58話 道なき空
雪女のセツナが付喪神を凍らせ、カインが斬り伏せる。
その場所へアステル達が歩み寄る。
「手伝ってあげようか?」
フェリスが気怠そうに言った。
「すみません」
「うん、大丈夫。二人ともよく頑張ったね」
「カインは休んでていいよ」
アステルとシリウスが優しい声音で言った。
「いや――」
「病み上がりな上、鬼の力の長時間の使用は認められないよ」
「……わかりました。あとはお願いします」
カインは頷き、剣を鞘へと収め、後方へと下がっていく。
セツナが氷の息をフッと吹く、その白い息に触れたものは全てを凍てつかせる。
しかし、その範囲は決して広くはない。
「フェリス」
「んー?」
風の刃を撃ち続けるフェリスに声を掛けた。
「雨、降らせようか」
「はぁい」
フェリスが風の刃を撃つのを止め、短い詠唱を行う。
水色の魔法陣が生成され、目の前に大量の水の塊が生まれた。
それを、アステルが風を起こし打ち上げた。
打ち上げられた水は雨のように、いや雨よりも細かい粒となり、赤い月光を反射させ、地上へと降り注ぐ。
「セツナさん」
「え、あ、はい」
フッと息を吐く、白い息は散布された水を凍らせ広範囲に広がっていく。そして、降りしきる水は細氷となり、地面へと落ちていく。
「シリウス」
「はい」
アステルが風を撃ち、そこにシリウスが火属性を混ぜ、熱風が付喪神へと吹き抜けた。
凍てついた付喪神の身体にヒビが入り、降りしきる細氷と共に爆ぜる。
砕け散った氷が地面へと転がり、付喪神の群れは姿を消した。
アステルがラセツ達の方へ視線を向ける。
どうやら丁度終わったらしく、刀を収めたラセツとアニキがこちらへと歩み寄ってきた。
「やはり、広域戦闘は魔術の方が早いか。見事だ」
ラセツがアステルを称賛するように言った。
「みんなのお陰です」
アステルがシリウスとフェリスを見た。この二人が居るからこそ、魔術が扱え、この場で戦う事が出来ている。決して自分自身の力ではない。
フェリスが疲れたと言わんばかりに、肩を落とし、耳と尻尾を垂れさせている。
それを、シリウスが苦笑いを浮かべながら見つめていた。
「二人ともお疲れ様」
二人の頭を撫でると、二人の尻尾が左右へ激しく揺れ動いた。
その光景を皆が見つめていた。
「な、なんですか?」
「いや、いい関係だと。思っただけだ」
ラセツが微笑みながら言った。
「……撫でてやろうか?」
カインがセツナを見て言うと、鋭い蹴りがカインの脹脛へと直撃した。
「蹴るわよ」
「蹴ってるよ!」
そんな二人のやり取りを見て、アステルは苦笑いを浮かべ、シリウスとフェリスの頭から手を下した。
「む、遅れてしまったか」
森の方から声がし、アステル達はその方向を見た。
森から威風堂々と歩く、スズカが姿を現す。
「いえ、今終わった所です。そちらは?」
「うむ、あのような大鬼。妾の敵ではない。ぬはは」
スズカは小さな身体で、胸を張った。
「それで、また歩き続けますか?」
シリウスがみんなを見渡し言った。
「うむ、それなんだがな。ちょっと来てくれるか」
スズカが振り返り、来た道。森の中へと入っていった。
森の中を歩いていくと、崖へと辿り着いた。
下を見下ろすと、どこまでも続く森で、魑魅魍魎の群れが蔓延り、争っているのが見える。
「うげえ……」と、フェリスが声を漏らした。
しかし、恐らくスズカが見せたいものはこれではない。
それは宙に浮かぶ鳥居の残骸や岩の中にある。宙に浮かぶ大地に聳え立つ、屋敷。
「あの屋敷を目指すべきだろうな」
スズカが屋敷を見つめ言った。
「しかし、宙に浮いています。あそこに続く道もないように見えますが」
「うむ、そうだな」
ラセツの言葉にスズカが頷いた。そして、振り向いた。
「あの下まで行けば何か分かるだろう」
「ええ? ……この森通るって事?」
フェリスが言葉を漏らす。
「うむ」
スズカは力強く頷き、フェリスががっくしと肩を落とした。
そんなフェリスを見て、アステルとシリウスが苦笑いを浮かべる。
「その前に休みを取りませんか?」
ラセツがそんなフェリスを見て、スズカへと提案を出す。
「うむ、そうだな。休息も大事だ」
そうして、アステル達は野営の準備を始めた。




