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46話 鬼の姫

 アステル達は歩き続け、一晩の野営をし、もう少しで都が見える所まで来ていた。

 鬼幻界カグラの中心にあるという、大きな桜の木はすでにその目に映っていた。

 距離はまだあるというのに、その大きさがわかる程に存在感があった。

 

 都に近くなるにつれ、道が整備されたものになり、すれ違う人の数も多くなってきた。

「都ってどんな所なんだろうねぇ」

 フェリスが尻尾を左右に振りながら言った。

「スズカ様が住む城があり、栄えている事を除けば他の里と変わりはない。普通の都だ」


 前を歩くラセツが答えた。

「いや……。それはわかってるけど」

 フェリスが眉を潜めた。

 そういうことを聞きたいんじゃないんだけど。と肩を落とす。


「見えてきたぞ」

 肩を落としていたフェリスから、視線を上げ、前を見る。

 里全体を覆い尽くす程の巨大な桜、花が舞い散り、木の麓にはスズカが居ると思われる城が、ここからでも見えた。


 「……綺麗」

 アステルが思わず、言葉を漏らした。

 この世界の住人ではない、アステル達四人はその光景に目を奪われた。

 その様子を見た、ラセツ達が微笑んだ。


 都の門を潜り、歩いていく。

 活気にあふれ、人が行き交う。その中には、鬼等の人を襲わない妖怪も当たり前のように、そこにはいた。


 子供たちが種族問わず一緒に遊び、笑っている。

 大人たちも同様に、種族を問わず、共に過ごしている。

 アステル達の世界、フォレスティでは、見なかった景色。


 整えられた石畳の道を、ラセツの後ろをついて歩いていく。

 遠くからでも、その存在感を感じていた巨大な桜が、ますます大きくなっていく。


 城門の前、身の丈が三メートル程の大きな鬼が、橋の中央に鎮座していた。

 「弁慶、スズカ様は?」

 ラセツがベンケイと呼ぶ、大鬼の前で立ち止まった。


「城下町の視察に出ている」

「……本当か?」

 ラセツを見下ろし、不愛想にベンケイが答えた。しかし、その答えに納得できないのか、ラセツが問い返す。


「ああ」

 変わらない答えに、ラセツはため息を吐き、振り向いた。

「すまないが、スズカ様を探しに行こう」

「わかりました」


 アステルが頷いた。

「ごめんなさい、私とセツナは城の中で待ってていいかしら」

 ユキノが申し出た。

 

 ツヴァイの背の上で、気を失っているセツナを連れ歩く訳にもいかない。

「もちろんだ」とラセツが頷く。

「ありがとう」とユキノが門を潜っていき、シルヴィとツヴァイそして、アオバもその後に続いた。

 

 城門から離れ、城下町を歩く。

「視察なら待っていれば戻ってくるんじゃないですか?」

 カインが周りを見ながら、ラセツに聞いた。しかし、ラセツはため息を吐いた。

「本当に視察ならな」


 アステル達は首を傾げた。

 ラセツの後を追い、城下町を歩き続ける。

 探す。という割りには、その足取りには迷いがなく。居場所を知っているかのように、歩いていた。


 そうして、辿り着いたのは広場。

 店が並び、様々な種族の子供達が、気軽に遊べるような開けた場所。

「……? ここにいるんですか?」

「ああ」

 

 アステルが首傾げながらラセツを見る。ラセツは広場全体をじっくりと見渡していた。

 アステルも、周囲を見渡した。

 子供達の集まり、鬼や妖怪等が入り混じっているその中に、一人だけで装いが異なる鬼の少女が目に留まる。


 派手ではないが、綺麗な着物を身に纏う少女。

「ぬはは! 甘いぞ、わっぱ共!」

 声を高らかに笑い、鬼ごっこをしているのか、全力で逃げている。

 しかし、鬼の姫とすれば、小柄の子供のように見える。多分違うだろう。


「待ってよ、スズ!」

 一向に追いつけず、肩で息をする子供。

 ……スズ?

 

 ラセツがスズと呼ばれた少女に向かっていく。

 そして、振り向きながら走っていた少女が、ラセツと衝突した。

「おっと、すまない。よそ見を ――」

 少女がラセツを見上げ、固まった。


「ラセツ兄ちゃんだ」

「すまないが、少しだけスズカ様を借りていいだろうか?」

 優しい声音で、ラセツが言うと。「いいよ」と、子供達が離れて行った。


 スズカがため息を吐き、身なりを整えた。

「なんで、ぬしがここにおる。ベンケイが話したか?」

「ベンケイはいつも通り、視察に出ていると」

「他に言葉を知らぬのか、あやつは……」


 スズカはぽりぽりと頭を掻き、ラセツの後ろに立つアステル達を覗き込む。

「例の異邦人か?」

「はい」


 ゆっくりと、アステル達に歩み寄る。カラン、カラン。と下駄が鳴り響く。

 小柄の鬼。フェリスといい勝負、あるいはもっと小さい。

 自然と見下ろす形になる。


 アステルをジッと見上げ、ニッと口角を上げた。

「いい目をしているな。名は?」

「……アステル」


「アステル……。異世界の言葉は知らぬが、いい名なのだろうな」

 そして、ゆっくりと。シリウス、フェリス、カインへと視線を動かした。

「スズカ様、ヒカゲから話を伺っていると思いますが」

「うむ……。名残惜しいが、今日は戻るとしよう」


 そう言うと、スズカは振り返り、子供たちを見た。

「わっぱ共! 妾は帰る、怪我せず、元気に遊べ!」

 大きな声でスズカが言った。


「はーい!」

「またね! スズ」

 子供たちが両手で手を振り、スズカもそれを返した。


 カラン、カラン。と音の後ろを、アステル達は歩いていた。

 町を行き交う人が、スズカ見て挨拶をする。

「今度またうちに食べに来てくださいね」

「うむ、またうまい飯を期待しておこう」


「随分と愛されてるんだな」

「みたいだねぇ」

 アステルの後ろを歩く、カインとフェリスが小声で話す。


「当たり前だ、民が居なければ国は生まれぬ。民が居なければ飯は食えぬ。恵みを貰うかわりに、妾が民を守り、愛する。その結果だ」


 先頭を堂々と歩き、前を真っすぐ見つめ、声を掛けてくる民、手を振る民、全てに一声を返し、手を振り返して歩く。

 小柄な身体、小さな背中。しかし、存在感は誰よりもあった。


「す、すみません」

「なぜ謝る?」

 聞かれているとは思っていなかったカインが、咄嗟に謝罪の言葉を口にした。

 しかし、スズカは立ち止まらない。振り返らない。


「失礼な事を言ったかも知れないと」

「民を傷つけぬなら気にはせん。だが……、民を傷つけるのならば、我らカグラの守護者が黙ってはいないがな」


 そうして、城門の前。ベンケイが鎮座する橋へと戻ってきた。

「ベンケイ」

 スズカがベンケイの前に立ち、両手を腰に当てた。

 三メートルはあろうかという巨漢の鬼と、その半分もない程の小柄の鬼の少女。


 ベンケイが静かにスズカを見下ろし、片膝を地面に付けた。しかし、依然として頭の位置はベンケイの方が高い。

 スズカはベンケイの顔を真っすぐ見上げた。


「おぬし、また視察に出ていると答えたらしいな。お陰で見つかったではないか」

「申し訳ございません」

 静かにベンケイが謝罪した。

「まあ、よい。今に始まった事ではないからな。ここを頼むぞ」


 ベンケイは静かに頭を下げた。

 それを見届け、スズカがベンケイの横を通り過ぎ、城への門を潜っていく。

 アステル達もその後を追い、ベンケイの横を通り過ぎた。

 山のように圧迫感のある体躯、しかし、そこには威圧感等はなく、優しさを感じた。


「スズカ様、ユキノ達を呼んで来ますので、先にお戻りください」

 城門を潜った後、ラセツが口を開いた。

「そうか、行くぞ。アステル」


 ラセツが静かに一礼をして離れていくと、そこにはスズカとアステル達だけが残された。


 城の廊下を歩く。

「ラセツはどうだった?」

「……?」

 突然の質問にアステルが首を傾げた。


 スズカは立ち止まり、振り返り、アステル達を見た。

「妾も大概だが、あやつは若い。迷惑を掛けなかったか?」

「いえ、迷惑など……」

 アステルをジッと見つめる。


「父上、先代の王が死に、妾は王となった。その際に父上に仕えてた臣下は軒並み城を離れた。妾が王になる事を反対するものはいなかったが、若い者に仕えるのが嫌だったのだろうな」


 少しだけ寂しそうに語るスズカを、アステル達は静かに見つめる。


「ラセツは妾が子供の頃に見つけた奴でな。天涯孤独だった子供のあやつを、無理やり妾の臣下にしたのだ。本人はどう思っているかは知らぬが、妾の右腕って奴だな」

「そうですか」

「ぬ……。冷めてるな、ぬしは」


 スズカはため息を吐き、「まあ、よい」と振り向き、歩き出した。

「ベンケイは、先代から仕えている数少ない臣下だ。不器用で不愛想、その上あの巨漢。威圧感ぱねえって感じだろう?」

 ぱねえ……?


「だが、優しい奴でな。子供の頃、勉強やら鍛錬やらを逃げ出す際に、手助けをしてくれてたのだ。その時から、視察に出ている。という嘘は変わらない。ずっと、同じ嘘だから協力している事がバレてな。妾が逃げ出し、見つかる度に一緒に怒られたものだ」

 

 冷たい、ひんやりとした木製の床を歩き続ける。

 そうして、一つの部屋へとたどり着く。

 部屋の一番奥は、数段上がっており、綺麗な装飾品がぶら下がっている。


 スズカは畳の上を歩き、玉座へと近づいていく。

 すると、四方の入り口から、様々な人種の臣下が姿を現した。


 一歩、一歩と段差を静かに上がり。玉座に腰を下ろし、足を組んだ。

 玉座の傍に立っていた臣下が、盃を取り出し、透明な液体を注いだ。

 その盃を手に取り、口にする。


「楽にするが良い、客人よ。ぬしらも呑むか?」

 スズカが不敵な笑みを浮かべ、盃を軽く上げた。


「なりませんよ」

 声がし、アステル達が振り返ると、そこにはラセツが立っていた。

「彼女達は子供です」

「む……。そうか」


 再び盃に注がれた酒をスズカが呑んだ。

 ラセツが部屋へと入ってくる。

 シルヴィとツヴァイ、アオバとユキノ。そして、セツナが部屋へと足を踏み入れた。

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