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37.5話 雪の里の日常

 カインが雪の里に訪れ、数日が経っていた。

「おーい、カイン! 狩りに行くぞ!」

 薪割りをしていると、武器を持った人達に声を掛けられた。

「はい! 少し待ってください!」


 急いで薪割りを終え、カインは剣を持ち、男達に近付いた。

 雪女の性別違いの雪男、そして、彼らよりも更に武闘派にした雪鬼が集まっていた。

「今日も頼むぞ」

「はい」


 そうして、彼らと共に狩りへと行き。この里に帰ってくる。そんな日々が続いていた。

 しかし、何かを忘れている気がする。


「ただいまー」

 ガラガラと扉を開けた。

「おかえり。……じゃない!?」

 中へ入るや否や、セツナが声を荒げた。


「うわぁ!? なんだよ!?」

「馴染み過ぎじゃないの!?」

「いやあ、みんな良い人達でさぁ」

「そうじゃなくて、人探してるんじゃないの?」


「人……?」

 暫く考え、そういえばそうだった。と思い出した。

 カインはアステルやシリウス、フェリスを探しているの忘れていた。

 

「そういえば、そうだったな……」

 そんなカインを見て、セツナが溜息を吐いた。と言っても、手掛かりがない以上探しようはない。

「何かあればいいんだけどな」


「探してる人達はどういう人達なの?」

 カインが囲炉裏の傍に座り、暖まっているとセツナがお茶を持ってきた。雪女である彼女は、囲炉裏の傍は苦手なのか、少しだけ離れた所に座った。


「シリウスさんは獣人の亜人で、犬耳が生えた女性で剣術の先生だな。フェリスも同じく獣人の亜人で、猫耳が生えた女性だよ。魔術師だな。一応先生」

「一応?」

 セツナが首を傾げた。


「俺、魔力ないからさ。教われる事がなくてな。対魔術師用に相手してくれてた」

「魔力がない? カインの世界ではないのが普通なの?」

「いや、あるのが正常だよ。アステルさんが言うには、枯れてるらしい」

 カインはお茶を飲み、一呼吸をついた。


「アステルって?」

「俺の先生だよ。色々教えてくれた人だ。俺と違って召喚術師で、剣も魔術も使えて。召喚獣を大切にする人で、シリウスさんやフェリスの主人だ」

「カインとは違う? カインは召喚術師に教えてもらってるのに召喚術師じゃないの?」


「さっきも言っただろ。魔力がないからさ、召喚や魔術は出来ない。ただの剣士だよ」

「そうなんだ。でも、お姉ちゃんが言ってたけどな……」

「言ってた?」


 カインは首を傾げると、セツナが静かに頷いた。

「うん、チャーム持ってるから。多分召喚術師じゃないかって」

「チャーム?」

「うん」と頷き、セツナはカインの腰に付けられた、二つのチャームを指差した。


 そして、カインはそれを見つめ。固まった。

 銀毛のチャームと白毛のチャームを静かに見つめた。

 見つめ続けた。


「――!?」


 声にならない声を上げ、顔が歪んだ。

「わあ!? 変な顔で変な声上げないでよ!?」


 忘れていた。完全に忘れていた。

 もし逸れたらすぐにシリウスを召喚できるように、アステルがシリウスの毛から作ったチャームを持たせてくれていたことを。

 そして、頼りになる相棒、アージェントウルフのフィンフの事を。

 

 カインに魔力はない。しかし、このチャームはアステルの魔力が宿っている。その為、魔力がないカインでも召喚をする事が出来る。

 この世界に来て数日経っている。

 ま、まずい……。


「完全に忘れてた……。シリウスさんをすぐに呼ぶように言われてたのを……」

 白毛のチャームをカインは握りしめた。

「怖い人なの?」

「怖い? いや、怖くないよ。すげえ優しい人だし、怒った所みたことないかもな」


 アステルはシリウスにカインを託した。ということは、もし、全員が散り散りの状況でこの世界に来ていたとしたら。アステルはフェリスを呼び出し合流しているはず。

 すると、シリウスはカインと同じくずっと一人の筈だ。

 申し訳なさで冷や汗が出てきた。


 カインを見て、セツナが首を傾げた。

「早く呼んだら?」

「お、おお……」


 カインは立ち上がり、白毛のチャームを握りしめ、目を閉じた。

 チャームは輝き出し、カインの前に緑色の魔法陣が現れ輝く。

 そして、その輝きの中から一人の少女が現れた。

 白い長髪、白い犬の耳、白いふわふわの尻尾。そして、手には鞘に仕舞われた刀。


「……。遅かったね?」

「す、すみません! 忘れてました!」

 カインは勢いよく正座をし、手に平と頭をひんやりと冷たい床へと叩きつけた。

 そう、この世界での最高峰の謝罪。土下座だ。


「別に怒ってないよ。カインが無事で良かった」

「うぅ……」

 その優しさが返ってチクチクと刺さる。

 

 シリウスはカインを放って置き、周囲を見渡し、ちょこんと座るセツナと目が合った。

「あ、う……。こ、こんにちは……」

「……? こんにちは」

 シリウスが首を傾げ、挨拶を返した。


「ここは?」

「雪の里で、ユキノさんとセツナの家です。お世話になってます」

「そうなんだ」

 額を床に擦り付けながらカインが答えた。


 シリウスはセツナへと歩み寄った。

 カインは額を床に擦り付けたまま、シリウスの動きに合わせ、器用に身体の向きを変えた。


「カインがお世話になりました。ありがとうございます」

 シリウスが静かにセツナに頭を下げた。

「あ、いや……。偶々拾って連れてきただけだから、別に……」

 

 また野良犬扱いしやがって……。とカインがセツナを低い位置から見つめると、なによ? とキッと睨むように見下ろされ。カインは床を見つめた。


「仲良くしてもらっているようで良かったです」

 シリウスが微笑んだ。

「仲良くなんて……。ていうか、いつまでそうしてるのよ!?」

「申し訳なさで顔が見られないんだよ!」


「さっきも言ったけど、別に気にしてないから。頭を上げていいよ」

 優しい声音がカインに突き刺さる。

 おもむろに頭を上げると、額が赤く染まっていた。


「取り合えず、状況を教えてもらってもいいかな?」

「あ、はい」


 そうして、カインは状況の説明を始めた。

 鬼幻界カグラと雪の里。そして、お世話になった雪女のユキノとセツナの事を。


「そのユキノさんって方はどちらに?」

 シリウスが首を傾げると、セツナが答えた。

「お姉ちゃんは里長だから、里を見回ってるの。もう少しで帰ってくると思うけど」

「そうなんですね」


 シリウスはお茶を一口飲んだ。

 すると、扉が音もなく開き、ただいまとユキノが入ってきた。

「はあー疲れちゃった……。あれ……セツナ、また拾ってきたの?」

「ち、ちがう!」


 セツナはブンブンと首を左右に振った。

「この人は俺が呼んだ、俺の剣術の先生です」

「カインくんの先生?」

 ジッとシリウスを見つめた。


「シリウスと言います」

「あら、ご丁寧に、ユキノです」

 二人は頭を下げた。


「とりあえず……。ごはんにしましょう。お腹空いちゃった」

「あ、うん」

 その言葉にセツナが立ち上がり、台所へと向かった。


「シリウスさん、良ければゆっくりしてください」

「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」


 セツナが食事を用意する音が、心地よく響いた。

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