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33話 運命共同体

「その伝言はいつ聞いたの?」

 エイブルから伝えられたパンドラの夜が来る。

 その伝言がいつライラから伝わったのか。


「マルクトのギルド本部から速達でイェソドまで、恐らく六日程。それを聞いた俺達はすぐにイェソドを出て、四日でここに来た」

「少なくとも十日前……」


 であれば、パンドラの夜が来るのは今日か明日。

 いつも唐突に物を言うライラだが、今回は早めに知らせてくれたのだろう。

 つまり、パンドラの扉が動く可能性があるから警戒しろ。そう言う事だ。


「カイン。パンドラの夜が来たら、シリウスとフェリスを連れて町を防衛して。魔物の群れが来る可能性がある」

「それはいいけど、アステルさんは?」

 カインが首を傾げた。


「私は暫くパンドラの扉にいるから、二人の――」

「ちょっと待ってよ。一人で行くの?」

 シリウスがアステルの言葉を遮る。真っ直ぐな瞳で、アステルを見つめている。視線を横に逸らすとフェリスもまた、アステル見つめている。


「危険だからね。龍種が出たらすぐに強制送還の魔道具使うから問題ないよ」

「いやいや、魔物が活性化する夜にアステル一人に出来る訳ないでしょ?」

 フェリスが言った。


「だけど、三人が残らないと誰も町を守れないでしょ?」

 魔物が活性化し、凶暴化する。それがパンドラの夜。

 そして、魔力も活性化する事で、多くの人は魔力を扱えなくなり。戦えない。


 パンドラの夜で戦える術者は相応な実力者のみ、魔力なしで戦える冒険者もそうだ。


 ここには、エイブルやティア、テラ。そして、冒険者がいる。しかし、彼等に防衛は無理だろう。

 だからこそ、三人には残ってもらわなければならない。


「おい、女。あまり、俺たちを舐めるなよ」

「舐めてないよ。私は君たちの実力を考えて――」

「いつの話だ? 二年前か? それとも、七年前か?」

 アステルは首を傾げた。


 七年前。アステル達とエイブルが初めて出会った日の事だろう。

 その日はアステルがエイブルを返り討ちにした日。思えばその日から、エイブルはアステルを目の敵にしていた。


「俺はお前を追い抜こうと必死に努力をして来た。七年前のようにお前に負けるつもりはない」

「いつも、「あの女を見返してやるんだっ」って、言ってるんですよ」

 と似ていない声真似をしながらティアが言った。

 

「ティア! 余計な事は言わなくて良い」

 エイブルが照れ隠しのように大きな声を上げた。

「ここまで連れて来た冒険者は、防衛戦も踏まえて腕が立つ人達だ。エイブルを信じられなくても、彼等冒険者と俺たち兄妹を信じてくれないか?」


「兄妹……?」

 テラの言葉に首を傾げ、アステルがジッとティアとテラを見つめた。

 確かに、何処となく似ている気がする。

 

「知りませんでした?」

 えへへと。ティアが笑った。

「ごめんなさい。知りませんでした」

 自分がどれ程周りを見ていないのか痛感させられる。


「俺は二年前、いや。七年前より遥かに強くなった。証拠を見せてやる」

 そういうと、エイブルはポケットから一つの白い鱗を取り出し、魔力を込めた。


 すると、空に大きな蒼白い魔法陣が生成され、そこからは一体の白いワイバーンが地上へと降り立った。

「女よ。こいつに見覚えがあるだろ?」

 エイブルが得意げに言った。


 ワイバーンの顔を見ると、片目に傷が入っている。

「七年前にトライアングルくんが召喚したワイバーン?」

 あの時は、未熟だったエイブルに呼ばれた事により、隷属契約による強制力を失い、暴走状態になった。


 それを、アステル達三人がライラの協力もあり撃退した。その際に、アステルがワイバーンの片目に刃を貫いていた。


「そうだ。だが、こいつは今、隷属されていない」

「うん。鱗で召喚してたね」

 エイブルとワイバーンは友愛の契約を果たしている。それは、互いに認め。対等な関係を持っているということだ。


「ああ。ワイバーンは強力な存在で、知能も高く、契約者を選ぶ。お前には無理だろう」

 はははと、得意げに高笑いをする。

「うん、そうかも」

 素直に認めるアステルに、高笑いが詰まる。


「名前はなんていうの?」

「ふっ……。よくぞ聞いてくれた。特別に教えてやろう……。こいつの名は、ビーストキング三世だ!」

 高らかに名を告げると、そこには静寂が広がった。


「だっさ」

「やめなよ」

 フェリスがポツリと呟き、シリウスがそれを宥めた。

 

「どうして三世なの?」

「語呂がいいからだ。しかし、この名前が偉大過ぎる故か、こいつは名を呼んでも返事どころか指示も無視する事がある。困ったものだな」

 ふっ……。と頭を少し抱えた。


「いい名前じゃねえか。俺は好きだな」

 一人だけ、エイブルの名前を絶賛するものが現れた。

 その声の主を見ると、カインだ。

「ぬっ! お前、分かる奴だな」


 エイブルがカインの元へ歩み寄ると、肩をトントンと叩いた。

 以前カインにパートナーとして、アージェントウルフ一匹を与えた時の事を思い出した。

 確か、カインが付けた名前は虎丸三十六号。もちろん、却下して結局アステルが名付けたが、類は友を呼ぶ。という奴か。


「お前、名前は?」

「カインです」

「カイン、お前にはセンスがあると見た。俺の弟子になる権利をやろう」

「え、大丈夫です。先生ならアステルさん達がいるんで」


「女ぁぁ!」

 ギュインっと振り向き叫ぶ。

「なに?」

 

「俺から才能ある弟子を奪うとはいい度胸してるな。しかし、このビーストキング三世は俺の大切なパートナーだ。流石のお前も羨ましいだろう?」

 ワイバーンの足に手を掛けるが、そっと足をずらされ転びそうになる。


「確かに、ワイバーンは羨ましいね」

「ふっふっふ。そうだろう? しかし、ワイバーンは賢いからな。主人を選ぶんだ、お前は選ばれる事はなかろう」

「そうだね」


 ジッとアステルの蒼い瞳がワイバーンの顔を、真っすぐと見つめた。

 ワイバーンもまた、片目でアステルを見下ろしている。

 そして、ゆっくと。アステルの前へ頭を差し出した。


「な、なんだと!?」

 少しだけ驚いた後、アステルはゆっくりと手を伸ばし、かつて自身が傷つけた瞳に手を伸ばし、優しく撫でた。

「あの時はごめんね」


 グルルと、静かに唸る。

「俺に頭を下げたのは数回。しかも、名づけしてからは一度もないのに何故!?」

「その名前、嫌なんじゃない?」

 ストレートにアステルは真実を伝えた。


「何をバカな事を、そんな筈ないだろう。なあ、ビーストキング三世」

 ワイバーンの足をトントンと叩くが、それも足をずらされ、再び転びかける。


「ならば、お前なら何て名をつける。俺のいかしたネーミングセンスに物申すというのならば、さぞかし良い名前を付けられるんだろうな」

 エイブルが咳払いをして言った。

 そして、アステルは少しだけ考え。口を開いた。


「アルバス……。とか?」

 その言葉を聞いた瞬間、ワイバーンは返事をするように、咆哮を上げた。

「な、なんだと……?」


 返事をしたワイバーンが信じられないと、エイブルは首を横に激しく振る。

「おい! ビーストキング三世!」

 しかし、ワイバーンは無言を貫く。


「アルバス」

 アステルがその名を静かに、呟くと。ギャオと、小さく返事をした。

 ぐぬぬ。とエイブルが拳を握る。

 

「いいだろう。これからは、アルバスだ……。ワイバーンに名をつけたからといって、いい気になるなよ。女」

 ビシッとアステルに指を差した。

 対し、アステルは静かにため息を吐いた。


「だけど、確かにワイバーン。アルバスが居るなら防衛を任せても大丈夫そうだね」

「ふっ、そうだ。俺とこのビーストキング三世……。基、アルバスが居れば大丈夫だ」

 エイブルが手をアルバスの足に手を掛けた。今度はずらすことはせず、その重みを受け止めている。

 

「じゃあ、ティアさん。テラさん、アルバスも町をお願いします」

「あっ、はい!」

 アステルは二人と一体に頭を下げ、ティアが返事をした。


「おい、俺は?」

「うん、クラリネットくんもね」

「エイブルだ!」

 そんな彼をおいて、アステルは歩き出した。


「あの女は、いつまで経っても俺の名前を覚えない!」

「お互い様だろ……」

 アステルの背後では、エイブルが地団駄を踏み、それをテラが宥めている。


「家に帰って準備をしようか」

 シリウス、フェリス、カインの元へ歩み寄った。

「アステル、さっきの件。私は納得出来てないよ」

 フェリスが不満気に口を開いた。


 さっきの件、アステルが一人でパンドラの扉を見に行き。町の防衛を三人に任せた事だろう。

「戦力を考えた結果だよ。私はパンドラの夜でもある程度戦えるし、もし龍種が出ても、先生がくれた送還術の魔道具を使うだけ。町の防衛はそうじゃないでしょ?」


「そうだけど……。そうだけどさ」

 フェリスが言葉を詰まらせる。カインが居心地が悪そうに、視線を右往左往させる。

「アステルにとって、私とフェリスは必要ない存在なの?」

 シリウスがアステルを見つめて言う。

 

「そんな事ないよ。シリウスとフェリスが居るから、私は今ここにいる。これから先ずっと、一緒にいて欲しいと思ってるよ」

「じゃあ、一人で行こうとしないで。私達三人は運命共同体でしょ? どんな時も、どこへでも私達は一緒」


「運命共同体……」

 それは七年前。ライラとの修行が始まる日に言われた言葉。

 彼岸契約という魂が直接繋がる契約を果たしていた、三人に言っていた。

 運命を共にする契約だと。


 アステルはその事を思い出し、静かに微笑んだ。

「そうだね。じゃあ、運命を共にしようか」

 アステルの言葉にシリウスとフェリスは、力強く頷いた。

 それを目にして、カインが呟いた。


「なんか、いいですね」

「何が?」

 アステルが首を傾げた。

「そういう、運命を共にするって覚悟を持てる契約。普通の召喚術師じゃなれないですよ」


 ああ……。そういえば、伝えてなかったな。とアステルはある事を思い出した。

「カインも、多分。彼岸契約してる召喚獣いるよ」

「そうなんですね……。そうなんですね!?」

 一瞬顔を俯き、瞬時に顔を上げた。


「うん、カインが七年前に経験したパンドラの夜の事。私も同じ七年前のその夜で、一度死にかけてるんだ。状況は違うけど、似たような経験をしている」

「だけど、俺。魔力がなくて召喚とか出来ないですよ?」


「恐らく、契約の相手は、カインと、町のみんなの記憶から消えた人物。だけど、魂は繋がってるし、運命を共にする契約だからきっと、どこかで会えるよ」

「そうですか……。だったら、会ったときに恥ずかしくないように、強くならないとですね」

 

「そうだね」

 アステルは微笑んだ。そして、マーカスの方へ身体を向けた。

「パンドラの夜が来た際は、出来れば外出を控えてください。何かあれば、ティアさんやテラさんに」


「ああ、わかった。アステル達も気をつけてな」

「はい」

 アステル達はマーカスに頭を下げ、その場を去った。


 パンドラの夜。

 この日を境に、アステル達の運命が大きく揺れ動く等、誰も思っていなかった。

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