79話 若い王
正殿での会合の翌日早朝。
アステル達は城門前にいた。普段は賑わっている城下町だが、まだその活気は眠っている。
少しだけ肌寒さを感じる中、フェリスがウトウトと目を擦り、その様子をアステルとシリウスは微笑みながら見ていた。
「すみません。遅くなりました」
声がした方を三人が見る。準備を終えたカインとラセツがやってきた。
「大丈夫だよ」
アステルが優しい声音で答える。
遅れてセツナとハクオウ。そして、スズカが姿を現した。
スズカの姿を見て、フェリスが首を傾げた。
「あれ? スズカ様は来ないの?」
帯刀も何もしていない。
「うむ。何かあった時の為に、妾は都に残る。ラセツだけで問題ないだろうしな」
少しだけ、顔に曇りを見せる。
二度とベンケイのような犠牲を出したくない。そう考えた結果の事だろう。
「そうですか……」
スズカが来てくれていれば、戦力的にも過剰な程に余裕が生まれるが、大切な臣下や民を守りたい。その気持ちを無碍にして、無理に連れて行くことはできない。
「カイン、これ」
セツナがカインへと近づき、何かを手渡す。
差し出されたものをカインが受け取り、見つめる。
「お守り?」
渡されたものは白いお守りだった。
「それがあればあたしを召喚できる」
「え」
「なに?」
思ってもいなかった反応をされ、セツナが顔を顰めた。
「……俺、魔力ないから。召喚……できない」
気まずそうにカインが答えた。
「ああ……忘れてた」
そういえば、そうだった。とセツナが項垂れた。
二人にアステルが近づいた。
「それ、貸して」
差し出された手の上に、白いお守りが置かれる。
アステルの手から黎明色の魔力が漏れ出し、お守りを優しく包み込む。
そして、吸収されるように、お守りの中へと消えていった。
「はい」
お守りを差し出した。
「ありがとうございます」
カインはお守りを受け取り、腰に着けた。
しかし、セツナは状況を理解出来ず、首を傾げていた。
「私の魔力を込めて、召喚できるようにしたんです」
へえ。とセツナが頷いた。
「力が必要になったら、いつでも呼んで」
「わかった」
アステル達は準備を終え、スズカに頭を軽く下げ、背を向けた。
「ちょっと、待って」
ユキノの声がし、振り向くと。ユキノとアオバがこちらに歩み寄ってくる。
アオバの手には、三本の刀。スズカの刀があった。
「……なぜ、妾の刀を持っている?」
スズカが眉を顰める。
「儂が頼みました」
今までスズカの隣で静寂を保っていたハクオウが口を開いた。
「なぜだ?」
「貴女様はアステル殿達と共に行くべきだからです」
ハクオウは真っすぐな瞳でスズカを見つめる。
対して、スズカは睨むようにハクオウを見る。
「妾の意向に歯向かうのか?」
「歯向かう? 御冗談を、これはカグラの未来。そして、貴女様の未来を考えての事です」
「カグラと、妾の未来?」
ハクオウは頷く。
「貴女様はまだ若い。王として若すぎる。……それは、儂の不甲斐なさを生んだこと。ベンケイの事も同様です。本来であれば、多くを経験し、沢山の事を学ぶ年頃の筈です」
「ほざけ、二百年は疾うに生きている。十分に経験は積んだ、学んだ」
「二百年……確かに、人からしてみれば寿命よりも遥かに長い年月。しかし、我らからしてみればそうでもない。まだまだ、若いのですよ」
「そうだとしても、妾は守らなければならない! 二度と民を、臣下を! 争い等で失う訳にはいかない!」
スズカが声を張り上げた。
「だから若いと言っているのです! 貴女にとっての民は、ここに住まう者達だけですか? カグラ全土が貴女様の民なのですよ」
ハクオウも声を張り上げた。しかし、その声音にはどこか、優しさが滲んでいる。
スズカは言葉に詰まり、何も言い返せない。
俯くスズカにアオバが歩み寄り、三本の刀を差し出した。
「お受け取りください」
「ご安心ください。今度は必ず、貴女が大切にするもの。全てを守ります」
ユキノが微笑み、言った。
「ええ。この老体が朽ち果てようとも、命に代えても守り抜いてみせましょう」
「……駄目だ」
スズカが静かに呟いた。
そして、俯いた顔をハクオウに向ける。
「死ぬなら老衰にしとけ」
「これはこれは……手厳しい注文ですな。ですが、そのご命令。拝命致します」
ハクオウは微笑み、頭を下げた。
スズカはアオバから刀を受け取り、腰へ差してアステル達を見た。
「すまんが、妾も行くことになった。構わんか?」
「うん、よろしく」
アステルが静かに頷いた。
「では……ここは頼んだぞ」
スズカの言葉に、残される四人は頭を静かに下げる。
アステル達は背を向け、歩き出した。
門を抜け、朝陽が昇り行く城下町を歩く。
町は未だに眠り、静寂。その中に、六人の足音だけが鳴る。




