39.5話 はないちもんめ
三人で里を歩き、雪が降り始めた夕暮れ頃。三人はユキノの家へと帰った。
「ただいまー」
静かに扉を開けたユキノが室内へと足を踏み入れ、カインとシリウスも続いて入っていく。
「おかえり」と出迎えたセツナが、台所に立って晩御飯の準備をしていた。
そして、カインを見つめた。
「なんだよ」
「別に、もう出て行ったと思ってたから。カインの分だけないかもしれない」
なんで俺の分だけ?
カインとシリウス二人分がないなら分かるが、一人分だけないのはどうだろうか。
やっぱり、嫌われているのかな……。
飯抜きの危機に、カインは肩を落とした。
「じょ、冗談よ!」
あまりの落ち込み用に慌てるようにセツナが言い、プイっと顔を背け、料理の続きを始めた。
そんな二人のやり取りを見て、シリウスは首を傾げ、ユキノは微笑ましそうに見ていた。
「そっか、よかったよ……」
「うるさい! さっさと手洗いなさいよ!」
「え、ええ……」
あまりに理不尽に怒鳴られ困惑する。
カインは首を傾げながら洗面台へと向かった。
机を囲い、四人で晩御飯を食べる。
四人での食事はこれで最後だと、思うと少しだけ寂しさを感じる。
チラッとセツナの方を見ると、目が合った。そして、キッと睨まれ、カインはサッと視線を戻した。
こわ……。俺、なんかしたっけ……。
「ごめんね、カイン君。セツナったら昔から素直じゃない所があるから」
萎縮しながら食べているカインを見て、ユキノが言った。
「お姉ちゃん、余計な事言わないでよ!?」
セツナが大きな声を上げ、あらあらとユキノが微笑んだ。
そうして、賑やかに四人で食べる食事が終わりを迎えた。
台所で洗い物をしているセツナの元へ、カインが食器を運んで行った。
「今日もおいしかったぞ」
「なっ……。うるさい!」
「なんで!?」
パシャっと水を掛けられる。
うう……。とカインはトボトボと戻る。その後ろには、耳を赤くしたセツナの姿をシリウスとユキノは見ていた。
「ちょっと、外に出てくる」
しばらくして、洗い物を終えたセツナが手を拭きながら言った。
「あら? どこへ?」
「今日の狩りが大量だったとかで、それを貰いに広場まで」
「だったらついていこうか?」
「はぁ? なんでよ」
カインが提案すると、キッと睨まれた。
「いや……。夜だし……荷物持ち……」
睨まれ続けるカインの背がどんどん縮こまっていく。
「別に必要ないわよ。里から出る訳じゃないし、荷作りでもしてたら?」
そう言いながらセツナは出ていき、ピシャンと勢いよく扉を閉めた。
「まあ、お茶でも飲んで待ってましょ」
そういい、ユキノが三人分のお茶を用意した。
お茶を飲みながら三人で会話をする時間が、一時間を過ぎようとしていた。
「セツナ遅いですね」
ここから広場まで往復四十分程、多少の会話があったとしても、一時間が過ぎるのは遅い。
「そうね……。少し心配だわ」
「私が様子を見てきます」
「いやいや、シリウスさんが行くなら俺が行きますよ」
そう言いながら、シリウスが立ち上がろうとした。そんなシリウスを制止し、カインが立ち上がった。
その時だった。
―― ドーン
静寂を切り裂き、大地を揺るがすような音が響き渡った。
「……っ!? 今のは!?」
「広場の方から?」
カインは傍らにあった剣を、シリウスは刀を手に取った。
そして、三人は勢いよく家から飛び出し、雪がしんしんと降る里を走り出した。
広場に着くと、里の守り人達が、意志を持つように動く道具のような魔物と戦っていた。
「付喪神!?」
ユキノが動き回る魔物を見て言った。
カインが周囲を見渡した。そこには、セツナの姿と守り人であるアオバの姿が居ない。
「アオバたちは門の方にいる! そっちに加勢してやってくれ!」
カイン達の姿を見た、守り人の一人が声を上げた。
「りょーかい!」
カインが応じ走り出した。
付喪神を切り伏せながら、三人は門へと走っていく。
そうして、門へ近付いていくと何かが聞こえ始めた。
―― かってうれしい はないちもんめ
「う、歌?」
走りながらカインは首を傾げた。
その歌声は雑音が混じり、子供や大人。様々な声音をしている。
―― まけてくやしい はないちもんめ
門へ近付けば近付く程、その歌声は大きく、鮮明になっていく。
「……っ」
ユキノが拳を固く握りしめた。
―― あのこがほしい
―― あのこじゃわからん
「セツナ! アオバさん!」
「カイン! 来てくれたのか!」
セツナとアオバ、そして数人の守り人達が付喪神と戦っていた。
破れた傘、壊れた提灯。多様な道具が意思を持つように動く魔物達を、カイン達が切り伏せていく。
シリウスが風を纏う一太刀で一蹴し、雪女であるセツナとユキノが凍らせる。そして、鬼属性で身体能力が上がっているアオバが一網打尽にしていく。
―― そうだんしましょ
―― そうしましょ
魔物の群れが粗方片付き、静寂が訪れ、歌声だけが響いていた。
「この歌はなんですか?」
カインが一息付き、アオバ達に聞いた。しかし、アオバとセツナがわからないと、首を振った。
しかし、一人だけ。口を開いた。
「百鬼夜行の前兆よ」
「百鬼夜行?」
シリウスが首を傾げた。
「月が紅く染まり、活性化した妖怪達が人々を襲うの」
その言葉を聞き、カインとシリウスが目を合わせた。そして、二人とも同じ考えであると確信した。
パンドラの夜だ。
そして、静寂を切り裂くように、雪が降り積もる地面から、逆さまの鳥居が現れた。
―― きーまった
その声が響いた瞬間、鳥居から黒い手のようなモノが伸びた。
その手は真っすぐにセツナに向かっていく。
「セツナ!」
「わっ!?」
カインがセツナを突き飛ばすと、黒い手がカインの足を掴んだ。
そして、勢いよくその黒い手を引かれ、雪の中へ倒れた。
「ぐへぇ!?」
「カ、カイン!?」
カインとセツナの目が合う。その瞬間、黒い手が引き摺り込むようにカインを引っ張っていく。
「おわぁあああ!?」
カインの視界が飛ばされていく雪のせいで白く染まる。
「カイン!」
シリウスがカインを追うように走り出し、その後を三人が追っていく。
そうして、カインは逆さまの鳥居の中へと消えていく。
カインを連れ込んだ鳥居が消えようとした刹那、シリウス達四人も鳥居の中へと飛び込んだ。
残されたのはカインが引き摺られた後と静寂のみ。ただ、雪がしんしんと降り続いていた。




