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55話 理屈なき忠誠

 日暮れ前、城の入り口前でアステル達は待機をしていた。

「幽世かぁ、どんな所だったの?」

 フェリスが腰を伸ばしながらシリウス達に聞いた。

「異空間って感じだったよ」


「へえ……。楽に終わるといいなぁ」

 そんな会話を聞きつつ待っていると、ラセツが城から出てきた。

 その後ろには元賊の三人。


「すまない、待たせたか?」

「いえ、スズカ様は?」

「ああ、行くと言っていたが、主を敵地の最前線まで連れて行く訳にも行かない。置いてきた」

 確かに、主君を連れて行く訳にも行かないか。納得。


「で、俺たちはどうすればいいんだよ」

 ラセツの後ろで、元賊の男達からアニキと呼ばれる男が、口を開いた。


「まずは町外れまで行き、そこで童歌が聞こえるまで待つ。聞こえたらそこまで行き、幽世まで引き摺り込ませる」

「ああ? 俺たちも幽世に行くのかよ?」

 

「いや、幽世は赤い月によって魔力が活性化している。魔力の器が耐えられなければ、狂暴化する可能性がある。それに、月光を浴びればお前らは理性を失うのだろう? 。引き摺り込まれる際に、カインが代わりに捕まる。お前たちは待機だ」

 急に聞かされた内容を聞き、え? とカインが顔を上げた。


「そうかよ、じゃあ。終わった後、俺達はのんびりさせて貰うとするわ」


「アオバさんとユキノさんも待機ですか?」

「アオバは俺の代わりに軍事を、ユキノはスズカ様の支援だ」

「最前線行くっていうのに、人数少なくない?」

 フェリスがぼやいた。


 アステル、シリウス、フェリス、カイン、セツナ、ラセツ。合計六人だ。

 確かに少なさを感じてしまう。


「すまない。俺たちの世界の事なのに、異邦人が大半だ」

 この世界の住人はセツナとラセツだけだ。

「いえ、その代わりに黒龍討伐を手伝ってもらう訳なので、大丈夫です」

「ああ、その時は必ず力になると。約束しよう」


「では、行こう」とラセツがこの場にいるみんなの顔を見て、歩き出した。

 すると、ぬはは! と聞き覚えのある笑い声が響いた。

 その声は城の中から、どんどん近付いてくる。

 そうして、城からその姿を見せた。


 二本の角、赤紫色の髪と、紫色の目。小柄な身体の腰には、その身体と同じ、またはそれ以上の長さを持つ長刀を腰に横差しし、二本の刀を腰に交差させるように着けている。合計三本の刀を持った、スズカだ。


「……なぜ、武装をしておられるのですか?」

 ラセツが困惑した様子で聞いた。

「妾も行くからに決まっているだろう」

 

「幽世は最前線です。その様な場所に主君を連れては行けないと、何度も言った筈です。貴女に何かあれば、悲しむのは貴女が大切にする民や臣下なのですよ?」


「うむ、その言葉は正しく、そうであろうな」

 当然だ。と言いたげにスズカは頷いた。

「だが、民を守る為の戦いで、城でふんぞり返る主君など、誰が敬愛し、誰が忠誠を誓う。何もせず、民やぬしらが傷つく事は妾は望まぬ。一緒に傷つき、一緒に守る。そういう主君こそ、王に相応しい筈だ」


「し、しかし……」

「なんだ、妾が居たら迷惑か?」

「いえ……」


「妾は、ぬしよりも……ラセツよりも弱いか?」

 今までとは違う声音、低く冷たい声で真っすぐとラセツを見つめる。

「い、いえ」

「うむ、そうだ。妾はぬしに負けた事など一度もないからな。ぬはは」


 いつも通りの声音に戻り、スズカが笑う。

 王としての威圧ではなく、戦士、侍としての威圧が消え去った。

「……わかりました。しかし、ご自身の命を最優先に。それだけは、お願いします」

「うむ。ぬしも、妾ではなく、ぬしの命を優先しろよ」

 

「……御意」

 ラセツは短く答え、頭を静かに下げた。

「うむ、……行くぞ」

 スズカは歩き、城門を潜った。


 そして、橋の中央に鎮座する。ベンケイへと歩み寄る。

「ベンケイよ、皆を守ってやれ」

 三メートルはあろうかという巨体を持つベンケイが、スズカを見下ろし、静かに頭を下げた。

 

「うむ、任せるぞ」

 ぺしぺしと、腕を目一杯伸ばし、ベンケイの背中を叩いた。

 そして、再びスズカは歩き出した。日暮れが迫る、町の中を歩いていく。


 町外れ、以前、賊が根城として使っていた洞窟で、アステル達はその時が来るまで待っていた。

「その刀……邪魔じゃないんですか?」

 カインがスズカを見て言った。


「む、どういう意味だ?」

「いや、その長い刀で、横幅広いじゃないですか」

「うむ、確かに広いな」

 スズカが両手を横に広げた。その広げた腕よりも刀は長い。


「せめて違う付け方した方がいいんじゃ……」

「いや、背中に差せば、地面に突き刺さる。腰も同様だ」

 スズカが長刀を手に取り、実践してみせる。


 背中に差すと、地面に刺さり腰が伸ばせず。

 ラセツと同様の差し方をすると、引き摺る形になった。


「置いていけば……」

「馬鹿を言うな。これは三本で一つだ。それに、これは先代の王であり、父上。大嶽丸の形見だ。一緒に居させてやるべきだ」

 そうして、腰に横に差した。


「まあ、……狭い所通る時は不便だがな」

 そして、スズカはシリウスを見た。

 白い長髪に犬耳が生えた少女。その手には、鞘に入れられた刀を持っている。

「突っ込むなら、そこのシリウスにも指摘するべきだろう。差す訳でもなく、常に持っているのも不便であろう」

 

「……確かに」

 カインもシリウスを見た。

 シリウスは首を傾げる。

「なんでシリウスさんは、常に持ってるんですか?」


「なんでって……。カインは私の戦い方知ってるでしょ?」

 シリウスの剣術は、抜刀術そして、鞘を武器として扱う疑似的な二刀流だ。

 幾度となく見てきたその戦い方を、カインは思い出した。

「そうでした……」


「しっかりしなぁ?」

「えぇ、そんな言われる?」

 フェリスが呆れたように言った。

「もう少し考えてから発言しなさいよ」


 冷笑を交えてセツナが口にした。

「ちょっと忘れてただけなのに……」

 カインは肩を落とし、とぼとぼと離れた場所で腰を下ろした。


 そんなカインを苦笑いしながら、アステルが見届けた。

 そして、元賊の男達が、地面に胡座をかき、両手を膝に置き目を閉じているのが目に入った。


 そんな彼等の後ろを、ラセツが角材を持ちながら歩いている。

 そして、男の一人の肩にそっと。その角材を置いた。

「ヒッ……」

 ブルっと震え、首を曲げた。


 そして、角材を振り上げ、バキッとその肩を叩き、角材が砕け散った。

「坐禅だ。心頭滅却し、雑念を振り払うんだ」

 その光景を見つめていたアステルに、スズカが説明した。


「……なぜ、この場で?」

「うむ、奴等は月明かりに照らされると理性が無くなる可能性があるからな、心を落ち着かせてるんだ」

 叩かれた男は、肩を抑え蹲っている。


 あれで本当に心頭滅却が出来るのか、些か疑問に思う。

 ラセツは砕けた角材を見つめ、それを放り投げた。

 そして、また新しい獲物を拾う。


「ぬしも、帰ったらやってみるか?」

「え、……遠慮しておきます」

「そうか? 本来はあんな棒ではなく、警策という棒で叩くんだ。痛くはないんだが、まあ。無理強いはせん」


 洞窟の中で時間が過ぎていく。

 そうして、夜が遅い時間。

 アステルと談笑をしていた、シリウスとフェリスの獣耳がピクッと動いた。


「童歌だね」

 シリウスがフェリスと目を合わせ、口を開いた。

「んー。始まるのかぁ……」

 フェリスがめんどくさそうに肩を落とした。


 洞窟にいる皆が目を合わせ、立ち上がる。

「手筈通り、元賊共を引き摺り込もうとした所をカインが庇い、引き摺り込ませ、我々がそれを追う」

 ラセツが当たり前のように言う。


 やっぱり俺なんだ。とカインがため息を吐いた。

「そして、お前達は城に戻り、町の防衛だ」

 ラセツが男たちを見た。

 男達からアニキと呼ばれている男は、静かに目を閉じた。


「断る」

「……なんだと?」

「俺も幽世に連れて行け」

 ラセツとアニキは見つめ合った。いや、睨み合った。


「月光の下で理性を保てないお前等連れていける訳ないだろう。幽世の夜は長く、赤い月が常に出ている。狂暴化の可能性もある中で、そんな奴は足手纏いだ」

 幽世は魔力が活性化している。活性化した魔力に耐えうる器がなければ、狂暴化を引き起こす。そこに理性の喪失が重なるのは看過出来ない。


「足手纏い……確かに、そうかもな」

「わかっているのなら――」

「理屈じゃねえんだよ!」

 男は声を荒げ、くあと、欠伸をするスズカを見た。


「あんたは俺達に対し、見ててやる。と言ったよな」

「うむ、言ったな」

 アニキはスズカに深く頭を下げた。

「俺も、連れて行ってくれ。……変われる、やり直せる機会なんだ」


「……別に幽世まで来なくても、ぬしらを兵として迎え入れる約束は守るぞ」

「そうじゃねえ。言っただろ、理屈じゃねえって」

「話を聞こうか、だが、手短にな」

 先ほどまで退屈そうに欠伸をしていた少女とは思えない、真剣な表情でスズカは立つ。


 アニキは頭を上げた。

「あんたは、自分に忠を尽くさなくていいから、民に忠を尽くせと言った。だが、あんたの人となりをみて、あんたに忠を尽くしたいと思ったんだ」

「その割りに、話し方からそんなもの感じないが。まあ、良い」


「これからの俺を、俺達を見ててほしい。汚れ切った手かも知れないが、あんたが大切にする民と、あんたの為に使いたい」

 アニキは真っすぐに、スズカを見つめ。スズカもまた、それを受け入れる。


「送り犬よ、ぬしは、転んだ者に手を差し伸ばせるか?」

「伸ばしてやるよ。それどころか、転ばねえように守ってやる」

 アニキは迷う事無く答え、その返答を聞いたスズカは、ニッと口角を上げた。


「ぬしの同行を許可する。これは、王としての命令だ。……ラセツも、良いな?」

「スズカ様が下した命令に、歯向かいはしません。ですが……」

 覚悟があるからと言って、魔力活性による狂暴化、そして、月光での理性喪失の危険性は変わらない。


「我らは公人だ。変わり行こうとする者を助けるのも仕事だ。だが、危険性があるのは変わりないな」

「あんたは心を律しろと言った。律して見せる。だが、もし、そうなった場合は俺を迷わず斬ってくれ」

 そして、再びアニキは深く頭を下げた。


「もしそうなり、俺を斬る事になったら。こいつらの事をあんたに託したい」

「ア、アニキ!?」

「俺たちもアニキと一緒に――」

「民に忠を尽くし、王に忠を尽くす。お前らも来たら民に忠を尽くせねえだろうが」


 スズカは大きくため息を吐いた。

「頼み事が多いやつだな。妾は王だぞ。……聞ける頼み事は一つだ。ぬしを幽世に連れて行く事を許した。それで終わりだ」

 頭を深く下げたまま、アニキの拳がギュッと、力強く握られ震える。

 

「律して見せろ、見ててやる。理性も狂う衝動も、律して見せろ」

「……わかった」


「もう終わった? 音、近付いて来てるよ?」

 フェリスが耳をピクピクさせながら、気だるげに言った。

 カラン、カラン。と無数の足音が洞窟内に響き渡り、徐々に近付いてくる。


「うむ、時間を掛けてしまったな。詫びに、妾が道を開こう」

 スズカが腰、背、腕を伸ばしながら歩く。

「ぬしらは休んでいると良い。何、付喪神の群れなど、朝飯前にもならん」

 腰に付けた三本の刀の内、中位の長さの刀を抜いた。

 

 その横に静かに、ラセツが立った。

「む、ぬしも休んでいていいぞ」

「そうもいきません」


「そうか、……ならばどちらが多く狩れるか。勝負だな」

「負けるつもりは到底ございませんよ」

「はっ……ほざけ。勝負事でぬしが勝った事など、背丈以外なかろう」

「ええ、背丈だけは俺の圧勝です」


 ラセツが刀を抜いた。

 カラン、カラン。と足音が響く。その群れが姿を現す。

「……間違えてぬしを斬ったらすまんな」

「それは……。ご勘弁を」


 二人はゆっくりと、歩く。

 無数の足音を響かせる群れへと向かって。歩き出した。

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