を放ちそれを打ち消した。
そして、葉が揺れた場所へ、短剣を投げる。その剣は木へと突き刺さり、徐々に輝きを増し、小さな爆発を引き起こすと、細やかな魔力の刃が周囲へと飛び散る。
木々が慌てるように、葉が激しく揺れ動く。木の上を動き回る影を、アステル達は見た。
「スズカ! カイン!」
「うむ!」
「お、俺もすか!?」
狼達の背の上でスズカが、三本の刀の内、最も短い脇差を抜いた。
必死な表情で狼の背にしがみ付くカインもまた、剣を抜いた。
「シルヴィもね」
アステルは魔力の短剣を再び生成し、シルヴィへ放り投げると、器用にその口で受け取る。
そして、アステル自身も魔力の短剣をその手に持つ。
鎌鼬の群れの陣形は崩れ、木々の上をガサガサと動き回る。
狩るモノだったモノ達が、狩られる側へとなった。
銀色の狼が獲物を狙い、鋭い爪で木を抉り登っていく。
天敵から逃げるように、獣の妖怪が枝から枝へと飛び移る。ツヴァイが獲物を追い、強靭な足で木を蹴った。
アステルが持つ短剣が、獣の身体へと入り込み、二つに両断した。
「うおおお!?」
カインが乗る狼が獲物を追い、次から次へと木を蹴り上げる。ガシッとその背にしがみつきながらも、カインの剣は鎌鼬を斬り裂いた。
斬った。というより、彼が乗る狼、フュンフがその剣に合わせたようにも見えたが、倒せたのなら良い。
ガサッと葉が揺れる。一匹の獣が枝から枝へと移り、その後ろをシルヴィが追っていく。
木上での狩猟。鎌鼬の方が遥かに経験値は高い、しかし、その経験値の差を物ともせずシルヴィは差を詰めていく。
焦りを見せたのか、鎌鼬は少しだけ離れた枝へと飛び移ろうと飛び上がった。
その跳躍に速度はなく、長い距離を飛ぶための物。
獲物を追い、狩人も飛ぶ。強靭な足で蹴られた枝が地面へと落ちる。
距離を稼ぐ必要はない。
最短で獲物に追いつくための飛躍。
シルヴィが鎌鼬を追い越す。二つに裂けた胴体が、木に直撃し、地面へと転がり落ちた。
「ぬはは!」
スズカが楽しそうに狼の背に乗り、獲物を追っていた。
木を蹴り、空中を飛び回る。
一匹、また一匹とスズカの刀が獣を斬り裂いた。
静寂が訪れ、スズカとカイン、シルヴィはアステルの元へ集まった。
ガサ。葉が揺れ、アステルは魔力の短剣を投げた。
短剣が刺さった鎌鼬が地上へと落ちた。
周囲に完全なる静寂が訪れた。
「お疲れ様、シルヴィ」
口に咥えられた黎明色の魔力の短剣が霧散し、ワン。と鳴いた。
「生きた心地がしなかった……」
「ぬはは! 何を言っている。生きているではないか」
カインは全身の力が抜け落ちたかのように、フュンフの背に全身を預けた。
その様子を見て、アステルが苦笑いを浮かべる。
「ツヴァイ達も疲れただろうし、ゆっくり行こうか」
樹海の中を銀色の狼達が歩き出した。
暫く歩き続け、樹海を抜ける。オレンジ色の光が、アステル達を包み込む。
その先では、ラセツ達が待っていた。
「アステル、待ってたよぉ」
フェリスは狼、フィアの背の上でダランとしながら手を挙げた。
「ごめん。遅くなった」
「ラセツさんがこの辺りで野営にしようだって」
「そっか。わかった」
ドライの背に乗るシリウスの言葉にアステルは頷いた。
そうして、アステル達は樹海から少し離れた場所で、野営の準備を始めた。
一日を走り抜けたシルヴィやツヴァイ達を休め、アステル達はその足で焚き木を集める。
気が付けば、陽は完全に沈み、空には月が輝いていた。




