63話 壁と骸
乾いた指の音が弾ける。幾つもの緑色の魔法陣から、風の刃が撃ち出され、巨大な骸骨の剣士。ガシャドクロへと飛んでいく。
しかし、その刃は目の前に立つ、意思を持った壁によって阻まれる。
その壁は、傷ひとつ付くことのない強固な壁だ。
「うへぇ。あの壁なんなの?」
隙間を縫うように、風属性の魔術を撃っても全てを防がれ、たまらずフェリスがぼやいた。
「重そうなには動きが機敏だね」
石で出来た大きな身体。それを感じさせない程の動きで、迫りくる風を遮って見せる。
アステルとフェリスが再び、風の刃と弾丸を撃ち出した。
防ぐ為に壁が瞬時に動く。そして、その反対。ガシャドクロの背中に一人。白い長髪の犬耳が生えた少女の剣士が迫った。
風を爆発させ、威力を上げた抜刀がガシャドクロへ向けられた。
しかし、その刃はその骸に届くことはなく。手に握られた、刃こぼれをしている巨大な刀によって防がれる。
カタカタと音を鳴らし、首がシリウスへと向けられた。
もう一対の手が、地面を薙ぎ払うようにシリウスへと迫っていく。
シリウスは風を逆方向へと爆発させ、ガシャドクロとの距離を取り、その手は空を切った。
正面からの攻撃は全て壁に阻まれ、後ろからの攻撃もガシャドクロが防ぐ。
あの壁をどうにかしなければ、あの骨に刃が届く事はなさそうだ。
フェリスが風の弾を作り、撃ち出した。壁が防ぐと同時に、その弾は爆ぜる。
爆発の痕は付くが、傷は入っていない。
アステルの手に、黎明色の魔力の剣が生成される。
展開するように走り出し、指を鳴らす。
風の刃が壁へ、真っすぐに飛来していく。
着弾。案の定、傷はない。
「フェリス、シリウス」
「はぁい」「はい」
再び、乾いた指の音が響く。
アステルとフェリス。二人分の幾つもの緑色の魔法陣が、壁と骸を囲うように生まれる。
そして、風の刃、弾丸。レーザーの様な風が撃ち出された。
壁は機敏な動きを見せ防ぎ、防ぎきれなかったものをガシャドクロが防ぐ。
アステルとシリウスが風を爆発させ、ブーストのように身体を加速させ、接近した。
全ての魔術を防いだ二体は、二人の刃をボロボロの巨大な刀、そして、強固な壁で受け止めた。
ガシャドクロのもう一対の手が、再び薙ぎ払うように、地面を抉っていく。
シリウスが避け、その手は壁と膠着しているアステルの元へ、進んでいく。
指が鳴る。風により押し上げられた高い跳躍をし、目の前の壁を蹴った。
少女一人の筋力では、揺れ動く事ない壁。
しかし、その足元に、肉の無い手が迫る。
骨が巨大な壁を薙ぎ払い。壁は地面を揺らした。倒れた壁の背に、アステルは着地する。
頭上を見上げると、ガシャドクロの巨大な剣が今、正に振り下ろされようとしていた。
迫りくる巨大な刀。着地の反動か、アステルの身体はすぐには動かなかった。
風が吹く。その風が、アステルを運ぶ。
振り下ろされた巨大な刀が、倒れた壁を砕く。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
シリウスの温かい手が、アステルから離れる。
砕けた壁は石となり、もう動くことはない。
もう、あの骸を守る盾はない。
アステルとシリウスは同時に風のブーストで、ガシャドクロへと接近する。
巨大な刀を持つ腕が上がる。しかし、その腕はフェリスが放った風の刃によって、粉々に砕け落ちる。
二本の刃が、その巨体を支える足を砕き。
一つの風の弾が、その巨体の胴体を覆う厚い骨を砕いた。
地面に伏し、カタカタと骨を揺らす骸へと近付く。
その胸の核に、アステルの剣が突き刺さる。
骨は静かになり、灰となる。
赤い月、風のない世界で、散る事なく、その場に佇む。
シリウスが刀を収め、フェリスが近付いてくる。
そして、アステル達は歩き出した。




