80話 銀の疾走
都と外を繋ぐ門を潜る。
「東方浄土ってどの位で着くの?」
フェリスが聞くと、スズカとラセツが顔を見合わした。
「徒歩でおよそ一週間。もしかすると、それ以上だ」
「い、一週間……」
ラセツの言葉を聞き、フェリスは肩を落とした。
しかし、それは徒歩での話。
他の移動方法ならば、それよりも早く辿り着く事が出来る。
「シルヴィ、お願い」
ワフ。とアステルの傍に立つシルヴィが鳴いた。
すると、青白い魔法陣が生み出され、二匹のアージェントウルフが召喚される。
「この子達はラセツさんとスズカが乗ってください」
「馬は不要だと言っていたが、この為だったのか」
自身に歩みよって来た狼を撫で、ラセツが言った。
出立の準備の際、馬を用意する。そう言われたが、アステルはそれを拒否していた。
馬よりも狼の方が小回りが利き、自由に召喚したり、返したりする事が出来る。
どちらの方が速いかは分からない。しかし、利便性等はこちらの方が上だと言える。
アステル達は自分たちの腰に着けられた、銀色の体毛で作られたチャームを握りしめた。
青白い魔法陣が光り輝き、それぞれのパートナーと言える、狼達が姿を現した。
アステルは自身のパートナー、ツヴァイを撫でた。
「しかし、シルヴィは仲間を呼べるのだな。ただ、愛い奴だと思っていた」
スズカは自身が乗る狼に抱き着き、モフモフな体毛に顔を埋めながら言った。
「シルヴィは群れのリーダーだからね」
「なに!? そんな愛い奴にリーダーが務まるのか?」
ぷはっと体毛から顔を抜き、シルヴィを見た。
小柄な身体、その全身を使って狼のモフモフを楽しむスズカを見つめた。
「ツヴァイの方が長っぽくないか?」
スズカの言葉の通り、ツヴァイは他の狼よりも一回り身体が大きい。対し、シルヴィは一番小さい。
「リーダーだった個体の子供で、今はまだ成長途中。実質的なリーダーはツヴァイが担っているけど、いつかはこの子がその立場になるんだ」
「そうか。お互いに頑張ろうな、シルヴィよ」
スズカから発せられた優しい声音に、シルヴィがわふ。と鳴いた。
その返答に、スズカは微笑みながら、うむ。と答えた。
アステル達は狼の背に乗った。
「先頭は俺が行く、付いて来てくれ」
「わかりました」
東方浄土への道のりを知らないアステルは、ラセツの言葉に頷いた。
「頼んだぞ」
ラセツは自身の身体を託す、狼を優しく撫でた。
ワンッ。と鳴き、鋭い爪が地面を抉った。
銀色の群れが、朝焼けの太陽が照らす道を駆け出した。
灰色の髪、漆黒のローブが風によって靡く。
後ろの方では、ぬはは。と楽しそうな声が聞こえてくる。
風を、疾走を、スズカが全力で楽しんでいる。
街道を抜け、森の中。
しかし、速度が落ちる事はない。迫り来る木々を、銀色の群れは縫うように走り抜けていく。
「おお! 凄いな! ぬははは!」
アステルは後ろを振り向いた。
満面の笑みのスズカ。対して、カインの顔は必死そのもの。
その光景を見て、アステルは苦笑いを浮かべつつ、視線を前方へと向けた。
真剣な表情のラセツ、そして、白い長髪を靡かせるシリウス。
隣を見れば、欠伸をしながら身体を揺らすフェリスが居て、視線を下げるとシルヴィが地面を駆けていた。
太陽が完全に登りきった頃、アステル達の前に川が姿を現した。
「少し、休憩をしよう」
「そうですね」
ラセツの案にアステルは賛同し、ツヴァイの背から降りる。
ツヴァイを撫で、シルヴィを撫でる。そして、その手を離すと狼達は川辺に近付き、澄んだ水を飲み始めた。
「し、死ぬかと思った……」
白目を剥き、げっそりとしたカインが近付いてくる。
「もう何回も乗ってるのに、まだ慣れないの?」
シリウスが首を傾げた。
「いや、……平地なら全然大丈夫ですけど、森の中は流石に……」
「あの子達を信用しなよ」
「してるけど、怖いもんは怖いし、振り落とされないように必死なんだよ!?」
フェリスの呆れ混じりの物言いに、カインが言った。
「そうか? 妾は楽しかったぞ。風が気持ちよかったしな」
「……でしょうね」
カインはジトっとスズカを見た。
それをスズカはぬはは。と笑い、受け流した。
「しかし、森の中もあの様に走れるとなると、想定よりも遥かに早く着きそうだ」
「本当ですか?」
「ああ。馬であれば、比較的整った道を通る必要があったが、あれならば道を選ぶ必要もないしな」
ラセツが頷く。
「うむ。ぬしが思い描く道ならば、退屈はせんだろうしな」
「ええ。退屈はしないと思いますよ」
カグラの住人である二人が顔を見合わせた。
しかし、アステル達は首を傾げる。
「整備も何もされていない道を通る。つまり、強力な妖怪との遭遇が期待できるって事だ」
「期待したくないよ」
フェリスが肩を落とした。
水を飲み終えたシルヴィ達が近寄ってくる。
シルヴィが尻尾を振りながら、体重を預けるようにアステルにじゃれつく。
その重さを受け止め、アステルの手が優しくシルヴィの身体を撫でた。




