69話 不完全なる王の証
ひとまずの休息が訪れる。
「スズカ様、こちらを」
ぬらりひょんがスズカへ歩み寄り、懐から一つの巻物を差し出した。
「百鬼夜行の巻物か」
差し出された巻物をスズカが受け取った。
「それは王が持つべき物。スズカ様がお持ちください。本来であれば、大嶽丸様から正式に継承されるべきでしたが、このような形になり、申し訳ございませぬ」
「いや、構わん。……確かに、受け取った」
スズカはジッと巻物を見つめ、懐へと仕舞い込んだ。
「スズカ様が百鬼夜行を行えるって事?」
フェリスが首を傾げた。
その問いに、静かにハクオウが頷く。
赤い月の夜、魔力が活性化し妖怪が狂暴化する。その現象が百鬼夜行。遥か昔、その現象を封印したのが、百鬼夜行の巻物。
言ってしまえば、アーティファクトみたいな物だろう。
しかし、その様な現象を起こせる物は危険ではないだろうか。
「ご安心くだされ。アステル殿」
アステルの不安を察知したのか、ハクオウが真っすぐと、アステルを見つめた。
「力がある者……王が扱えば、百鬼夜行で現れるのは、その者に従う者共です。王に力を貸し、王に忠誠を誓う者。それは、貴女様が扱う。召喚術と同じような物です」
「召喚術と同じ?」
ハクオウが頷く。
召喚術は異世界の生物と契約し、召喚することで力を借り受けられる。
術者の肉体を強化、召喚獣の属性魔力を扱って魔術を撃つ事が出来る。
しかし、それには無属性の魔力が必要であり。無属性の魔力を持たない、異世界の生物は召喚術を扱えない。
百鬼夜行の巻物は同じ世界出身に限られるが、それを可能にする物という訳か。
「妾もぶわっと、アステルのように魔術を撃てるのか?」
「鬼属性はそもそも肉体強化に特化した属性魔力なので、魔術は厳しいと思います」
「なんだ、つまらんな……」
アステルに否定され、不貞腐れるようにスズカが呟いた。
「魔術は扱えませぬが、儂の力を扱えるかと」
「ぬしの力をか!?」
「ええ。儂を貴女様の百鬼夜行と認めてくださるのであれば」
不貞腐れていたスズカの表情が、一気に輝きを増した。
ハクオウの力。ぬらりひょんの力は、認識疎外または認識改変。
当たり前が当たり前じゃなくなり、当たり前じゃないものが当たり前になる。
先のハクオウとの戦いで、その力が強力である物は知っている。
「もちろん、ぬしは妾の百鬼夜行だ! その力がなくともな」
スズカは懐から巻物を取り出し、ぬはーと、掲げ見上げた。
「ありがたきお言葉でございます」
ハクオウは頭を下げた。
「しかし、お気をつけくだされ。無限に力を貸し与える事は出来ませぬ。制限があることをお忘れなく」
「制限?」
スズカが首を傾げた。
「その力に合うように身体が形成される。それが種族というものです。他種族の力を使いすぎるのは身を滅ぼすでしょう」
「……なるほどな。うむ、肝に銘じておこう」
「そして、その巻物は不完全なものです」
「不完全?」
スズカが巻物を広げた。そこには、多種多様な妖怪が描かれている。しかし、その絵は途中で途切れ、紙が千切れていた。
「千切れた部分は茨木童子が持っております」
「茨木童子。……あのたわけか」
その名を聞き、小さく舌打ちをした。
「完全な物にするには、そのたわけから奪い返してください」
「わかった」
スズカは再び巻物を懐へと仕舞い込んだ。
先ほどまでみんなの怪我の治療をしていたフェリスが、うへぇ。と、獣耳と尻尾を垂らしながらアステルの元へ近付いた。
「お疲れ様」
アステルがフェリスの頭を優しく撫でた。
垂れ下がった尻尾が緩やかに、左右へと揺れ動いた。
「うむ。行こう」
「申し訳ありませぬが、儂はここで一休みさせて頂きたく存じます」
「そうか?」
「ええ。見ての通り、老いぼれ。若さには勝てませんな。何かあれば、その巻物で呼び出してくだされ。すぐに馳せ参じましょう」
うむ。と頷き、スズカが歩き出した。
アステル達もその後ろを追って歩き出した。




