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50話 黎明の剣と朱の守護者

 昼前、アステル達四人は城の庭園を歩いていた。

 池と桜がピンクに染め上げ、その中には紅葉もあった。

 午後からはカインの魔力を扱う為の、初めての修行を予定していた。


 歩いていると、一つ。小さな影が近付いてくる。

 二本の角、赤紫の髪と瞳。小柄だが、どこまでも存在感がある小さな少女。


「アステルよ、少し妾に付き合え」

 スズカはアステルを見るや否や、そう言った。

「今からですか?」

「うむ、予定があるのか?」


「カインの修行を予定してます」

「む、そうか……。ならば――」

「修行はこっちでやっておくよ」

 仕方があるまい。とスズカが言おうとしたその時、シリウスが提案した。

 

「まあ、魔力に関してなら。私がいるからねぇ」

 気怠そうにフェリスが言った。

 確かに、三人の中ではフェリスが一番長けている分野。彼女が居れば、問題はない。


「ご用件は?」

「ついて来れば分かる。ぬはは」

 笑いながらスズカは小さな背を向け歩き出した。


 アステル達は顔を見合わせた。

「二人ともごめん、カインもね」

「うん、大丈夫だよ」

「俺も問題ないです」


 アステルは小さな背を追った。


 城下町、活気に満ち溢れている。

 スズカに気付いた民達は、手を振り、声を掛ける。その全てにスズカは返している。


「む?」

 アステルの前を歩くスズカが首を傾げた。

 何処か落ち着かない様子の女性。

 

「どうかしたのか?」

「ス、スズカ様!?」

 スズカが女性に近付き、声を掛けると女性は驚きの声を上げた。


「そ、その……。い、いえ。何でもございません……」

「……そうか? 驚かせてすまなかったな」

「い、いえ。失礼、致します」

 女性は深々と頭を下げ、去って行く。その姿を、スズカはジッと見届ける。


「ヒカ――」

「お呼びでしょうか?」

 音もなく、ヒカゲが現れる。

「探りを入れろ」


 ヒカゲは静かに頭を下げ、再び音もなく、忽然とその姿を消した。


「さて、行くぞアステルよ。ぬはは」

 スズカは笑った。その笑い声によって、皆がスズカの存在に気付いた。更に笑い声は大きくなった。


 そうして、広場。アステルは長椅子に座り、子供達と全力で遊ぶスズカを眺めていた。

「ぬはは! こわっぱ共! 妾から逃げられると思うなよ! ぬはははは」


 鬼ごっこの鬼を任された、本物の鬼が子供達を追っていた。

 そんな様子を眺めていた。

「ああ……。愛らしい」

 突然の声にギョッとし、隣をみる。


 いつの間にかに隣で座り、子供達と遊ぶスズカを見つめている。ヒカゲがいた。

「……あの」

 熱い視線を送り続けるヒカゲにアステルが声を掛けた。


「失礼。あまりにもスズカ様が可憐で愛おしく思う気持ちがつい溢れ出てしまいました」

「そう、ですか……」

「ええ」

 沈黙。暫く二人でスズカを眺めた。


「スズ、早すぎ……」

「ぬはははは!」

 子供達が手を膝につき、肩で呼吸する中、腰に両手を当て胸を張り笑う。


「妾はもう行く」

「え? もう行っちゃうの?」

「うむ、仕事があるのでな。すまんな」

  スズカの小さな手が、ポンポンと、優しく子供の頭を叩く。


「ええー。いつもはラセツ兄ちゃん達に押し付けて、仕事サボってるじゃん」

「ぬはは! 中々言うではないか」

 笑いながら、子供の背中をパシパシと叩く。


「怪我なく、元気に遊べよ」

「はーい」

 スズカが子供達に手を振りながら近付いてくる。


 隣に座っていたヒカゲが、スッと。立ち上がり、長椅子の上を払った。

 それを見ながら、アステルも立ち上がった。

 そして、近付いてきたスズカに対し、こちらへ。とヒカゲが手を長椅子へと差し出した。

 そこにスズカが座り、トントンと。アステルを見つめ、長椅子を叩いた。


 促されるがままに、アステルは腰を下ろした。

「さて、何かわかったか?」

 スズカはヒカゲを見上げた。


「賊が数人の子供を攫い、身代金を要求しているようです。あの者の子供も恐らく」

 スズカの眉がピクッと、少しだけ動いた。

「根城はすでに捉えており、ご命令があれば、我ら影が潜入し無力化可能です」

 淡々と言葉を続ける。


「いや、良い。妾が出る」

「承知しました。……それとは別件ですが、どうやら巷では神隠しが起きているようです」

「神隠し?」

 スズカが首を傾げた。


「はい、夜に童歌が聞こえ、人が消える。その様な事象が確認されました。それに乗じた人攫いでしょう」

「……そうか」


 童歌と共に人が消える。

 百鬼夜行の前兆、童歌。神隠しにあった人々はきっと、幽世に引き摺りこまれたのだろう。


「一先ずは……。迷子の子供を迎えに行くとでもしよう」

 そう言うと、スズカが立ち上がった。

「アステルよ、すまないが。一緒に来てくれ」

「……はい」


 アステルは静かに頷き立ち上がった。

 しかし、ここにはシリウスとフェリスが居ない。

 その為、風の魔力を使うことはできない。


「賊の数は?」

「二十弱です」


「そうか。妾達が根城に入ってから五分……。いや、三分が経った頃合いに兵を突入させろ。その頃には全て終わっているだろう」


 城下町、カグラの都から少し離れた山の中。

 賊が根城にしているという洞窟前。

 アステルは甲羅の欠片を取り出し、魔力を込めた。


 朱色の魔法陣が生成され、光り輝く。そして、小さな河童の子供。ヒスイが姿を現す。

 キュッ。と手に持ったきゅうりを高々と掲げ上げ、トテトテと歩きだし、コテッと転んだ。

 そんなヒスイを優しく抱え上げ、自身が身に纏う、漆黒のローブのフードの中へと入れた。


「ほお……。河童か、その成りはナガレの所か」

「ナガレさんを知っているのですか?」

 河童の里の長、ナガレ。カグラに迷い込んだ際、最初にお世話になった方だ。

 

「うむ、あの者の里は人を襲わない河童で形成されておるからな。しかし、あやつの里の河童はいつ見ても弱そうだ。……見た目は可愛いがな」

 そして、スズカは洞窟の中へと足を踏み入れた。


「御用改めであーる」

 ズドンと、木の枠組みで作られた簡素な扉を、スズカが蹴り飛ばした。

「な、なんだ!? てめえら!?」

 賊が慌てふためく。


 しかし、二人の少女を見て、すぐに落ち着きを取り戻した。

「んだぁ? ここは嬢ちゃん達の様なガキが来るところじゃねえぞ」

 あんあん? と顎を上下に揺らしながら、男が一人近付いてきた。


「子供はカグラの宝だ。それ即ち、妾の宝も同然だ」

 威嚇しながら近付いてくる男に臆することなく、スズカが口を開いた。

 あぁん? と腰を曲げ、顎を引き顔面をスズカに突き出す。


 スズカの足が朱色に魔力に包まれ。突き刺さるような蹴りが、男を吹き飛ばす。

「どけ、賊風情が妾の前に立ち塞がるな」

 一度落ち着きを取り戻した族達は、再び慌てふためく。


「こ、こいつ。よく見たら、鬼の姫様じゃねえか!」

 男達は武器を取り出し、構えた。

「へっ。こんな所に丸腰で来るなんざ舐めてんのか? 。とっ捕まえて、城に帰してやるよ。莫大な金は貰うがな!」


「ぬしらの様な、汚れた賊の血で妾の刀を汚したくないのでな。そのなまくらを借りよう」

 切り掛かって来た男の手首を掴み、無理やり捻じ曲げ、刀を奪い取り、蹴り飛ばした。

 そして、刃こぼれをしている刀を静かに、賊達に突き付けた。

「民を傷つける者、泣かせる者は万死に値する。我らカグラの守護者の逆鱗に触れた事、後悔しろ」


 アステルは黎明色の魔力で剣を生成した。

「ちゃんと捕まっててね」

 フードの中に鎮座するヒスイに視線を向けた。

 キュッと、小さく鳴き。きゅうりを握りしめながら、小さな手でフードを掴む。


 河童の子供、ヒスイの朱色の魔力を借りる。

 鬼属性の魔力は、人の身を壊す程の身体能力の大幅強化。

 子供の為、魔力量自体は多くはないが、それでも、身体への負担はある。


 朱色の魔力が、アステルを優しく包み込んだ。

 ドッと、踏みしめた大地を蹴る。

 男の視界に閃光が迫る、瞬き一つ。開いた瞬間、拳が男の顔面を襲った。


 殴った瞬間、腕の骨が軋む。

 アステルは手首を振った。

 何度も殴打を使えば、骨が折れる可能性がある。


「くそ! お前らボサッとしてんじゃねえ!」

 男が声を荒げる。

 そして、賊たちの身体を朱色の魔力が包み込んだ。


 カグラの住人。大小はあれど、その身には鬼属性の魔力が宿っている。

 先ほどまでと動きが違う賊。激しい攻防が起きていた。


 アステルは黎明色の魔力で作った剣を様々な形態へと変化させる。

 槍、薙刀、大剣と変える事で、相手を翻弄し。

 スズカは圧倒的な身体能力で、舞い踊るように一人、二人と次から次へと切り伏せていく。


 激しい騒音が、やがて少しずつ静まっていく。

 一人、二人と。賊が力なく地面へと伏せていく。


「お、おい! 武器を置け!」

 声がした方を見ると、男が一人の子供の喉元に小刀を突き付けていた。

「……下衆が」

 スズカの口から今まで聞いたことがない程の、低い声音が静かに響いた。


 その瞬間、ボッと凄まじい程の朱色の魔力が、スズカから溢れ出て、洞窟内に充満する。

 一歩、一歩。男へと近付く。その地に足跡を残す。

 「く、くるな!」

 男が子供を抱えながら、後ずさりをした。


 スズカの鋭い眼光が、男を貫く。

 しかし、その歩む足を止め。手に持つ刀を男の足元へと放り投げた。

「へ、へへ。それでいいんだよ」

「……時間だ」


 男の背後に音もなく影が現れ、喉元に小刀を突き付ける。

「その子を離せ」

「ひっ……」

 ヒカゲがそう囁くと、男は小刀を落とし、子供から手を離した。


「スズ!」

「うむ、怪我はないか?」

 子供が走り、スズカへと抱き着き。それをスズカが受け止め、優しい声音で言った。

 同時に兵が洞窟内に突入して来た。倒れている賊を拘束していく。


 アステルが鬼属性の魔力による身体能力強化を解除する。

 一気に身体に重りが圧し掛かるような気怠さが襲う。

 フードからヒスイを抱え上げ、地面にそっと優しく下す。

 キュッと鳴き、ギュッと握るきゅうりを突き上げた。


「ありがとうね」

 アステルは微笑み、ヒスイの頭を優しく撫でる。

 そして、光り輝き。元の場所へと帰っていった。

 

「茶でも飲みに行くとでもするか」

 全てを兵に任せたスズカが近付いてきて、そう言った。


 夕暮れの城下町。一軒の茶屋でアステルとスズカは休んでいた。

 目の前には茶色い茶菓子と温かいお茶。

 スズカは茶菓子を一口サイズに切り、口へと運ぶ。


「んー……!」

 スズカが喉を鳴らし、満面の笑みを浮かべた。

 アステルは視線を降ろし、その四角い、薄衣に包まれた餡を見つめた。

「きんつばだ。妾の好物でな、ぬしの口に合うといいが」


 アステルはスズカの動きを真似、一口サイズに切り分け。口へと運ぶ。

 甘い。しかし、さっぱりとした上品な甘さ。

 どうだ? とスズカが顔を覗かせる。

「美味しいです」


「そうだろう、そうだろう。ぬはは」

 スズカは笑い、再びきんつばを口へと運んだ。

 そして、んー。と喉を鳴らした。

 それを見つめながら、アステルは静かに、温かいお茶を喉に流し込んだ。

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