表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/85

32話 夜の予兆

 アステル達三人が、ホドに訪れてから二年の歳月が経っていた。

 毎日の半日を掛け、パンドラの扉へと赴き。

 毎日を修行や依頼に励み。

 気付けば二年。時間の経過は早い。


 町の人達との関係も良好で、半日が潰れる事以外、順風な生活を送れていると言ってもいいだろう。

 パンドラの扉から戻ってきて、夕暮れ。

 庭から聞こえてくる、木剣を打ち付ける音を耳にしながら、アステルは椅子で寛いでいた。


 二年前はアステルの着ているローブのフードに入る程の大きさだった、アージェントウルフの子供、シルヴィも大分成長をしていて、今はアステルの腰ほどの大きさになっていた。

 膝に上半身を乗せながら、尻尾を振るシルヴィの銀色の体毛をした身体を撫でる。

 ふわふわな毛並み、ちゃんとお風呂に入れている為、匂いも良い。数少ないアステルの癒しの一つだ。


 キィっと音を鳴らしながら扉が開かれる。

 シリウスとフェリスが家の中に入ってくる。その後ろにはカインもいる。

「お疲れ様」

 チラッと三人を見る。


 三人とも二年の経過によって背が伸びた。もちろん、アステルだって伸びていた。

 十七歳になった。アステル、シリウス、フェリスの顔つきも大人に近づいた。


 三人はアステルの言葉に返事をして、それぞれ定位置となった椅子に座る。

 そして、どんな修行をしたとか、どんな依頼をこなしたとか。そんな話をして、カインは帰る。

 それが、アステル達の日常だ。


「それじゃ、俺は帰りますね」

「うん、また明日ね」


 カインの敬語は二年前より良くなった。これも修行の賜物だろう。

 カインが立ち上がり、扉へと歩いて行く。ドアノブに手を伸ばした時、何かを思い出したように振り向いた。


「おじさんが、明日アステルさんにお客さんが来るって言ってました」

「お客さん?」

 アステルがシリウスとフェリスに目を向けても、二人とも思い当たる人物はいないらしく、首を傾げた。


「先生……。はないか。名前は聞いてるの?」

 ライラがわざわざこんな所まで来るとは思えない。そうすると、ますます予想がつかない。

 カインはその人物名を思い出そうとする。

 そして、手をポンッと叩いた。


「確かサクソフォーンって名前だった気がします」

「サクソフォーン……?」


 シリウスとフェリスに視線を向けても、首を傾げる。

 そんな楽器みたいな名前の知り合いなんていただろうか?


「本当にそんな名前?」

「えっ。……マラカスかも知れないです」

「さっきと全然違うじゃん」

 フェリスが呆れながら突っ込んだ。


「あれぇ……?」とカインが頭を抱えた。

 そんなカインを見て、アステルが溜息を一つ吐いた。

「明日になればわかると思うけど。人の名前はちゃんと覚えないと、失礼だよ?」

「す、すみません」


 シリウスは苦笑いをし、フェリスは呆れていた。

「じゃ、じゃあ。明日迎えに来るんで。失礼します」

「うん、じゃあね」

 カインは頭を軽く下げ、出て行った。


「誰だろうね?」

 カインを見送り、三人だけの空間になり。シリウスが口を開いた。

「サクソフォーンとかマラカスとか。そんな間違いするかねぇ」

 フェリスが机に突っ伏しながらぼやいた。

 

「まあ、明日になればわかるよ。ごはんにしようか」

「今日の当番はフェリスだよね?」

「はぁい……」

 フェリスは気怠そうに身体を起こし立ち上がり、キッチンへと歩いて行った。


 そして、時が過ぎ。朝陽が昇ると、カインがやってきて、アステル達を町の広場へと案内した。

 そこにはホドの町長をしているマーカスが居た。

「おじさん、連れてきたぞ」

「おお、みんなおはよう」

 

 アステル、シリウス、フェリスは丁寧に「おはようございます」と頭を下げた。

「それで、客人って誰ですか?」

 アステルがマーカスへと尋ねた。すると、彼は首を傾げる。

「カインから聞いてないのか?」


「サクソフォーンとかマラカスとか言ってましたが、そんな知り合いはいません」

「サクソフォーン……? マラカス……?」

 マーカスは眉をひそめ、カインの方へ視線を向けた。カインは咄嗟に顔を逸らした。


「そんな名前ではない筈だが……。確か……」

 マーカスは懐から封筒を取り出した。その封筒には、ギルドからの書状を意味するハンコが押されていた。

 そして、封筒から一枚の紙を取り出した時。一つの声が響いた。


「探したぞ! 女ぁ!」

 声のした方を見ると、そこには金髪の青年一人と少女と青年。そして、何人かの冒険者。

 その姿を見て、アステルはため息を吐いた。


 ドスドスと音が鳴りそうな程に力強く地を踏み、金髪の青年は近づいてくる。

「久しぶりだね。トロンボーンくん」

「だっ!お前はいつになったら俺の名前を覚えるんだよ!?」

 あれ、違ったっけ?とアステルは首を傾げた。


 青年の後ろの方では、申し訳なさそうにしている少女と青年。

「ティアさんとテラさんも、お久しぶりです」

 アステルが軽く会釈すると、名前を覚えてもらえてたのが嬉しかったのか、パッと顔が明るくなり、会釈を返す。

 

「なんでそっちは覚えてんの!?」

「あまり、お話した事ないのに覚えててもらい光栄です」

 ティアが丁寧に再び頭を下げた。

「俺らの世代でアステルさんは群を抜いていたからな。覚えてくれてるなんて思ってもいなかったよ」


 テラが照れくさそうに頭を掻いた。

「おい!」

「群を抜いてたなんて買い被りすぎですよ」

 アステルは喧しい金髪を放っておき、ティアとテラの元へ歩み寄って手を差し出した。


「ようこそ、ホドへ」

 差し出された手を、ティアが握った。

「おい! 何無視してるんだよ!」

「まだ居たんだ。アコーディオンくん」


 アステルはため息をまた吐いた。

 そんな光景を見るカインとマーカスは呆気に取られている。

「エイブルだっていつも言ってるだろ!」

「そうだったね。エコベルくん」


「おお……? おい!」

 一瞬、自身の名前を初めて呼んでくれたと思ったが、すぐに違う事に気付いた。

「それで、何しに来たの?」


 その言葉を聞き、エイブルは咳払いをし、気を引き締めた。

「イェソドの報告と、女宛てにライラから伝言だ」

「イェソドと先生から伝言?」


 イェソド。二年前に、ホドへ来る途中で通った街。

 そこでは、子供や若い女性の行方不明事件が起きていた。ホドへ行くために、調査をできる程の滞在期間がなかった為、アステルはイェソドにあるギルド支部の女性、カレンにギルド本部に調査依頼を出す事を促していた。


 その事件の報告という事だろう。

「イェソドの報告は?」

「二年間捜査した結果。わかった事は一つだ。街の衛兵はほぼ全てが傀儡だった」

「傀儡……か」


 ホドとイェソドの中間に位置する町、レーシェ。そこでは死者蘇生を謳う宗教団体。ヘルメス教団がある。しかし、その実態は無機物の傀儡を幻術で操るというもの。

 レーシェを訪れた際に、もしかして。と思っていたが、繋がっているのは確実だ。


「それで、解決はしたの? 行方不明者は?」

 そう聞くとエイブルは首を横に振った。

「傀儡の衛兵達を尋問しても、口がないみたいに喋らないんです。生身の衛兵に聞いても、彼らがどこから来て、どこへ帰っているのか把握している人も居なくて」


 ティアが答えた。それに、続くようにテラも口を開いた。

 「だけど、それを不自然に思っていなかったみたいだ」

 「幻術による認識阻害かな……。それ以外に何も進展はないんだよね?」

 そうアステルが聞くと、ティアとテラが頷いた。


 「そっか、それで。先生からの伝言って?」

 何も情報がないのなら、これ以上話しても無意味だ。

 早々に話題を切り、ライラからの伝言を聞く。


 エイブルが重い口をゆっくりと開いた。

 

「パンドラの夜が来る」


 全ての音が消え失せ、静寂と化した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ