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30話 継ぎ接ぎ

 アステルはシリウスを連れ、パンドラの扉の元へ来ていた。

 封印を修理する事も出来なければ、かけ直す事も出来ないため、どうする事もできないが様子を見るに越したことはない。


「どう?」

「うーん……」と唸るアステルの横から、シリウスが顔をひょこっと覗かせ、白い獣耳が揺れる。

「どうなんだろう?」

 専門家でもなんでもないため、全く分からないのが本当の所。


 封印の紋章は龍属性、聖龍属性、四元素の合計六つの属性から成り立っている。

 カインの父親が使っていたという、赤黒い魔力が龍属性とするならば、一族はずっと一つの属性で補っていた筈。

 

 カインが魔力を使える状況ならば、補えていたかも知れないが、彼の魔力が枯渇している以上。考えても無意味だ。


 龍属性の力が、どれ程の力を有していたかは分からない。だけど、一つの属性でずっと守り続けていたのなら。他の属性でも出来る可能性もあるかもしれない。

 シリウスは風属性だが、火属性も扱える。フェリスも同様、風属性だが水属性も扱える。

 四元素のうち三つ扱えるが、龍属性と同等までの力は発揮しないだろう。


 だが、何もしないよりかは幾分かマシだ。


 アステルは黎明色をした無属性の魔力を操り、封印の紋章に重ねるように描いていく。

「シリウス、風と火の魔力を通して」

 シリウスが頷き、無属性の魔力へと属性魔力を通した。


 ひび割れし、色が薄くなっていた封印の紋様は多少だが、濃くなり、ひび割れも減った。

 封印を担っている一つにもなっていない。きっと、この効力はすぐに切れる。毎日来て、毎日掛けなおす必要があるだろう。

 しかし、もし。転移門の紋様が作用した場合、その日まで掛けた応急処置は即時消滅する。


 町からここまで来るのには数時間掛かる。帰りも含めれば半日だ。そう考えると、少しだけ憂鬱。

 アステルは天井を見上げた、だが、そこには天井はなく。広がるのは青い空だ。

「めんどくさいなぁ……」

 ボソッと呟いた。


「何か言った?」

 再びシリウスが横から顔を覗かせ、白い獣耳が揺れる。

「いや、先生に凄い面倒ごと押し付けられたなって。今更実感してたんだ」


 今頃ライラは何してるんだろう。とアステルは考える。

 どうせ、適当に日々をのんびり過ごしているんだろうな。と、五年間共に過ごした彼女から推測した。


「先生に会いたい?」

「んー……」と、アステルは漆黒のローブの襟を持ち上げ、顔を半分だけ埋めた。

 旅立ちの際にライラが着ていたローブ。最初のころは、彼女の優しい匂いがそこにはあったが、もうそこには自身の匂いしか感じられない。


「どうだろう」

 アステルは襟を元に戻した。

「私は会いたいよ」

「そうなんだ」


「うん、先生いつも適当だから一緒に居て楽しかったし、振り回されるアステル見てるのも楽しかったからね」

「そうなんだ……」


 アステル達三人は全員賑やかな性格ではなく、全員が大人しく、静かだ。一緒にいるだけで安心するし、落ち着ける。ライラは三人とは真逆の性格だ、おちゃらけてて、唐突に何か言う。

 だけど、嫌だと思うことはなかったし。大変だった五年間の修行も、彼女の性格のお陰で楽しかったと言える。


 「帰ろうか」

 アステルがそういうと、「はい」とシリウスが返事をした。

 そうして、二人はその場を後にした。


 アージェントウルフのツヴァイの背に乗り、森を駆け抜けて、草原を駆けていく夕暮れ前。

 道中で凄まじい爆発音がして、アステルとシリウスは急いでそちらの方へと向かった。


 爆発元に到着すると、そこにはカインとフェリスが居た。

「本気で撃ちすぎだろ!?」

「格の違いを見せるって言ったでしょ?」


 フェリスが風の魔力を操り、魔術を次から次へと撃っていく。

 どうやら、庭ではなく、平原で稽古をしているらしい。


「格の違いはもう分かったって!」

 そうカインが大声をあげてもフェリスは手を緩めない。


「止めてあげなくていいの?」

 シリウスが言う。

「直撃はしないように撃ってるみたいだから大丈夫じゃない?」


 カインが変な避け方をしない限りは直撃しない。逆に、変な避け方をしてしまえば、直撃するが、彼の再生能力であれば、問題はないだろう。

 むしろ、割りと良い訓練だと。アステルは感心した。


 しかし、避ける事に必死で攻撃に転じられていない。

 遠距離攻撃がないカインは、接近をしなければ攻撃できないが、接近する余裕がない。

 昨日アステルが言った。「防御を疎かにするな」という発言が後を引いているのだろうか。

 だが、ギリギリで致命傷だけを避けて攻撃しろ。と言ったはず。


 カインの服は土汚れまみれ、しかし、その身体には傷ひとつない。対して、フェリスの服は綺麗だ。一回も攻撃に転じる事なく、ずっと回避し続けているのだろう。

 回避をするようになった。そう考えれば、合格点だ。


 一日で出来るようになるだなんて思っていない。その為の訓練だ。

「行こうか」

「え? 見なくてもいいの?」

「邪魔しちゃ悪いでしょ?」


 陽が落ちていくホドの町へと歩いていく。

 パンドラの扉とカインの修行。やることはたくさんある。しかし、もう一つ大切な事がある。

 この町での職を見つけなければならない。


 パンドラの扉関連の仕事はライラから言われた事、報酬なんて発生しない。カインの修行も報酬はない。

 冒険者が立ち寄らない町であるため、ギルドも配置されていない。

 

 資金は多少あるとは言え、暫く滞在することを考えれば、稼ぐ方法を見つけなければならない。

 そう思うと、また。アステルは憂鬱な気分。夕焼けをみて、黄昏る。

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