76話 野花と甘味、カグラの朝
日が昇り、朝が来る。
城門、橋の上には二人の元賊。レンガをアニキと慕う二人が居た。
「なにみとんじゃい、これぃ」
「スズカ様の組になんのようだ? おお?」
顎をクイクイと、上下に揺らし、町行く人々に眼をつける。
「やめろ。馬鹿」
ぱしんと、二人の後頭部を殴るレンガ。
ベンケイも威圧的な存在感はあったものの、あの二人を門番にするのはどうかと。いささか思う。
「あ、あの……」
「なんじゃい!? これぃ」
一人の子供が男に近づいた。相変わらず、クイクイ顎を動かす。
「……これ」
泥だらけの手で、子供が差し出す。
色とりどりの野花。
「ベンケイさんに」
男が顎を止める。そして、その野花の束をそっと受け取った。
「ちゃんと届けてやるぞ。これぃ」
「ありがとうな。おおん」
子供は頭を下げ、走り去っていき、影から見ていた子供達と合流する。
「怪我すんじゃねえぞ。ごらぁ」
「元気よく遊べよ。おお?」
ズビッと。鼻水を啜る音が二つ。
ベンケイ程の威圧感も存在感もない。しかし、門番として正解なのかも知れない。
「おお!? なにみとんじゃぁ!?」
「ここはスズカ様の組だぞ!? 変なマネ考えんじゃねえぞ!? おお!?」
あれがなければ。
「やめろって。言ってんだろうが!?」
バコンと、二人の頭を殴るレンガ。
鼻水を垂らす顔面が、地面へと叩きつけられた。
「なんだ? これは」
スズカが地面に落ちた野花の束を拾い上げた。
「それは、町の子供達がベンケイにと……」
「わっぱ共がベンケイに? なぜそれが地面に落ちている」
ギロッとレンガ達を睨んだ。
「あー。……それは」
レンガの目が泳ぎ、男二人は鼻を垂らしながら、正座をしている。
スズカは深くため息を吐いた。
「まあ、良い。いや、良くはないが……次は気をつけろよ」
そうして、スズカは野花の束を大切そうに抱え歩き出した。
そして、振り向く。
「組ではないからな。気をつけろ」
「……っす」
レンガ達が頭を下げた。
スズカと目が合う。
アステル達の元に、ゆっくりと近付いてくる。
「どこか行くのか? カインとセツナは一緒じゃないのか?」
アステル、シリウス、フェリスを見た。
「ちょっと町を歩こうかと、カイン達はアオバさん達と訓練してる」
ん? とフェリスが首を傾げる。
「そうか。熱心だな」
「一緒に行く?」
再び、んん? とフェリスが首を傾げた。
「いや。今はこれを届けねばならない」
大切そうに抱える野花の束を見つめる。
「そっか」
「シ、シリウス」
「なに?」
「敬語じゃないよ!?」
「あー。確かに」
アステルの後ろで小声で二人が話す。
「復興作業中だからな。気を付けて楽しめよ」
「うん」
そう言い、スズカは立ち去って行った。
「ア、アステル。グレちゃった?」
「え?」
「なんで敬語じゃなくなったのって事」
シリウスがフェリスの声を代弁するように言った。
「スズカにそうしろって言われたから」
「スズカ!?」
フェリスは声を裏返し、尻尾をピーンと伸ばした。
「そうなんだ」
フェリスに対し、シリウスは冷静だった。
「ええ? なんでそんな冷静な訳?」
「んー。別に、そんな驚くような事でもないと思うけど。フェリスだってスズカ様に敬語じゃないでしょ」
「確かにそうだけど、……そうじゃなくて。アステルが目上の人に敬語じゃない事に驚いてるんだけど」
「スズカ様にそうしろって言われたからでしょ?」
「そうだけど、……まあ、いいや。それで、どこいくの?」
諦めたようにフェリスが尻尾を下ろし、今日の予定を聞いた。
「きんつばを食べに行こうかと思って」
「「きんつば?」」
二人は首を傾げた。
「うん。前にスズカにご馳走になったのが美味しかったから、二人にも食べて貰おうかと思って」
「そうなんだ。……ご馳走になった? 私ご馳走になってないよ!?」
ずるいよ! と言いた気にフェリスが前のめりになった。
「うん、だから。行こう?」
「いくいく!」
目を輝かせながら、両手を胸の前でギュッと握った。
普段気だるげなフェリスが、表情を明るくしている。
「きんつばってどんなものなの?」
「甘すぎないけど、甘いお菓子だよ」
「甘い!」
更に明るくなる。この顔を見ただけで、誘ってよかったと思える。
元々甘い物が好きなのは知っていた。しかし、ここ最近色々あった事により、普段より甘い物を欲しているのだろう。
「お金はあるの?」
シリウスが言った。フェリスが固まる。
「うん。百鬼夜行対処の報酬をラセツさんがくれたんだ。いつまで、この世界にいるかは分からないけど。困る事はないくらい貰ったよ」
固まったフェリスの表情がパァーっと明るくなった。
この世界に来てから、依頼等をこなしていなかった事もあり、この世界のお金を持っていなかったが、それは過去の話になった。
「じゃあ、行こうか」
「おー!」
フェリスの尻尾が激しく左右に揺れ動いた。




