表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/86

36.5話 桜舞う雪原の白き案内人

 太陽が昇り、周囲が明るくなった。一面に広がる、白い雪が光に反射して輝いている。

 あまりの眩しさに、寝不足気味のカインは顔を背けた。


 雪原の洞窟。何もない環境で熟睡などできる訳もなく、焚火の近くでずっと、火を絶やさないように、寝て起きての繰り返し。

 熊の毛皮を毛布代わりにすることも考えた。しかし、臭い上に血も垂れる。四の五の言う状況ではないが、無理だった。


「どうしようかなぁ……」

 昨日の残りの熊肉を焼きながら、悩んでいた。

 目下の目標はアステル達の合流。しかし、どこに行けばいいのかがわからない。

 

 せめて人が居そうな所があればいいのだが。生憎なことにここは雪原。目に映るのは、白い雪と桜の森だけだ。


「よし……。いくか」

 熊肉を平らげ、ろくに休めていない重たい身体を持ち上げた。


 「とりあえず、森の中を進むか」

 そう呟き、桜の森をカインは歩き出した。


 雪を踏みしめる音だけが響く。

 暫く歩き続けても、見えるのは変わらず雪と桜。このまま、進んでもいいのかと。不安に思ってしまう程に景色が変わらない。


「まじで……どこだよ、ここは……」

 溜息を吐き、ボソリと独り言を呟いた。

 誰も答えてくれない。そんなことはわかっている。しかし、呟かずにはいられなかった。


「ここは都の北側だよ」

 そうそう、そういう風に誰かに答えてほしいんだ。

 ……ん?

 

「うわぁ!?」

「きゃぁ!?」

 気付けば隣にいた少女が、カインの大きな声に驚き、雪に尻もちをついた。


 「ご、ごめん。いきなりで驚いた」

 カインは手を伸ばした。

 白い髪、白い肌、白い着物にピンクの桜の刺繍。握られた手は、ひんやりと冷たかった。


「随分と冷たい手だな。お前も迷子か?」

「お前もって……あなたと一緒にしないで」

 掴んだ手を離し、着物に付いた雪を払い落とした。

 仲間がいたと思ったのに、少しだけ残念。


「迷子なら里まで案内してあげようか?」

「案内してくれるのか!? 助かるよ!」

「あ、うん」

 

 喜びのあまり、前のめりになるカインに気圧されながら、少女は頷いた。

「俺はカインだ。よろしくな」

 伸ばされた手を、少女はジッと見つめた。

「雪奈……」


 ボソッと言い、セツナは歩きだした。

 カインは無視された自身の手を見つめた。

 俺の手、汚いのかな……。

 ズボンで手を拭い、カインはセツナの後ろをついて歩きだした。


 セツナの背中は小さい。小柄で華奢、フェリスといい勝負だが、背はフェリスよりも小さいだろう。

 こんな子供が着物一枚で雪原を歩くなんて、貧しい里なのだろうか?

 しかし、寒そうなカインに対し、セツナは平然としていた。


「なあ、寒くないのか?」

「別に、丁度いいけど」

「ええ……。俺めちゃくちゃ寒いんだけど」

 風邪引いたのかな……。


「人間なら雪原は寒くて当然じゃないの」

「え、人間じゃないのか?」

「雪女だよ」

「雪女……? なんだそれ」


 カインは首を傾げた。

「妖怪の一種」

「妖怪……?」

 カインは再び首を傾げた。


 その様子を見て、セツナは深くため息を吐いた。

「ここは鬼幻界カグラ。私は、人じゃなくて雪女って種族」

「カ、カグラ?」

「何も知らないでこの世界に来たの!?」


 何も知らなすぎるカインに苛立ちが募ったのか、セツナは振り向き声を荒げた。

「わ、悪い。気付いたらいたんだ。っていうか、他所の世界から来たって知ってたのか」

「装いを見れば分かるでしょ。……こっちこそ悪かったわ」


 装い。確かに、見れば分かるか。とカインは納得した。

 そうして、静かになり。二人の間に気まずさだけが残ってしまった。

 二人分の雪を踏みしめる音が響く。


 暫く桜の森を歩き続け、森の終わりが見えてきた頃。目の前を歩く、セツナが立ち止まった。

 「あそこ、あたしが住む里」

 細く白い指で指さされた場所をカインが見ると、ようやく里が見えた。


「おお……」

 家がたくさん建っている。それだけなのに、何だか感動。

 里へと近付いていくセツナの後を追い、カインも里へと向かった。


「セツナ!」

 町へ入るや否や、一人の女性が駆け寄ってきた。

「っげ……。お姉ちゃん……」

「もう、また里の外に出てたの?」


 白い髪、白い肌、白い着物。そして、セツナを大人にしたような顔つき。しかし、セツナよりもどこか、物腰が柔らかそうだ。

「里の外は魔物がいるから、出ちゃダメって言ってるでしょう?」

「雪女だからそこら辺の魔物になんか負けないって!」


 そう言い合いをしている所をただ、カインは傍観していた。

 「所で……。そちらの方は?」

 視線をパッとカインへ向け、彼女は首を傾げた。


 つま先から頭の天辺まで、じっくりと見つめた。

「里の外で拾った」

「そう……。拾った!? 犬じゃないんだから、誰が面倒をみるの?」

 そんな野良犬を拾ってきたみたいな会話をするなよ。


「あの……。カインです」

「あら、ご丁寧にどうも。雪乃と申します」

 ユキノは丁寧に頭を下げ、釣られるようにカインもまた、頭を下げた。

 そして、ゆっくりとユキノは顔を上げた。


「疲れたでしょう? うちで休んで行ってください」

「え? いいんですか?」

「ええ。セツナ、ちゃんとお世話してね」

「わかってるよ!」


 そんな犬の世話みたいな会話をするなよ。

 そうしてユキノ達は歩き出し、カインもその後を追っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ