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49話 王の背中とお茶菓子と

 スズカの後ろを歩き、宴会場の前まで来ていた。

「む、アオバと……カインだったか?」

 スズカは立ち止まった。目の前には、鬼のアオバとカイン。そして、シルヴィとツヴァイが居た。


 二匹はアステルを見て、ゆっくりと近付いてきた。

 ツヴァイは礼儀よくその場に座り、シルヴィは尻尾を振りながら、前足を上げ、アステルに体重を預け、アステルがそれを受け止める。


「皆さんお揃いで、お風呂ですか?」

 アオバがスズカ達を見渡した。普段とは違う、礼儀正しさにカインはギョッとアオバを見た。

「うむ、裸の付き合いって奴だ。ぬはは」


 スズカは襖を開けた。大広間は既に宴の準備は終わっており、臣下達は静かに座っていた。

 その中央、臣下達の眼前を、スズカは自信に満ちた足取りで堂々と、歩いていく。

 その背中を見届け、アステル達は横に逸れ、臣下達の後ろを歩いた。


 そして、スズカは大広間の一番奥の席に腰を下ろした。

 アステルは女中に指定され、スズカの左前の席に腰を下ろす。

 対面の席にはラセツが座り、その隣はユキノ達カグラの民だ。


 スズカが酒の注がれた盃を手に取り、天高く、掲げた。

「今宵は宴だ。仕事の事など忘れて、浴びる程呑め、食って楽しめ。女中の皆々共も、だ。適度にサボって楽しむのだ。宴は皆で楽しむものだからな。ぬはは」


 臣下達が一斉に盃を突き上げ、城が揺れ動く程の声を上げた。

 アステル達はその空気に飲まれていた。しかし、そこには確かに感じた。スズカの王としての器、カリスマ性を。

 民から敬愛され、臣下達が忠誠を尽くす。確かなる理由が、そこには在った。


 スズカは盃に口をつけ、グビッと喉に流し込んだ。

「ぷはぁ……。ぬははは!」


「すげえな……」

「だねぇ……」

 喧騒の中、カインが声を漏らし、フェリスが同意する。

 アステル達四人は、苦笑いを浮かべる他なかった。


 目の前に用意された豪勢な料理を、アステル達は口へと運んでいく。

 周りは騒がしいが、アステル達は静かに食べ進めていた。

 スズカは楽しそうな臣下達を見て、酒を呑み、そして笑う。


「うまいか?」

 声を掛けられ、アステル達はスズカを見た。

 答えは聞かなくても分かっている。とでも言いたげな表情をしていた。

「はい、とても」


「ぬはは、当然だ。民が育てた野菜、米。そして、綺麗な川で採れる魚。美味いに決まっている」

 グビッと呑み、息を吐いた。


 そうして、騒がしい宴が進んでいく。

 スズカの言葉通りに、女中達も部屋の隅で、酒を呑み、この時間を楽しんでいた。

 

 臣下達は顔を赤らめている。アステル達の前に座る、ラセツとアオバも少しだけ赤い。そして、ユキノ。雪女である彼女の白い肌は真っ赤で、ラセツ達に絡み、セツナがあわあわとしていた。

 それを見て、スズカが笑い。酒を呑んでいた。


 アステルが静かに立ち上がり、その場を後にした。

 縁側に出れば、夜の月に桜が舞っていた。宴の喧騒が、微かに聞こえる。

 縁に腰を下ろし、夜風に当たりながら、桜を見ていた。


「流石に疲れちゃうよね」

 横に目を向けると、いつの間にか、シリウスとフェリス、カインが並んで座っていた。

「そうだね」

 と、アステルが苦笑いを浮かべる。


 静寂、四人が桜と月を見ていた。

 決して騒がしい性格をしていない四人にとって、この静寂の方が居心地がよく、落ち着くものだった。

 足音がして、アステル達はその方向を見た。

 疲れ果てたセツナがいた。


「セツナ……」

 気まずそうな声で、カインがその名を呼ぶと。セツナがカインを見る。

 一瞬だけ目を伏せ。そして、一つ深く呼吸をし、ギロッとカインを睨んだ。

「なに?」


「え、な。なんでもない」

 突然突き刺さるような視線を浴び、カインは顔を伏せた。しかし、その表情は恐れ等ではなく、どこかホッとしたような。そんな表情をしている。


「もう大丈夫なのかよ」

 隣に腰を下ろすセツナを見ながら言った。

 数日間、気を失っていた。そんな彼女を案じる。


「自分の状況みてからいいなさいよ」

 ぺちっと、包帯で固定された腕を、セツナが軽く叩いた。

「なっ、なにすんだよ!?」

 叩かれた場所を、割れ物を撫でるように、優しく摩る。


 そんな二人を見て、アステル達三人は微笑んだ。

 セツナが目覚めた時は、ギクシャクしていたが、その問題はもう大丈夫そうだ。


「む、見ないと思ったらここにいたのか」

 しばらく五人で並び、夜風を浴びていた。

 すると、声がした。振り向くとそこには、沢山のお茶や菓子を抱えたスズカが立っていた。

 アステル達が立ち上がろうとすると、「そのままで良い」とスズカが静止する。


「宴は合わんかったか?」

「いえ、ただ。賑やかな空間に慣れていなくて、夜風を浴びていました」

「そうか、まあ。妾も宴はそんなに好きではないがな」

「そうなんですか?」


 凄く楽しそうに笑いながら酒を呑んでいた気がするが、意外だった。

「いや、それだと少し語弊があるかも知れぬが……。妾は皆が楽しそうにしている所を見るのが好きなんだ」

「そうでしたか。それで、それを持ってどちらへ?」


「ベンケイの所と屯所にな。多くの兵は緊急時に備え、宴には参加しておらんからな。せめて一緒に茶でも飲もうかと思ってな」

「運ぶの手伝いましょうか?」

「いや、良い。これは妾が好きでやっている事だ。ぬしらは休むと良い」


 そう言うと、スズカはぬははと笑いながら去っていく。

 アステル達はその背を見届け、暫くの間夜風を浴び、月に照らされる桜を見続けた。

 そして、宴会場に戻る。酔い潰れたユキノは静かな寝息を立て、その横でアオバとラセツが語り合っていた。

 

 数時間が経つと、ぬははと笑いながら襖をガバッと開けて、スズカが戻ってくる。

 騒がしい夜が、遅くまで続いた。

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