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53話 民に忠を尽くす王

 正殿、玉座の上で静かに、スズカは頬杖を突いていた。

 百鬼夜行、ぬらりひょん、茨木童子。そして、サタリエルとガギエル。

 この問題をどうするか。


「さて、諸々の敵は把握出来たが……。どうする?」

 傍に立つラセツをチラッと、スズカが見た。

「正直な所、百鬼夜行当日までは何もできない。と言った所かと、ぬらりひょん達は幽世に潜伏している筈。その幽世へは、我々は自分の意志では行けません」


「ちょっと、いいかしら」とユキノが静かに手を挙げた。

「うむ、申せ」

 スズカから発言の許諾を得たユキノが一歩、前へと踏み出した。


「私たちはアステルさん達と合流する前に、幽世に入った。その時と同じ事をしたらいいんじゃないかしら」


 アステル達と合流する前。セツナが引き摺り込まれそうになった所を、カインが庇った事でカインが引き摺り込まれた。その際にシリウス達がカインを追い、逆さまの鳥居を潜った。その先が、幽世だった。


「しかし、それでは。民が神隠しに遭うのを待つ。という事になるだろ?」

 ラセツが眉を潜めた。しかし、それとは逆にスズカは口を開く。

「うむ、ありだな」

「スズカ様!?」


 誰よりも民を大切にするスズカが、認めた事にラセツは驚きの声を上げた。

「なに、民を囮にするつもりはない。だが、昨日妾が捕らえた、子供を攫った賊共がいるではないか。そいつらに挽回の機会を与えるのも良かろう」

「罪人に挽回の機会を?」


「うむ、これが成功した暁には、そいつらを兵として迎え入れてやればいい」

「正気ですか!? 罪人ですよ!?」

「そうだ。罪人だ。だが、妾の民でもある」

「……わかりました。連れてきてくれ」


 ラセツが臣下へと命じた。

 暫くすると、兵に連れられ、縄に括られた男達が入ってきた。

 玉座の前で跪く男達を、スズカが足を組み、頬杖を突きながら見下ろした。


「ぬしの名は?」

「妖怪に名前なんてあるかよ」

 不遜な態度で一人の男がぼやく。


 妖怪に名前などない。恐れられ自然とそう呼ばれるようになるか、力ある者から名付けしてもらう。それ以外では名を得る事は出来ない。


「なぜ、子供を攫った?」

 男の不遜な態度など気にすることなく。スズカは言葉続ける。

「……別になんだっていいだろ。お姫様じゃ理解できねえ世界だ。仕事を得られず、明日処か、今日の飯すら食えない奴らなんてごまんと居るんだよ」


「そうか、……すまなかったな」

「……は?」

「なんだ? 聞こえなかったのか? すまなかった。そう言っているんだ」

「そうじゃねえ! 何で謝るんだよ! 俺達みたいな底辺の事を知りもしない癖に、何で謝るんだ!?」


「確かに、妾は下の事を知る事が出来ない程に上にいる。それは事実だ。だが、その知らぬ者達も妾の民だ。満足に生きていけない世界を作っているのは、妾だ。それを謝罪するのは当然だ」

 男は唇を噛み締めた。

 それをスズカは玉座から見下ろしていた。


「だが、ぬしらが子供を攫った事は事実。罪人だ。異論はないな」

「……ああ。……ねえよ。どんな刑罰でも受けてやるよ」

 スズカその言葉を聞き、ニッと口角を上げた。

 

「ならば、妾の兵になれ」

「……は?」

 男がガバッと顔を上げた。

「なんだ? また聞こえなかったか? 耳が遠いんだな……」


「ちげえよ!? 意味が分かんねえんだよ!」

「簡単な話だ。ぬしらの罪は消えない。それを妾の兵となり、民を守る事で償えと言っているんだ」

「ま、守る? ……俺たちが?」

「うむ、巷を騒がす神隠しを知っているか?」


「そりゃあ……。神隠しが起きてるからって、俺たちはそれを利用したから……」

「そうか、神隠しの正体は、幽世への引きずり込まれることだ」

「か、かくりよ?」


 男達が首を傾げた。

「うむ、……ラセツ」

 そう言い、スズカは傍に立つラセツをチラッと見た。

 説明を丸投げされたラセツはため息を吐き、一歩。前へと踏み出した。


 そうして、一通りの説明を終え、ラセツが静かに一歩下がった。

 男たちは理解できたの、できていないのか。困惑した表情を浮かべていた。

 

「俺たちを囮にして、百鬼夜行の前に幽世って所に攻め込もうってか?」

 男の声が震えていた。

 兵にする。と言われた後に、囮の話を聞かされた事によるものか。


「そうだ、ぬしらは囮だ。だが、これが成功した暁には、ぬしらを兵として迎え入れ。妾が名をくれてやる」

「名を……?」


 スズカは立ち上がり、ゆっくりと段差を降りて行く。

「妾に忠を尽くせとは言わん、下の末端も見れぬ、妾にぬしらも尽くしたくはないだろう」

 スズカは両膝を畳に付け、同じ目線になる。


「そんなこと……」

 男の否定にスズカは微笑んだ。

「民に忠を尽くせ。この手を我らと共に、民を守る為に使わぬか?」

 スズカは手枷の付いた男の手を取った。


「民に忠を……」

「うむ、妾も民に忠を尽くしている。民の笑顔を見るのが好きなんだ」

 スズカの純粋な笑顔に、男は見惚れた。

「ふ……ふははは」


「む……。何がおかしい」

「何がって、全てだろ。……だが、人々があんたを愛し、そこの鬼共があんたに忠誠を誓う理由が、分かった気がする」


 ラセツが顔を顰めた。しかし、男は気にしなかった。

「底辺を知らずに、子供達と遊び暮れる。能天気な姫様だと思っていたが……。間違いだったようだ」


「ぬはは! 今更妾の魅力に気付いたか。だが、これからもっと知るが良い」

 スズカは立ち上がり、両手を腰に当て、胸を張った。

 そして、段差を一段ずつ、登って行く。


「その者共の手枷を外してやれ」

 兵が男達の手枷を外す冷たい音が響く。

 スズカは玉座に座り、足を組み、頬杖を付いた。


「民に忠を尽くし続けろ。そして、妾には見えぬ。下の末端の者に手を差し伸ばしてやれ。案ずるな、ぬしらが忠を尽くし続けていれば、我らがぬしらを助けてやる」


 鬼幻界カグラの主、鬼の姫スズカ。

 二本の角、紫色の瞳と赤紫の髪。小柄な身体にはそぐわない存在感を放つ少女。

 玉座に座る少女は、誰しもが認める王そのものだった。

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