78話 黒龍の根城
数日が過ぎた。カインの修行を見て、町の人達の手伝いをする。
フォレスティにいた頃と殆ど変わらない日常を、アステル達は過ごしていた。
そんな時だった。スズカから呼び出しを受け、アステル達は正殿にいた。
目の前の玉座には、足を組み、頬杖をついてみんなを見下ろすスズカがいる。
「復興も順調に進み、状況も落ち着いてきた。だから、黒龍討伐の話をしようではないか」
スズカが口を開いた。その隣では、ラセツとハクオウが静かに立っている。
「黒龍の場所はわかっているのですか?」
アステルが聞く。
スズカ自身から敬語を使わなくても良い。そう言われていたが、公の場。
今は、王としてアステル達の前に立っている。
友人ではなく王。礼儀を以って接する。
「無論、調べはついている。ヒ――」
「ここに」
名を呼ばれる前に、陰からヒカゲが姿を現した。
「う、うむ。話せ」
いつも通り名を呼ばれる前に姿を現すヒカゲに、いつも通り、若干の戸惑いを見せつつもスズカが言った。
「黒龍は東の方で目撃例が多く。最後に観測されたのは、東にある霊峰上空を飛ぶ姿です。恐らく、霊峰。東方浄土を住処にしていると思われます」
「東方浄土?」
アステルは首を傾げた。
「四方浄土の内の一つ、東に位置する土地。東方浄瑠璃世界とも呼ばれる人里離れた土地」
静かに佇んでいたハクオウが口を開く。
「と、とうほう……なに?」
フェリスが首を傾げる。
「東方浄瑠璃世界。東方浄土と、覚えておけば良いですぞ」
ハクオウが優しい声音で答える。
「東方浄土に禍々しい黒い龍が住むとは、何かの皮肉のつもりか?」
スズカが悪態をつくように言った。
しかし、東方浄土というものが、どういうものなのか分からないアステル達は首を傾げた。
「穢れを払う神聖な場所とされているのです」
ハクオウの言葉に、へえ。とアステル達が頷いた。
穢れを払う聖地を黒龍が根城にする。スズカの態度も頷ける。
「黒龍の傍には黒い頭巾の人物が二人。一人は仮面を着けていました」
「また黒い奴らか? ハクオウの件と同一人物か?」
「……いえ。黒龍の話は聞いた事はございませぬ」
ヒカゲの言葉に思い当たる人物達がいる。
「その二人は、私達がこの世界に来ることになった要因です」
「……確か、黒龍を強制送還するときに、巻き込まれてこの世界に来たのだったな?」
スズカは思い出すように言った。
「はい。その二人は魔界から現れ、私達の前で黒龍を召喚した。ハクオウさんの件、サマエルと関連があるかどうかまでは分かりません」
「そうか、なんにせよ。目下の目標は黒龍討伐だな」
スズカが盃を手に取り、静かに口へと運んだ。
プハ。と小さく声を漏らし、盃を置く。傍に立っていた臣下がすぐにその盃に酒を注いだ。
「茨木童子の件ですが」
「……うむ、話せ」
「闇に包まれたかのように、その姿を見たものはいません」
ベンケイを殺し、逃亡した茨木童子。
何も報告できる事がなく、ヒカゲが表情を暗くした。
「……そうか」
「申し訳ございません」
「いや、謝る必要などない。ぬしはちゃんとやっている。何れ、その時が来るはずだ」
「……はい」
ヒカゲが頭を下げた。
「して。黒龍討伐の後、ぬしらはどうするのだ?」
スズカは真っすぐ、アステルを見つめた。
「フォレスティへ帰ろうと思います」
「そうか、寂しくなるな」
「ですが、帰る方法がわかりません」
アステルは俯きつつ言った。
「安心しろ。我らが知っている」
「本当ですか?」
俯いた顔を上げると、スズカ頷いた。
「うむ。カグラの桜……世界樹の根本に転移門がある。その時が来れば案内しよう」
「ありがとうございます」
帰る方法が分かった。
となれば、目の前の黒龍討伐に集中することが出来る。
「遠征になる。しっかり準備をしておけ」
アステル達は頷き、その場を後にした。




