59話 崖上の休息
崖上で焚火を見つめていた。
赤い月が地上を照らしつけ、崖下では妖怪が蔓延っている。
「アステルさんって凄いですよね。さっきのは流石、俺の先生って感じがしました」
「急にどうしたの?」
カインの唐突な言葉に、アステルは困惑を浮かべる。
「いや、俺には魔力がないから。あんな魔術使えないなって」
「魔力あってもあんたには無理でしょ」
焚火から少し離れた場所で座る、セツナが鼻笑い混じりに言った。
ぐぬぬ。とカインが拳を握り、恨めしそうにセツナを見た。すると、鋭い目つきを返され、目の前でパチパチと爆ぜる薪へと視線を移した。
「召喚術師ってみんなあんな魔術使えるんですか?」
ぼーっと、火を見つめながらカインが聞いてきた。
「出来ないんじゃないかなぁ」
「出来ない?」
フェリスの返答にカインが首を傾げた。
「今は隷属契約が主流で、無理やり力を借りて強力な魔術を撃つのが当たり前だからねぇ。『やらない』じゃなくて、『できない』と思うよ」
「カインも無理やり要求してくる人に、力なんて貸したくないでしょ?」
フェリスの言葉に続くように、シリウスが言う。
確かに、とカインが頷いた。
「でも、アステルさんも一人で強力な魔術は扱えるんですよね?」
「うん、使えるよ」
「じゃあさっきのは?」
シリウスとフェリスと協力して撃ちだした、レールガンの様な雷の魔術。
二人とセツナと協力して放った、爆ぜる氷。
一人でな魔術が撃てるなら、それで良いのでは。そういう疑問だろう。
「何度も言ってるけど、魔術は魔力を扱う術。イメージ次第ではどんなものにもなる。だけど、強力な魔術を扱うにはそれなりのコストが掛かるでしょ?」
「コスト?」とセツナが首を傾げ、カインが「料金みたいなもの」と教える。
「だけど、召喚獣、または他の術者と協力することによって、魔力消費を抑えつつ同等の威力が出せる。それなら、そっちの方がいいでしょ?」
なるほどなぁ。と、カインが頷いた。
「でも、難しそうですね」
セツナの言葉に、アステルが首を傾げた。
「どの属性を混ぜて、どんな変化が起きるとか。考えてるって事ですよね?」
ああ。とアステルがその言葉の意図を理解した。
「言ってしまえば、魔術は科学なんです。必要な属性が揃えば、科学上で実現できるものは実現できる。逆に言えば、科学上でできないものはできないです」
「科学かぁ……。それって学者の分類ですよね」
カインが俺には無理だ。と天を仰ぐ。
「私も無理だよ。学者でも科学者でもなく、召喚術師だからね」
「いやいや、さっきやってたじゃないですか」
天を見上げていたカインが、顔を下ろしアステルを見た。
「私の両親は科学者だったから。専攻は違ったけどね、休みの日に色々教えてくれたり、見せてくれたりした。その中で覚えてるものを使っているだけで、詳しいって訳じゃないよ」
「へえ……」
「幽世の夜はまだまだ終わらない、暫く休んだら出る。仮眠しておいた方がいいぞ」
ラセツが近づき、そう言った。
アステル達はその言葉に頷き。地べたへと横になる。
赤い月の下、崖下から聞こえてくる魔物の声。アステルは目を閉じ、焚き木が静かに爆ぜる




