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74話 一番最初の忠臣へ

 屋敷から出て、眩しい日差しを受ける。石階段を下りていくと、カイン、セツナ、ラセツ。そして、レンガが居た。

 月が沈み、陽が昇った事で、姿を犬のように変異させていたレンガは、元の人間に戻っていた。

 石階段の最後の一段を踏み込み、大地へと踏みしめる。

 ラセツがスズカに気付き、静かにその頭を下げると、セツナとレンガもその頭を下げる。


「なんだ、戻ったのか?」

「まあな。いや、……はい」

「慣れないなら無理しないでも良い。ぬしの話しやすい話し方で構わんぞ」


 人の姿に戻ったレンガを見て、スズカが言った。

 昨夜。名を与えられ、正式にスズカの臣下となった。元賊の男。粗暴な話し方をしていたが、スズカに忠を尽くすと、誓った彼はその話し方を改めようとしていた。


「いや……そういう訳には……」

「そうか? まあ、好きにするが良い」

「……っす」レンガは静かに頭を下げた。


「それで、どうやって帰るの?」

 フェリスが口を開く。

 幽世から現世に戻る方法をアステル達は知らない。

「それならば、百鬼夜行の巻物で現世と幽世を繋ぐ門を出すことが出来ましょう」


 ハクオウがスズカを見つめた。

 そんなハクオウを見て、カインがギョッとし、アステルを見た。

「な、なんでこの人が当然のようにいるんですか?」


 カイン達がハクオウを見たのは、百鬼夜行を呼び出し、攻撃をしてきた時の事。敵として存在したハクオウがいる事に驚きを隠せないのだろう。

「ハクオウさんはスズカ様の元に戻った。それだけだよ」

「そ、そうなんですね……」


 スズカは懐から巻物を取り出す。

「百鬼夜行を呼び出したり、現世と幽世を繋ぐ門を出したり。便利なものなんだな」

「ええ。それは、アーティファクト(古代の遺物)です。現代では作れない代物でしょうな」


 百鬼夜行という現象を封印したアーティファクト。

 現代では再現不可能な力を持つそれを、スズカは握りしめていた。

「じゃあ、さっさと帰ろうよ。もう疲れたよ……」

 フェリスは獣耳と尻尾を垂れ下げ、肩を落とした。


「こっちの夜が明けたって事は、現世は今は夜かな?」

「え!? って事は、向こうは百鬼夜行の最中の可能性あるって事?」

 シリウスの言葉に、フェリスは一段と獣耳と尻尾を落とした。

「いや、日が昇ってからそれなりに時間が経っている。向こうは夜明け間近くらいだろう」


 ラセツの言葉を聞き、フェリスの獣耳がピンッと伸びた。

 しかし、屋敷に入った時、空には赤い月があった。思いの他、屋敷の中で過ごした時間が長かったらしい。

 それほどまでに、濃密な時間だったとも言える。


「うむ。帰るぞ」

 スズカが朱色の魔力を巻物に込める。

 地面から赤い色の鳥居が現れ、門が開く。


 幽世に来る時は逆さまの鳥居であったが、今回は正しい。神聖な鳥居が目の前に聳え立つ。

 その中へスズカが歩み進んでいく。その後ろをアステル達は追って、門を潜った。


 朝焼けの森、澄んだ空気が肺を満たす。

 場所は都近郊。アステル達が幽世に入る為の門を潜ったすぐ近く。丁度近くには、元賊のレンガが過ごしていた根城がある。


 アステル達は森の中を歩いて行き。都へと辿り着いたのは昼頃だった。

 都の建物は傷つき、所々崩れている。ここでも、戦いがあった事を感じさせる。

 人々が町を復興させようと、忙しなく動いている。

 その表情に曇りはなく、明るいものだ。


 そして、スズカの姿を見ると、更にその表情は明るくなる。

「スズカ様! 帰ってらっしゃったのですね!」

「うむ。皆も無事で何よりだ」

「町は酷い有様ですけどね」


 ハハ。と笑いながら男が言った。

「町は何度でも直せる。命ある限りな」

「もちろんです! 前よりも良い町にしてみせますよ!」

「うむ。期待しているぞ」

 ぬはは。とスズカは笑い。手をヒラヒラ振りながら歩きだした。


 城下町を歩いていく。

 行き交う人、妖怪がスズカを見ると、その名を呼び。手を振る。その全てにスズカは応えた。

 そして、城門前の橋。

 そこには留守を任せていた。雪女でセツナの姉、ユキノと雪鬼のアオバが立っていた。


「ス、スズカ様……」

 セツナがスズカの姿を見た。その表情は芳しくない。

「留守を任せてすまなかったな。ベンケイは休んでいるのか?」

 スズカが周囲を見渡す。そこにベンケイの姿はなかった。


 いつもなら橋の中央に鎮座している、三メートルはあろうかという巨体を持つ門番。その姿がそこにはなかった。

 橋の損傷が通って来た城下町の建物よりも酷い。

 乾ききっていない血痕が、ここで起きた戦闘の壮絶さを生々しく主張している。


「……こちらへ」

 セツナが静かに口を開き、アステル達を案内した。


 薄暗い部屋。冷えた空間、中央に大きな白い布。

 スズカがゆっくりと近付き、その布を震えた小さな手で捲る。

 血の気ない顔色で、安らかに眠るベンケイの顔。


「も、申し訳……ございません。留守を任されたのに……」

「いや……謝る必要は、ない。何が、……あった?」

 ユキノの謝罪に、スズカは微かに震えた声で言った。


「茨木童子との戦闘が起きました。俺が駆け付けた時、茨木童子は逃亡。ベンケイは、最後まで立っていました。その命が尽きても、門を守り切りました」

 アオバが、深呼吸をし。震える声を抑え、そう報告する。


 スズカは瞼を力一杯閉じ、深呼吸をする。微かに震える唇を噛み締める。

「そうか。ご苦労だったな。他の死傷者は?」

「他に死傷者はいません。負傷者は大勢、民は軽傷が多く。重傷者の殆どは兵です」

「……その者共の所へ案内しろ」


「え? ベンケイさんはいいの?」

 フェリスが言った。

「妾は王だ。亡くなった、兵を悼むよりも。今を生きる民と兵を、労わるべきだ」

「いやいや……王だからって」


「フェリス」

 何かを言いかけたフェリスを、シリウスが止めた。

「お言葉ですが。スズカ様、少々よろしいでしょうか」

 ラセツが口を開いた。


「……なんだ?」

「我々が敬愛し、忠誠を誓うのは王であるスズカ様ではございません。……スズカ様という王を敬愛し、忠誠を誓っているのです」

「……なにが言いたい?」


「ここで今を生きる者達を労わるのはきっと、王として正しい事なのでしょう。しかし、その選択をスズカ様がするというのなら、我々は貴女に忠を尽くせなくなる」

「王として、公私を混ぜる訳にはいかない」


「何を今更な事を……。仕事をサボり、よく遊びに行かれていたではありませんか。貴女がここで悲しむ事を咎める人などいません。民も兵も、貴女が一人一人を大切に思っている事を知っています」

「サボっていた……? 酷い事を言うな。……視察だ」

「ええ。ベンケイもよくその嘘をついていました。……負傷者の所へは俺が行きます。スズカ様はベンケイの傍にいてあげてください」


 ラセツは頭を下げ、背を向け歩き出した。

 肩が震えるスズカの背を見つめ、アステル達もラセツの背中を追う。


 廊下を歩く。重い空気の中で、ラセツは歩く。

「ベンケイはきっと、スズカ様の一番最初の忠臣と言えるだろう」

「ラセツさんじゃないんですか?」


 ベンケイは前の王から城に仕える門番。王がスズカに変わった時、去る臣下もいた中で残った数少ない人物。

 スズカが子供の頃から居て、勉強等から逃げた時。庇う嘘をつき続けて、スズカと一緒によく怒られていた。

 確かそう言ってた。


「記録上は俺が先かも知れんが、心はきっとベンケイが先だ」

「そうなんですね」


「幼い頃。スズカ様に見出され、この城に連れて来られた時。橋の中央にベンケイが立っていた。あの巨漢、鋭い目つき。子供の俺は恐怖を感じた。しかし、スズカ様はその巨漢をよじ登り、肩から城下町を見渡していたのを覚えている。表情は険しいが、大きな手でスズカ様が落ちないよう。優しく支えていたのもな」

「その時からベンケイさんはスズカ様に?」


「そうだろうな。きっと民もベンケイを怖がっていた筈だ。実際、そういう人物を見てきた。しかし、そういう光景を見ると、怖さが消えるんだ。優しい人物だと。わかるからな」

 ラセツの声音に少しだけ震えが混じる。


 気丈に振舞ってはいるが、その中には確かな悲しみがある。

 当然だ。百年を超える年月を共に過ごした仲間だ。きっと、スズカと共に傍に居たかった筈だ。

「アステル達は先に休んでいるといい。これは、俺の仕事だ」

「私達も行きます」


「ああ、留守を任された身だ。最後まで全うするさ」

 ユキノとアオバが言った。

「そうか。じゃあ、アステル達はゆっくり休んでくれ」

 ラセツはそう言い残し、去っていく。


 気丈に振る舞うその背中を、アステル達は最後まで見つめていた。

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