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51話 黎明と朱

 スズカと城下町を歩き、賊を倒した翌日。アステルは、シリウス達と共にカインの魔力操作の訓練を見ていた。

「違うって、こう。もっと……身体の中の熱を感じて、それを……ぶわっ!って、全身に巡らせるの」

 フェリスがぶわっと両手を広げた。しかし、カインは首を傾げ。アステル達はそれを見て苦笑いを浮かべる。


「なんでわかんないかなぁ?」

「わかるわけないだろ!?」


 魔力での身体能力強化は、何年も繰り返し行ってきた事。

 当たり前のように、無意識で行える様になったそれを、最近まで魔力が枯渇していたカインに、教える事は容易ではなかった。


 カインは雪女のセツナと契約した事によって、鬼属性の魔力を使えるようになった。

 その魔力による身体能力は、無属性の魔力を遥かに凌駕し、人間の身体に大きな負担を与える。

 昨日アステルがその、鬼の魔力による身体能力強化を使用した際も、一発の殴りで骨が軋む程の破壊力は、身体を壊す恐れもあった。


 しかし、それは河童の子供で魔力量が多くないからこそ、一発は耐えられる程度しか強化されなかっただけで、セツナの場合は一発殴るだけで骨が粉砕する可能性もあるだろう。

 どうにかして、扱い方を教えなければ、今、カインの腕を固定している白い包帯が永遠に続く事になる。


「カインは、魔力を感じるの?」

「感じるって……。なんですか?」

 アステルの質問に、首を傾げ質問で返した。


「鬼の魔力はどこからどこへ供給されるの?」

「召喚獣から契約者……。セツナから俺です」

 カインが静かに見守っていたセツナを見た。ギロッと睨み返され、パッと視線をアステルに戻す。


「うん、魔力は召喚獣から借り受けるもの。普段は目に見えてないけど、濃くなると見えるようになるんだ」

 アステルは手の平を上に向け、伸ばした。

 何もないその手の上で、徐々に黎明色の魔力が可視化されていく。


「魔術は魔力を扱う(すべ)。術者のイメージでどんな使い方もできる。身体能力の強化も同じ事だよ」

「イメージ?」

「うん、先生が私達によく言ってくれた。大事なのはイメージ。なんでもいいんだよ。カインがイメージしやすい魔力を想像して、それを手繰り寄せるの」


 アステル達の師、ライラの教えをそのまま言っているだけだが、それは彼女達にとって最も大切な教えだ。

 「アステルさん達の先生ってどんな人なんですか?」

 アステル、シリウス、フェリスは目を合わせ、苦笑いを浮かべる。


「ハチャメチャな人だったよ。手をパンッと合わせて掌を、地面に押し付けて土の柱を造ったり」

 アステルはそう言いながら、かつてライラがやっていた動きを模倣した。

 胸元で手をパンッと合わせる。それは、神に祈りを捧げるような動作に似ていた。

 

「あとは……。天光満つる処に我は在り―― だっけ? 何か詠唱をして、凄い雷の魔術撃ってたよね」

 シリウスがその時の光景を、思い出しながら言った。

「何か両掌に魔力を溜めてレーザーみたいに撃ち出した事もあったねぇ」

「な、なんですか……。その人」


 カインは酷く困惑した。当然だ、アステル達も未だに理解できていない。

 しかし、大事なのはそこではなかった。


「先生のイメージは常軌を逸しているけど、そういう事もできるって事だよ。カインが思う、魔力をイメージして」

 アステルは手の平で輝いていた魔力を、ギュッと握りしめた。

 カインはそれを見届け、自身の手の平を見つめ。そして、目を閉じた。


「大切なのはイメージ。魔力の奔流を感じて。熱さ、または冷たさ。糸、鎖がセツナさんから繋がっているのを意識して」

 カインはアステルの声に耳を傾けながら、ゆっくりと、深く息を吸い。そして、その全てを吐き出した。


 静寂の中にカインの息使い、風の音、木々が揺れる音だけが響き、アステル達は静かに、カインを見つめていた。

 そして、微かにセツナからカインへ、朱色の魔力が緩やかに移り始めた。

 カインは手をギュッと握りしめ、朱色の魔力がカインを優しく包み込む。


 その魔力量はセツナを考えれば微かな物。しかし、確かに繋がりを掴み取り、奔流へ至る道を作り出した。

 「うん、上手だね」

 アステルが微笑み、優しい声音で言った。


「ほ、本当ですか!?」

 カインはパッと目を見開いた。

「微量だけどねぇ」

 フェリスの言葉にカインは肩を落とした。


「落ち込む必要はないよ。今感じた感覚を忘れないでね」

 慰めるようにシリウスが諭した。

 その言葉を聞き、カインは落とした肩を持ち上げた。

「はい」


 カインを包んでいた朱色の魔力がふっと消える。

 そして、カインはセツナを見つめた。目と目が合い、セツナはそっと視線を逸らす。

 カインは苦笑いを浮かべ、再び目を閉じ、集中し始める。

 穏やかな陽だまりの下で、訓練を続けた。

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