45話 分かち合う魔力
冷たい朝に、アステルは目を覚ました。
身体をムクリと起こし、周囲を見渡すと。皆がまだ眠っている中、一人だけ起きている人物がいた。
アオバと共に寝ずの番をしてくれていたラセツだ。
「おはようございます」
「随分と早いな。もう少し寝ていても構わないぞ」
「いえ……、残りは私が見ます。ラセツさんももう少し休んだ方がいいです」
白い灰の中、今にも消えそうな火の前に腰を下ろした。消え行く火、しかし、仄かに温かさを感じる。
「しかし……。一人で大丈夫か?」
子供扱いされている事に、アステルは苦笑いを浮かべた。
「大丈夫です」
「そうか。では、少しだけ休ませてもらおう」
そういい、横になったラセツを見届けた後、燻っている焚き火を見つめた。
夜が残る青い空、月が沈んでいき、太陽が昇っていく。
冷える朝に、アステルは膝を抱えた。
そういえば、とアステルは思い出した。
昨夜は一刻も早く、都に行く為に鬼であるラセツに抱えられ、身の毛もよだつ程の速さで夜を駆けてここまで来た。
その際に、馬車と共にシルヴィをラセツの部下に預けていた事を。
アステルは腰に付けていた、シルヴィの毛から作ったチャームを握りしめた。
青白い魔法陣が生まれ、光輝き、そしてアージェントウルフのシルヴィが姿を現した。
ワンッ。と鳴く、シルヴィの頭を撫で、人差し指を唇に当てた。
シルヴィを足の間に入れ、ギュッと抱きしめた。
ふわふわの銀色の毛と暖かい体温を全身で感じた。風が吹き、灰色の長い髪が、揺れる。
大地を踏みしめる音が、静かに二つ。近付いてきた。
顔を向けると、そこにはシリウスとフェリスが立っていた。
「おはよう。二人とも」
「おはよう」
「んー……、おはよ……」
シャキッとしているシリウスに対し、フェリスは眠そうに目を擦っていた。
そして、アステルを挟み、地面に腰を下ろした。
「まだ出ないから、眠いなら寝てたら?」
肩に乗せられた猫耳が生えた黒髪の頭の重みを感じつつ、アステルが優しい声音で言う。
「んー……」
寝ているのか、起きているのか。曖昧な返事が返ってくる。
静かな朝に、三人の背中が並ぶ。
緩やかに登り行く、優しく、暖かい陽が三人と一匹を照らした。
しばらくして、皆が起きてきた。
野営の片付けをし、出立の準備を終える。
「お前達はどうするんだ?」
ラセツが静かに、アオバ、そして、膝の上でセツナを眠らせているユキノを見た。
「里に戻るにしても、都を通らねえと行けねえからな、このままついていかせて貰う」
そう言いながら、依然、意識が戻らないセツナを優しく抱え上げようとした。
「だったら、セツナさんは任せてください」
アステルがそう言うと、アオバが困惑した。
「いや……、女子供に持たせる訳にはいかないだろ」
「ああ、私が運ぶんじゃなくて ――」
アステルが腰に付いたもう一つのチャームを握った。
すると、先ほどと同様に青白い魔法陣が生成され、そこからもう一匹のアージェントウルフ。ツヴァイが姿を現した。
「この子が運びます」
シルヴィよりも二回り程逞しい体躯を持つツヴァイを優しく撫でた。
シルヴィも人を乗せて走れる位には、身体も成長し、力も強くなった。しかし、まだ大人ではなく、成長段階。長距離の移動には向いていない。
「なるほどな、頼りになる仲間がたくさんいるんだな」
アオバはセツナを優しく持ち上げ、ツヴァイの背に乗せた。
「よろしくね」
アステルがツヴァイの頭を撫でた。真っすぐな鋭い瞳、しかしその奥には確かな優しさを持つ瞳が、アステルを見つめ、静かに立ち上がった。
「では、行こうか」
その様子を見ていた、ラセツが静かに言い。前を歩きだし、アステル達はその後を追う。
「都までどれくらいなの?」
フェリスが前を歩くラセツに聞いた。
「ここから徒歩だと、一日歩けば着くだろうな」
「一日かあ……」
アステルの隣でフェリスが肩を落とした。
「俺、セツナと契約しましたけど。鬼属性と氷属性の魔力が使えるんですかね?」
カインがそういえば。と口を開いた。
「氷属性?」
アステルが首を傾げた。
鬼属性以外にもこの世界に存在する事を初めて知った。
「私達雪女は、鬼属性の他に氷属性を持っているけれど、カイン君が使えるのは鬼属性だけね」
「鬼属性だけかあ……」
ユキノの言葉に、カインが少しだけ残念そうにする。
「召喚獣が契約者に貸し出せるのは、召喚獣の主となる魔力だけ。私達はあくまでも、鬼属性を主としていて、種族の特性である氷属性は別ものなのよ」
シリウスとフェリスみたいなものか。
シリウスとフェリスは風属性を持っている。しかし、アステルと契約した事で、シリウスは火を、フェリスは水の魔力を持っている。
だが、主ではない火と水の魔力をアステルは扱えない。
「へぇ……。そういえば、昨日シリウスさんとフェリスも火と水を使ってましたよね。二年間一緒に過ごしてたけど、風以外も使えるなんて知らなかったな」
「私達は使わないようにしてるからね。知らなくても仕方がないよ」
シリウスが答えに、カインが首を傾げた。
「私達が火と水の魔力を使うには、アステルの無属性魔力を媒介にしないと使えないんだよ。つまり、アステルの負担になるってこと。だから、使わないの」
シリウスの言葉に続くように、フェリスが口を開いた。
「私は気にしないんだけどね。私も二人の風属性の魔力を借りて、魔術を扱う訳だから」
アステルは歩みを止めず、当然のようにそう言った。
「へえ……」とカインはボケっとしながら歩く。
そんなカインを横目で見て、アステル達三人は苦笑いを浮かべた。
心地よい風が吹く都への道を、アステル達は歩き続けた。




