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41.5話 冬を背負う

 カイン達は幽世を歩き続けていた。

 妖怪が跋扈している世界というわりには、異常にまで静かで、赤い月と宙に浮かぶ岩等を除けば普通の道だ。


 ここに来てから随分と歩いた。目の前には、幾つもの鳥居が建っている。しかし、それは全て逆さまだ。

「この鳥居なんですかね?」

 カインが鳥居を見上げながら首を傾げた。


「本来は神聖な門である鳥居が逆。となれば、良いものではないわね」

 ユキノが静かに答えた。

 通りたくないなぁ……。

 しかし、先頭を歩くシリウスが、何も気にせず歩き出した。


 幾つか鳥居を通り過ぎた。カインが隣を歩くセツナを見ると、苦しいのか、肩で呼吸をしている。

「みんな、ゴメン。ちょっと用を足してきていいですか?」

 前を歩くシリウス、アオバ、ユキノが振り向いた。


「うん、いいよ」

 シリウスがチラっと、カインの隣に立つセツナを見て、頷いた。

「あまり離れすぎるなよ?」

 アオバの言葉に「はーい」と答えながら、脇道の森へと足を踏み入れた。


「ふう……」

 実際、限界だったのは事実だ。静かな森に、水の音がちょろちょろとせせらぐ。

 しかし、セツナは一体どうしたのだろうか。

 ただ単に疲れただけとか、そういう感じには見えなかった。


 ちょろちょろと、まだ出る。まだまだ出る。

「おお、マジかよ……」

 自身の器の大きさに驚く。人体の不思議だ。

 そうして、ようやく出し切ることが出来た。


「新記録だな……」

 晴れやかな顔でカインは身なりを整え、皆が待つ場所へと戻った。


「随分と長かったな?」

「いやぁ、新記録出ました」

 森から抜けると、アオバが苦笑いしながら出迎えた。


 セツナの方へ視線を向けると、ユキノが寄り添っていた。

 それを見つめていると、シリウスが近付いてきた。

「ちゃんと手洗った?」

「え、いや……」


 どうやって洗えと?

 困惑しているカインを見て、シリウスが軽く微笑み。真剣な眼差しへと戻った。

「早くここから抜ける方法を、探した方が良いかもしれないね」

「そんなに悪いんですか? あいつ」


 三人はセツナを見つめた。

「パンドラの夜はどういう夜?」

「え、赤い月で、魔物が狂暴化する夜……」

 シリウスから降りかかる突然の問いに、カインが答えた。


「んー、……もう一声欲しいかな?」

「魔力が活性化して、耐えられない魔物が狂暴化する夜……。まさか――」

「うん、魔力の器が限界に近いかも」

「あいつも狂暴化するって事ですか?」


 シリウスが少しだけ考え込み、カインとアオバは目を合わせた。

「その可能性は高いけど、どうなるかは分からない。どちらにせよ、早く抜けた方がいいかな」

「アオバさん達は大丈夫なんですか?」


 シリウスはパンドラの夜でも問題なく、行動ができることは知っていた。しかし、アオバとユキノがどうかはわからない。

 カインとシリウスがアオバを見つめた。しかし、アオバは肩を竦めた。

「わからねえ。今の所は大丈夫だけど、初めての経験だからな」


「なるほど……。じゃあ、尚更先を急ごう」

 シリウスの言葉に二人は頷き、三人はセツナと彼女に寄りそうユキノへと、歩み寄った。


「大丈夫そうですか?」

 辛そうなセツナを見てから、ユキノの方へ視線を動かしたシリウスが聞いた。

「どんどん顔色が悪くなってて……」

 苦しんでいる妹を見て、何も出来ないのが歯痒いのか、ユキノの声が微かに震えていた。

 

「だい、じょうぶ。だから……」

「お、おい!?」

 セツナは立ち上がろうとした。しかし、足に力が入らないのか、バランスを崩し倒れかけたのを、カインが受け止めた。


「ちょっと、手。……洗ったの?」

「え、あ。うん……ごめん」

 カインはそっと座らせ、そっと手を離し、そっと俯いた。

 

 まさか、こんな時まで悪態をつかれるとは思っていなかった。ちょっと、ショック。ちょっとだけな。


「その様子じゃ、歩けなさそうですね。私が背負って歩きます」

「え、いや――」

 俺が背負う。と言い掛けたが、手を洗っていない。悪態をつかれるだけだろうと、カインはその言葉を飲んだ。


「女性に背負わせる訳にはいかねえよ。俺が背負うよ」

 アオバが名乗りをあげ、セツナがアオバをジッと見つめ。そして、その視線をカインへと向けた。

「カインが、背負って」


「は?」

 突然の指名にアホみたいな声が漏れた。

「いや、なの?」

「嫌じゃないけど……。手洗ってない……」


 セツナが小さくため息を漏らした。

「こんな所で、どうやって。手を、洗うのよ……。バカじゃないの?」

 ええ? そんな事ある?

「別にアオバさんでもいいだろ。力強いし」


 セツナが再び溜息を漏らした。

「弱い、方に背負って。貰った方が、魔物出た時に、いいでしょ」

 ……。まあ、確かに。

 その言葉を聞いて、アオバが鼻で笑った。


「わかったよ。俺が背負う、だけど文句は心の中に留めとけ。傷つくからな」

 膝をつき、背中を向ける。首筋に回された腕は驚くほど細く、そして、いつもより微かに冷気を感じた。

 雪女である彼女は、普段から冷たいが、いつもより冷えている。


「おねがいね」

「任せてください」

 自身の身体から体温を奪われていくのを感じつつ、ユキノの言葉に応じた。

 

 セツナと密接した部分が、痛いほどに冷たく、白く凍てつく。

 しかし、カインはそれを表に出すことはしなかった。

「落ちないように、しっかり掴まってろよ?」

「うっさい……」


 いつも通りの悪態に、カインはため息を吐いた。

 雪原にいるかのような白い息だった。

 カインは一歩踏み出した。

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