36.5話 桜舞う雪原の白き案内人
太陽が昇り、周囲が明るくなった。一面に広がる、白い雪が光に反射して輝いている。
あまりの眩しさに、寝不足気味のカインは顔を背けた。
雪原の洞窟。何もない環境で熟睡などできる訳もなく、焚火の近くでずっと、火を絶やさないように、寝て起きての繰り返し。
熊の毛皮を毛布代わりにすることも考えた。しかし、臭い上に血も垂れる。四の五の言う状況ではないが、無理だった。
「どうしようかなぁ……」
昨日の残りの熊肉を焼きながら、悩んでいた。
目下の目標はアステル達の合流。しかし、どこに行けばいいのかがわからない。
せめて人が居そうな所があればいいのだが。生憎なことにここは雪原。目に映るのは、白い雪と桜の森だけだ。
「よし……。いくか」
熊肉を平らげ、ろくに休めていない重たい身体を持ち上げた。
「とりあえず、森の中を進むか」
そう呟き、桜の森をカインは歩き出した。
雪を踏みしめる音だけが響く。
暫く歩き続けても、見えるのは変わらず雪と桜。このまま、進んでもいいのかと。不安に思ってしまう程に景色が変わらない。
「まじで……どこだよ、ここは……」
溜息を吐き、ボソリと独り言を呟いた。
誰も答えてくれない。そんなことはわかっている。しかし、呟かずにはいられなかった。
「ここは都の北側だよ」
そうそう、そういう風に誰かに答えてほしいんだ。
……ん?
「うわぁ!?」
「きゃぁ!?」
気付けば隣にいた少女が、カインの大きな声に驚き、雪に尻もちをついた。
「ご、ごめん。いきなりで驚いた」
カインは手を伸ばした。
白い髪、白い肌、白い着物にピンクの桜の刺繍。握られた手は、ひんやりと冷たかった。
「随分と冷たい手だな。お前も迷子か?」
「お前もって……あなたと一緒にしないで」
掴んだ手を離し、着物に付いた雪を払い落とした。
仲間がいたと思ったのに、少しだけ残念。
「迷子なら里まで案内してあげようか?」
「案内してくれるのか!? 助かるよ!」
「あ、うん」
喜びのあまり、前のめりになるカインに気圧されながら、少女は頷いた。
「俺はカインだ。よろしくな」
伸ばされた手を、少女はジッと見つめた。
「雪奈……」
ボソッと言い、セツナは歩きだした。
カインは無視された自身の手を見つめた。
俺の手、汚いのかな……。
ズボンで手を拭い、カインはセツナの後ろをついて歩きだした。
セツナの背中は小さい。小柄で華奢、フェリスといい勝負だが、背はフェリスよりも小さいだろう。
こんな子供が着物一枚で雪原を歩くなんて、貧しい里なのだろうか?
しかし、寒そうなカインに対し、セツナは平然としていた。
「なあ、寒くないのか?」
「別に、丁度いいけど」
「ええ……。俺めちゃくちゃ寒いんだけど」
風邪引いたのかな……。
「人間なら雪原は寒くて当然じゃないの」
「え、人間じゃないのか?」
「雪女だよ」
「雪女……? なんだそれ」
カインは首を傾げた。
「妖怪の一種」
「妖怪……?」
カインは再び首を傾げた。
その様子を見て、セツナは深くため息を吐いた。
「ここは鬼幻界カグラ。私は、人じゃなくて雪女って種族」
「カ、カグラ?」
「何も知らないでこの世界に来たの!?」
何も知らなすぎるカインに苛立ちが募ったのか、セツナは振り向き声を荒げた。
「わ、悪い。気付いたらいたんだ。っていうか、他所の世界から来たって知ってたのか」
「装いを見れば分かるでしょ。……こっちこそ悪かったわ」
装い。確かに、見れば分かるか。とカインは納得した。
そうして、静かになり。二人の間に気まずさだけが残ってしまった。
二人分の雪を踏みしめる音が響く。
暫く桜の森を歩き続け、森の終わりが見えてきた頃。目の前を歩く、セツナが立ち止まった。
「あそこ、あたしが住む里」
細く白い指で指さされた場所をカインが見ると、ようやく里が見えた。
「おお……」
家がたくさん建っている。それだけなのに、何だか感動。
里へと近付いていくセツナの後を追い、カインも里へと向かった。
「セツナ!」
町へ入るや否や、一人の女性が駆け寄ってきた。
「っげ……。お姉ちゃん……」
「もう、また里の外に出てたの?」
白い髪、白い肌、白い着物。そして、セツナを大人にしたような顔つき。しかし、セツナよりもどこか、物腰が柔らかそうだ。
「里の外は魔物がいるから、出ちゃダメって言ってるでしょう?」
「雪女だからそこら辺の魔物になんか負けないって!」
そう言い合いをしている所をただ、カインは傍観していた。
「所で……。そちらの方は?」
視線をパッとカインへ向け、彼女は首を傾げた。
つま先から頭の天辺まで、じっくりと見つめた。
「里の外で拾った」
「そう……。拾った!? 犬じゃないんだから、誰が面倒をみるの?」
そんな野良犬を拾ってきたみたいな会話をするなよ。
「あの……。カインです」
「あら、ご丁寧にどうも。雪乃と申します」
ユキノは丁寧に頭を下げ、釣られるようにカインもまた、頭を下げた。
そして、ゆっくりとユキノは顔を上げた。
「疲れたでしょう? うちで休んで行ってください」
「え? いいんですか?」
「ええ。セツナ、ちゃんとお世話してね」
「わかってるよ!」
そんな犬の世話みたいな会話をするなよ。
そうしてユキノ達は歩き出し、カインもその後を追っていった。




