77話 ぬるい茶と槌音
トントン。小槌の音が、通りを賑やかす。
大工のしがれた声の中、子供たちの声も聞こえる。
百鬼夜行という恐怖の翌日、町は壊れている。しかし、その表情に絶望などはなく、活気に溢れている。
カグラという世界の強さを、目と耳で感じる。
賑やかな城下町を見渡しながら、アステル達は歩いていく。
そうして、一つの茶屋へと辿り着いた。
「あら? 以前、スズカ様といらしたお方?」
「はい。おいしかったので、また来ました」
「ふふ、嬉しいです」
店主の女性が微笑んだ。
「きんつばとお茶をお願いできますか?」
「はい! すぐにご用意しますね」
笑顔で店主が厨房の方へと向かっていく。
その背中を見届け、アステル達は空いている席へと座る。
「みんな凄いねぇ」
ダランと、フェリスが机の上に突っ伏した。
「そうだね」
アステルが頷いた。
店の中まで、復興作業の声が聞こえてくる。
「お待たせしました」
店主が現れ、御盆を机の上に置いた。
そして、その上に乗せられていたきんつばとお茶を、一人ひとりの前へと置いた。
フェリスの獣耳がピクッと動き、身体を起こした。
「おお、美味しそう!」
目の前に置かれたきんつばを見て、フェリスが目を輝かせた。
「ふふ、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
店主が頭を軽く下げ、去っていく。
アステルは暖かいお茶を静かに飲んだ。
「食べようか」
アステルは中のあんこが透けて見えるほどに薄い皮に、木串を入れ切り分ける。
そして、それを口へと運んだ。
それを見た、シリウスとフェリスも真似るように切り分け、口の中へと入れる。
「ん、おいしい」
シリウスが口を隠すように手を置き、呟いた。
「うんうん」
フェリスが頷いた。耳がピコピコ揺れ動く。
二人を見て、アステルは静かに微笑み、お茶を飲んだ。
そうして、目の前のきんつばを静かに食べ終える。
「百鬼夜行が終わって、次は黒龍討伐だよね?」
シリウスがお茶を飲み言った。
その言葉を聞き、うへぇ。とフェリスの耳が垂れた。
「うん、そういう約束になってるからね」
「それが終わったら?」
「フォレスティに帰るよ」
黒龍の討伐が終われば、この世界にいる理由もなくなる。
元々事故で来てしまったが、別れが近い事を考えると少し寂しく感じる。
「どうやって帰るの?」
フェリスが机に突っ伏しながら言った。
「うーん、どうやって帰るんだろうね?」
アステルは首を傾げた。
しかし、方法はある筈。
カグラにやってくる時、あの場所には魔界と繋がる転移紋章があった。異世界を行き来する魔術は、古代の魔術で現代では使う事は出来ない。
それでも、今でも異世界を行き来する生物がいるのも事実。
「転移紋章を探し出すしかないかな?」
アステルが呟く。
「ええ? 転移紋章を探し出すって……無理じゃない?」
「だよね」
フェリスの否定的な声に、苦笑いを浮かべながらアステルが答える。
「スズカ様かハクオウさんに聞いてみる?」
シリウスが言った。
確かに、スズカかハクオウが転移紋章の場所を知っている可能性は多いにある。
スズカが知らなくとも、ハクオウは先代の王の相談役をやっていた。
カグラの知識量は計り知れないはず。
「二人に今度聞いてみようか」
今は町の復興やベンケイの件もある。ある程度落ち着いてから聞くのが得策だろう。
どちらにせよ、黒龍を討伐するまでは帰れない。
焦る必要もないし、討伐に向けて一度集まる機会がある筈。その時で遅くはない。
少しだけぬるくなったお茶を飲む。
「行こうか」
フェリスが身体を起こし、お茶をグビッと飲んだ。
「ごちそうさまでした」
「はい! お粗末様でした! またいらしてくださいね」
微笑む店主に、三人は静かに頭を下げ、店から出る。
トントン。音が鮮明に聞こえる。
三人は城への帰路を辿っていく。




