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41話 童歌

 アステル達は宿に戻り、ラセツから百鬼夜行について説明をしてもらっていた。


「百鬼夜行は大昔、それこそおとぎ話になる程前の出来事だ。月が紅く染まり、妖怪の群れが人々を襲う」

「それって……」

 フェリスがアステルを見た。そして、アステルは頷いた。


「パンドラの夜だね」

「パンドラの夜?」

 聞き覚えのない言葉に、ラセツは首を傾げた。

 

 ラセツから受けた百鬼夜行の説明は、パンドラの夜に類似していると、二人は感じた。


 パンドラの扉から流入した、魔界の魔力の影響で起こる事象。紅い月と凶暴化した魔物。


 原初の召喚術師がパンドラの扉を封印したのは、おとぎ話と言えるほどの大昔。

 直接魔界の扉があったフォレスティは、扉の歪みから魔力が流入し続けていた為、パンドラの夜が起きていた。


 しかし、カグラでそれが起きていなかったのは、扉が封印されていた為。そして、今起きようとしているのは扉の封印が解けた為だろう。


 直接的な繋がりのない異世界にまで魔界の影響が及んでいる。もしそうなら、カグラだけではない。あらゆる異世界で、今この瞬間に同じ現象が起きている可能性がある。


 アステルはそれらを整理し、静かにラセツへ告げた。

「この世界が魔物を妖怪と呼ぶように、私たちの世界では百鬼夜行をパンドラの夜と呼んでいるんです」

「なるほどな……。しかし、封印が解けたのは確実なのか?」


 確かに実際に見た訳ではない為、確実に解けたとは言えない。しかし、アステル達の目の前で、パンドラの扉から黒龍が現れたのは事実だ。

 今までは小さな歪みから、魔力が流入する事はあった。しかし、黒龍という大きな存在がその歪みから入ってきたとは思えない。


「私達と一緒にこの世界に迷い込んだ黒龍は、そのパンドラの扉から現れたものです。完全に解けてはいないかもしれませんが、歪みは確実に大きいです」

「そうか……」


 この世界に間も無く訪れるであろう危機、そして、その危機が数多の異世界で訪れる可能性を感じ、重たい空気が部屋を埋め尽くす。


「それと、パンドラの夜……。百鬼夜行の問題は他にもあります」

 それはラセツの口からは出なかった。もう一つの脅威、いや。最も大きな脅威。


「魔物が狂暴化する理由は、魔力の活性化に器が耐えられないからです。そして、耐えられない人間は百鬼夜行中は魔力を使えません」

「力が弱い人は妖怪と戦えないという事か? それならば、民と一緒に過ごす我ら鬼のような妖怪が守ればいいのでは?」


「違います」

 アステルは首を横に振った。

「ラセツさんみたいに、この世界の人と過ごす妖怪達も狂暴化する可能性があるってことです」


 ラセツは言葉を失った。

 当然だ。自身が守るべき民を、自分自身が害を為す可能性があると告げられたのだから。


「私とフェリス。そして、私が使役する召喚獣はパンドラの夜でも実際に戦ってきました。百鬼夜行中でも戦えます」

「私達って実は結構すごいからねぇ」


「そうか……。しかし、俺は……」

 ラセツは俯き、拳を固く握りしめた。

 

「ラセツさんは大丈夫ですよ」

 アステルの透き通った声が、静まり返った部屋に響いた。

 俯いていたラセツが、おもむろに顔を上げた。


「なぜ、そう言い切れる?」

「魔力の活性化に耐えきれない器は、言ってしまえば低位や中位の一部存在。鬼の亜人という高位の存在ならば、耐えられます」


 しかし、それは亜人のみ。普通の鬼であれば、器が耐え切れず、多くの存在が狂暴化する。

 アステル達が向かっている都にはきっと、沢山の鬼などの魔物がいるだろう。

 つまり、百鬼夜行が始まれば、内側から崩壊する可能性がある。

 

「ラセツさん、スズカさまは亜人なんですよね?」

「ああ、この世界を統治するのは代々鬼の亜人だ。先代はスズカ様の父上だ」

「では、その周り全ては亜人ですか?」

 

「いや……。亜人はいるが、城にいる多くは普通の鬼や妖怪だ。なぜそのような――。まさか」

 ラセツの言葉が途切れた。


 幾ら鬼の亜人と言えど、狂暴化した数多の鬼や妖怪を相手に耐えるのは難しいだろう。それが、理性を失った家臣だとすれば尚更だ。


「付喪神の出現は百鬼夜行の前触れって言いましたよね? あとどれぐらい猶予ありますか?」

 アステルの言葉にラセツが考え込んだ。

「経験した事がないから実際の事はわからないが、歌が聞こえるらしい」


「歌……」

「かーごめ、かーごめ。ってやつ?」

 フェリスが口ずさむと、ラセツは目を見開いた。


「それを、どこで?」

「え、いや。その歌が聞こえたから、その音の場所探してたらあいつらがいたんだよ」

「それは古くから伝わる童歌だ」


 アステルとフェリスが首を傾げた。

「子供たちが歌いながら遊んだりするんだ。それが前兆ということか……?」

「童歌は全部で何曲あるんですか?」

 ラセツが脳の底から振り絞るように考えだした。


「俺が知っているのは三つだな……」

「つまり、あと二日……? いや、一日一曲と決まっている訳ではないか?」


 どちらにせよ時間に猶予がないと考えた方がいいだろう。

「今日はもう宿から出た方がいいかも知れないね」

「ええ……。んー。まあ、アステルが言うならいいけど」


 そうして、アステル達は準備を整え、宿を出て行った。

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