67話 仇を越え、忠を継ぐ
シリウスは逆手で持つ鞘でぬらりひょんの脇腹を強打し、腹部へと蹴りを入れた。
強い衝撃を受け、大きく後退りをする。
立て続けにスズカが迫り、刀を振り下ろした。しかし、その刃はすり抜けていく。
「だろうなぁ!」
振り下ろした勢いそのまま、スズカは身体を回し蹴りを入れる。その蹴りは透過することなく、胸部へと当たり、その老体を後方へと吹き飛ばす。
フェリスが数発、風の刃を撃つ。その刃は数発すり抜け、数発ぬらりひょんの身体を傷つける。
ぬらりひょんの存在は認識する事が出来た。姿を見る事が出来、攻撃や防御と言った物理的干渉が可能になった。しかし、それはアステル達の認識。
ぬらりひょんの認識がまだ生きている。
「年寄り相手に……手加減がないですのう」
ぬらりひょんは真っすぐ、態勢を立て直した。
「なんだ? 手加減してやろうか?」
「ふっ……御冗談を、頼んでもしないでしょうに」
スズカの軽口にぬらりひょんが返す。
「どうだろうな」
静かに、ぬらりひょんを見捉える。
シリウスがぬらりひょんへと斬りかかった。
一振り目は身体をすり抜け、二振り目は刀で受け止める。力と力がぶつかり合い、刃を押し付け合う。
「小娘よ。なぜ、儂を感知できた?」
正しく認識する前から、シリウスはある程度は感知出来ていた。
何もない空間からの朧気な斬撃。それを察知することが出来ていた。
「迷いがあるから」
「迷い……?」
シリウスの言葉に、ぬらりひょんが困惑を浮かべる。
「あなたは強い人。私なんかよりも遥かに強い」
「買い被り過ぎじゃ。透過が無ければとっくの昔に斬られている」
「そうじゃないよ。あなたの心は強い。……幻術は既に解けているんでしょ?」
シリウスは力を緩め、押し合う刀を下した。
ぬらりひょんは斬りかかる事なく、刀を下す。
「いつから、気付いておった?」
「気付いてないよ。ただ、そう感じただけ」
「どういう事だ?」
スズカが首を傾げた。
「スズカ様に斬られる為?」
「妾に?」
シリウスの言葉に、スズカが目を見開く。
しかし、その考えは間違いではないのかも知れない。
幻術のせいとは言え、前王であり、スズカの父を斬った。仇なのだから。
「ええ? だったら、透過とかめんどくさいことしないでよ」
フェリスが肩を落とした。
「すまんな。それが妖怪の性なのじゃ」
「妖怪の性?」
アステルが首を傾げた。そして、ぬらりひょんが頷いた。
「妖怪は自身より強き者を見定める。敬愛する主君と言えど、それは変わらない」
「妾を見定めたという訳か?」
「ええ。ご無礼をお許しください。そして、その刀で儂を斬ってください。貴女様にはその権利がある」
静かに、ぬらりひょんがスズカを見つめた。
静寂。先ほどまでの喧騒が嘘だったかのように、静まり返る。
「罪の意識があるというのなら、生きて償うべきだよ」
静寂を切り裂くように、シリウスが口を開いた。そして、自身の手を見つめる。
「大切な主君を自身で斬るという事は、耐えがたいものだと思う」
見つめた手をギュッと握り、アステルを見つめる。そして、ぬらりひょんへ視線を移した。
「斬りたくて斬ったわけじゃない。私達はそれを知っている。それなら、生きて償い。大切な主君が残したものを支えるべきだと思う」
ぬらりひょんは一瞬俯き、スズカを見つめる。
「しかし、それでスズカ様は納得するのでしょうか?」
その言葉に、スズカはぬはは。と笑った
「なんだ? もう老化が始まっているのか? 妾は確かに言ったぞ。妾の元へ戻ってくる気はないかと」
「よろしい、のでしょうか?」
「うむ。ぬしの煩い小言はうんざりだが、ぬしの力が妾には必要だからな。ぬらりひょん……いや、白翁よ。この名を返そう。そして、妾の元へ来い。その老体が朽ちるまでカグラの為に働け。それが、妾が求める懺悔だ」
「老体が朽ちるまで……これは、手厳しいですな……ですが、その名を拝命致しましょう。この白翁、貴女様を主君として認め、この老体が朽ち果てるその時まで、貴女様とカグラの為に身を費やしましょう」
ぬらりひょん改め、白翁は静かにその頭を下げた。




