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28話 亀裂

 パンドラの扉の元へアステル達を案内するため、カインはアステル達の家に来ていた。

 リビングに座り、周りを見渡している。

「そんなに見ても、面白いものないよ」

 アステルはマグカップに淹れたお茶をカインに差し出すと、カインは軽く頭を下げた。


「確かになんもないすね」

 ズズっとお茶を一飲み。

「来てから数日しか経ってないからねぇ」

 机に突っ伏しながらフェリスが答えた。


 アステルは床でのんびりしていた、アージェントウルフの子供。シルヴィを抱き上げ、自身が着る漆黒のローブのフードへと入れた。

 ホドを来てからは、家の中か庭で自由にさせているが、外に出るときは連れて行く事にしている。


「修行する時にたまに居たっすけど、なんすか。その子犬」

 アステルのフードからちょこんと、前足だけをアステルの頭に乗せるシルヴィを見てカインは聞く。

「子犬じゃなくて、アージェントウルフの子供だよ。シルヴィって言うんだ」

 アステルが紹介すると、「わふ」と小さく吠える。


「へえ……。戦えるんすか? 小さいけど」

「この子は戦えないけど、アージェントウルフの群れを呼び出せるんだ。中位魔物だから強いよ」

「そうなんすね。で、その子紹介する為だけに俺は家の中に案内されたんすか?」

「それも、あるけど。目的は別かな。外に出ようか」


 そう言って、アステル達は外に出た。

「シルヴィ」そうアステルが呼びかけると、「わん」と答え。蒼く輝き、アステルの前に魔法陣が作り出され、そこから一匹のアージェントウルフが召喚された。


「この子が君のパートナー」

 召喚されたアージェントウルフは、行儀よくアステルの隣でお座りをした。アステルは優しく、頭を撫でた。

「パートナー?」

 

「うん。シルヴィは群れのリーダーだった個体の子供でね、そのリーダーが亡くなって、実質この子がリーダーの役割をしているから群れを呼び出せるんだ。私はシルヴィと契約した事によって、群れ全体と契約をしてるんだ。そのうちの一体を君のパートナーにする」


「いいんすか?」

「私もシリウスとフェリスも、一体ずつパートナーがいるからね。移動手段として乗せて貰えるし、ここからパンドラの扉まで行くならカインも居た方がいいでしょ?」


「でも、俺魔力ないから召喚とか出来ないんじゃ」

「ちょっと待ってね」

 そう言いアステルは屈み、「少し貰うね」と優しくアージェントウルフに言い、毛を少しだけ切り取った。


 それを器用にチャームへと細工し、最後に自身の黎明色の魔力を帯びさせた。魔力を帯びたチャームは次第に魔力を吸収し、光が収まる。


「これ、召喚用のチャーム。私の魔力が入ってるから念じたらカインでも呼び出せるよ」

「なくさないでね」と言いながらアステルはチャームを差し出し、カインはそれを受け取り、腰に装着した。

「ありがとうございます」

 

「名前、考えといてあげてね。じゃあ、行こうか」


 そして、アステル達はアージェントウルフの背に乗り、草原を駆けていき、森の手前まで来た。

「は……早え……」

 カインは狼の背中の上でぐったりしていた。それを見て、アステル達三人は苦笑いをする。


「ここからは歩こうか」

 森の中は当然木が生い茂っている。その木を掻い潜りながら駆けていくのは、今の状態では無理だと判断したアステルは地面に降り立った。

「すみません」


 ぐったりしながらカインは降りる。

 狼達は送還し、アステル達四人とシルヴィの一匹で森の中を進んでいくことにした。

「シリウスとカインが前歩いて、私とフェリスがついていく形にしようか」

「はい。カイン大丈夫?」


 シリウスが返事をし、カインの心配をする。

 「大丈夫です。こっちす」

 重い足取りでカインは森の中へと入っていき、その後を三人がついていく。


 森の中を進んでいると、魔物と遭遇し戦闘になる。

 しかし、四人の前には敵ではなく、現れた魔物は次々と倒れていく。


 カインは魔力を持っていない。つまり、魔力を使った身体能力強化をできないということ。だが、身体能力強化をしているアステルと、大きな差が無いほどに身体能力が高い。


「アステルさんの魔力って変わってるすよね」

 カインはアステルが持つ、黎明色の魔力の剣を見て言った。

「普通の無属性の魔力は蒼白いからね」


「そうなんすか?」

 とカインは首を傾げた。そして、言葉を続ける。

「親父の魔力の色は赤黒い色してたですけど」

「赤黒い?」


 アステルは首を傾げ、シリウスとフェリスに視線を向けると、同じく首を傾げた。

 黒い魔力は純度の高い魔力で、魔界由来の物だ。しかし、赤黒い色は聞いた事がない。

「カインのお父さんは人間なんだよねぇ?」

 フェリスが聞いた。


「え、人間だろ? 俺が人間だし」

「ホドはパンドラの扉が近いから、他より魔力濃度が高いしその影響かな? 他にその魔力を見た事はあるの?」

 シリウスが聞くと、カインは暫く考え出した。


「昔見たことある気がするけど、思い出せないんだ。すごく大切な人だった気がするんだけど」

「お母さんとか?」

「いや、母さんは俺が幼い頃に亡くなってて、魔力を見た記憶はないな」


 話が途切れ、静まり変える。風で木々が揺れる音だけが、耳に残る。

 カインの父親の魔力の色、記憶にない人物。気になる事は多いが、何も手がかりがない以上ここで詮索しても意味がない。


「取り合えず、先に進もうか」

 そうアステルが言うと、三人は頷き。止まっていた足が再び動き出した。


 そうして、森の最深部。

 アステル達の目の前には、朽ちた神殿のような建物があった。

 中に入っていくと、天井が崩落していて、中央部が祭壇のように少しだけ高くなっている。他にはなにもない。


「これがパンドラの扉だ」

 祭壇への階段を登り、カインが言った。

 アステル達も階段を登り、地面を見てみると、そこには紋章が刻まれている。


「扉っていうから、大きな扉をイメージしてたけど違ったね」

 シリウスが言った。

 確かにアステル自身もそのようなイメージをしていた。

 だが、目の前にあるのはそんなわかりやすいものではなかった。


「転移門かな?」

 アステルは屈み、紋章が描かれたひんやりと冷たい地面に触れる。

 転移魔術は遥か昔の魔術だ。これが、もし魔界と繋がっているとしたら、異世界を繋ぐ転移魔術。遥か昔どころではなく、伝承の世界の魔術だ。


「だけどさ、この紋章なんかおかしくない?」

 フェリスが紋章を凝視しながら言った。

「おかしい?」

「うん、なんか二重に書かれてる気がする」


 確かに紋章は二つ描かれている。

 もう一つは魔界とこの世界を繋ぐ紋章だ。

 もう一つは――


「封印の紋章……」


 アステルが呟いた。

 原初の召喚術師が魔界を封じた。そんな話をライラから教わっていた。

 しかし、その封印の紋章らしきものには亀裂が入っている。


 魔界からの魔力が流入し、魔力が活性化されるパンドラの夜は、この亀裂によるものだろうか。

 だとするならば、修復しなければならない。

 だが、これは古代。それも伝承の世界の魔術。そんなものは、アステル達に使う事は出来ない。


「カインの家系はずっと、ここを見てきたんだよね?」

「ああ、親父がそう言ってた。何度かここに連れて来られた事もあったな。だけど、どうしたらいいとかまではまだ教えて貰ってない」


 カインでもわからない。となると、どうする事もできない。


「カインの家に何か残されているかも知れないし、今日は取り合えず帰ろうか」


 場所の把握と、パンドラの扉がどういう物なのか見る事は出来た。数日停滞してたのが多少は進んだ。それで、十分だろう。


 そして、アステル達はホドへと帰還した。

「そういえば」と、アステルが家の前でカインを見て口を開いた。

「その子の名前決まった?」


 アステルはホドまでカインを乗せ、隣に座る狼へと視線を向ける。

「私の子はツヴァイで、シリウスがドライ、フェリスがフィアだよ」

 アステルがツヴァイを撫でながら紹介した。


「名前かぁ……」

 うーんと唸り、やがて。カインは口にする。

「虎丸三十六号とか?」


「虎はどこから来たの?」

「え? 分かんない」

 コソコソとフェリスがシリウスに聞くが、当然知る訳もなく。

 虎丸三十六号と名付けされた狼は、耳と尻尾が垂れ下がっている。


「なんで三十六号なの?」

 アステルが理由を尋ねた。

 

「気にするのそっちなんだね」

「ね」

 とコソコソとフェリスとシリウスが話す。


「なんかゴロいいかなって……」

「そっか。その子が嫌そうだから却下」

「ええ!?」

 唐突に却下されカインは驚きの声を上げた。


「その子の名前はフュンフね」

「ええ?」

 唐突に名付けをされカインは困惑の声を上げた。

 しかし、先程とは違い狼の耳は立ち上がり、尻尾は左右に揺れている。


「俺が考えた虎丸三十六号はどうなるんすか?」

「その名前も別に素敵だと思うよ。だけど、この子は命を持ってる。カインはもしその名前が自分の物だとしたら嬉しいの?」

「いや……」


 カインは隣に座るフュンフを見つめた。

「うん、だよね。いい機会だから、召喚獣について授業しようか」

「授業?」

 唐突に開かれる授業にカインは首を傾げた。


「この町は人の出入りが少ないし、住んでいる人達が自分の力でどうにか生きているから、召喚獣がいないけどね。外の町では、召喚獣は奴隷のように扱われているんだ。それこそ、命を持たない便利な道具としてね」

「道具って……」


「うん、おかしいよね。召喚獣っていうのは、姿形関係なく、人間以外の存在の事。シリウスやフェリスもそうだよ。カインにとって、二人はどう見える?」

「どうって……」


 カインは二人へ視線を向ける。

 そこには白い長髪に犬耳が生えた少女シリウスと、黒いミディアムヘアに猫耳が生えた少女フェリス。どちらも純粋な人間ではなく、獣の亜人。


「笑ったり怒ったりする。姿は変わってても人と変わらない。と思う」

「うん、人と変わらない命だよ。フュンフだってそう、何一つ変わらない命だよ。その事を忘れないようにね」

「……はい」


 その返答を見た後、アステルは頷いた。

「じゃあ、今後もよろしくね」

 そう言って、家の中へと入っていく。

「え? あ、はい」


 今後もよろしく。その言葉の意図が分からず、取り合えず返事を返す。

 それを理解してか、アステルの後に続いて家に入っていくフェリスが言う。

「選択肢間違えなくてよかったねぇ。間違えてたら破門だったかもねぇ」

 賑やかそうに言いながら消えた。


 衝撃の言葉を言われ、カインは茫然と立ち尽くしていた。

「カイン、少し時間あるから稽古しようか?」

「あぁ……。お願いします」

 シリウスの申し出にカインは乗った。


「うん、じゃあ。木剣取ってくるね」

「はい。……いや、俺が取ってきます」

「え? いいよ。別に」

「破門にされたくないんで」


「んー」とシリウスは考える。

「別にその程度で破門にしないと思うけど」

「待っててください!」

 そう言いカインは物置の方へと走っていく。


「急がなくてもいいよ?」

 シリウスがカインの背に向けて言った。


 そんな会話をアステルは窓越しに聞いていた。

 少しだけ、微笑ましく感じた。

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