56話 幽世へ
スズカとラセツによって付喪神が駆逐されて行き、アステル達は想定以上に楽に進めている。
「楽だねぇ」
ご満悦気味にフェリスが言った。
「うむ、飽きたな」
打刀を振り払い、スズカは口にした。
「この勝負は俺の勝ちですか?」
ラセツは止まる事なく付喪神を斬り続けていた。
「冗談は身長だけにしておけ、巻き込むぞ」
打刀を納刀し、大太刀の鞘をタン。と叩いた。浮き上がった柄を握り、ゆっくり抜く。
そして、その刀身を少しだけ見せた。
重心を低くし、身体を捻り、翻し、刀と鞘を同時に引く。一瞬、たった一瞬の間に身の丈程の大太刀は風と共に抜かれた。
付喪神の群れは一匹、また一匹と崩れ落ち、灰となっていく。
ピタリと止まった大太刀の切先を、静かに地面へと下ろす。切先が地面に触れない所で止め、円を描くように自身の定位置へと持っていく。
「誰が、誰に勝った?」
「まだ終わってませんよ」
カラン、カラン。と付喪神の足音はまだ続いていた。
「大差がつかないように精々頑張れば良い」
スズカは大太刀を手にし、歩き出した。
二振りの鋭い音が、乾いた足音を凌駕していく。
鬼姫の前を阻むものは全て灰へと化す。
王が、王道を自ら作り出す。
付喪神が転がり、灰へと化していく王道を、アステル達は歩いていく。
「……これ、俺たちいるんですかね」
アステルの後ろで、カインが呟いた。
「どうだろうね」
アステルは苦笑いを浮かべ、答えた。
それ程までに、スズカとラセツの火力は高かった。
そうして、辿り着く。
童歌、はないちもんめが雑音混じりに聞こえ、付喪神を排出している。逆さまの鳥居へと。
「うむ、妾の勝ちだな」
スズカは身体を捻り、鞘を引き、切先を収め、ゆっくりと大太刀を鞘へと納め、カチっと。鎺が鳴る。
「ええ、……ですが、さほど大差ではないでしょう」
「ぬはは。面白い冗談を言えるようになったんだな」
アステルは周囲を見渡した。
付喪神の姿はない。この場にあるのは、異様な空気を放つ逆さまの鳥居のみ。
「……で、俺たちはどうすりゃいいんだ?」
元賊の男達からアニキと呼ばれる男が口を開く。
「あの鳥居から黒い腕みたいなのが伸びてくる筈です」
シリウスが答えた。
「それが、幽世に引き摺り込むって訳か」
男達が前へと歩み出し立つ。
そして、カインもため息を吐きながら、すぐ傍に立つ。
―― かってうれしい、はないちもんめ
―― まけてくやしい、はいちもんめ
―― あのこがほしい
―― あのこじゃわからん
―― そうだんしましょ
―― そうしましょ
歌声が響く、子供と大人の声、雑音が混じる歌声。
暫くの静寂。
そして、雑音がその静けさを打ち消す。
―― きーまった
逆さまの鳥居から黒い腕のようなものが、元賊の男の元へと伸びていく。
その男をカインが突き飛ばし、代わりにその黒い腕に掴まれた。
そして、グイっと引っ張られ。グエッと、カインが倒れた。
そうして、勢いよく逆さまの鳥居へと引き摺り込まれていく。
「走れ!」
ラセツが声を上げ。
賊の二人を残し、皆が逆さまの鳥居へと走り出した。
「がんばってくだせえ!」
賊の男を背に、アステル達は駆けていく。
幽世を目指し、異様な空気を放つ、逆さまの鳥居を潜った。




