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27話 パンドラの扉の在処

 アステル達がホドへ訪れて数日が経ち、家の掃除は無事に終了し、カインの修行が始まっていた。

 しかし、目的であったパンドラの扉。それがどこにあるのか、情報を掴めていなかった。


 近接戦闘に関してはアステル達三人の中では、シリウスが主に修行をつけ、時々アステルが見ていた。魔術に関しては、カインの魔力が枯渇している為、修行は行っていなかった。

 その為、フェリスは対魔術師戦の模擬戦の相手を担当していた。


 乾いた木の打ち付けあう音が家の中まで聞こえる。窓から庭を見ると、シリウスとカインが木剣で模擬戦をしていた。

「くそ……っ!」

「汚い言葉禁止だよー? 」


 シリウスに軽くあしらわれて言葉を漏らす、カインに対しフェリスは軽口を叩いてる。

 地面に座り、尻尾をパタパタと地面に優しく叩きつけていた。


 もう一つの木剣は町の鍛冶屋から購入していた。その木剣を見て、アステルは思い出した。

 カインの剣を注文していた事を。

 そろそろ出来ている筈だ。アステルは家から出て、庭で観戦しているフェリスに近づいた。


「町の方に行ってくる。あとはお願い」

「はぁい」

 そして、アステルはその場を後にした。


 町の鍛冶屋、冒険者が滅多に訪れない町の為、武具等は少なく。殆どが、農作業用の道具や斧ばかりが並んでいる。それらには目もくれず、アステルはカウンターに立つ男に近づいた。


「おお、アステル。よく来たな」

「こんにちは、頼んでいた剣は出来ていますか?」

「出来ているよ、剣なんて久々に打たせて貰ったよ」

 そういうと店主は、工房の奥に入っていき、一本の剣を持ってきた。


 その剣を受け取り、鞘から少しだけ抜き、刀身を見た。

 刀身に反射して、アステルの顔が映る。

 至って普通の剣。だけど、あのボロボロの剣に比べてしまえば、名剣程の違いはあるだろう。


「ありがとうございます。これ、代金です」

 アステルは刀身を静かに仕舞い、懐から金貨を数枚出した。

 しかし、店主が受け取ったのはその内の半分程。

「これだけで十分だよ」


 アステルは首を傾げた。それを見て、店主は微笑む。

「剣を打つだなんて久々だからな。それに、それはカインに贈るものだろう? あいつは俺からの剣は受け取らなかったが、アステルからなら受け取るだろう」

「受け取らなかった?」


 確かに、鍛冶屋があるのにカインの剣はボロボロだ。

「あれはカインが親父さんから貰った剣だからな。思うところがあるんだろうな」

「私から贈って受け取るんでしょうか?」

 その話を聞いて、少しだけ不安になる。


 そんなアステルを見て、店主は「がはは」と笑い出した。

「アステルは師匠なんだろう? 師匠からの贈り物は、親父から貰った剣と同等に嬉しいものだよ」

 

 アステルは思い出した。今、彼女が身に纏っている漆黒のローブ。

 旅立つ際に、ライラから餞別として、彼女が着ていた物をアステルに差し出してくれた。それが、嬉しかった事を。


「しかし、羨ましいものだな。アステル達みたいに可愛い子に修行をつけてもらえるなんて。身が入るだろう」

 アステルは再び首を傾げた。

 確かにシリウスもフェリスも可愛い。愛おしく、頼りになる自慢の家族だ。


「可愛いと身が入るんですか?」

「そりゃあ、おっさんに鍛えられるよりいいだろうよ」

「そうなんですね……。参考になります。ありがとうございました」

 アステルは頭を下げて、鍛冶屋を出た。


 そして、自身との修行を減らし、シリウスとフェリスとの修行を増やした方が、カインの為になるか。そう思いながら、家へと帰っていく。


 家に戻ると、相変わらずカインはシリウスに軽くあしらわれていた。

 その光景を楽しそうにフェリスは見ている。

 

 「カイン」

 庭に入ってすぐ、アステルは倒れているカインを呼んだ。

 駆け寄って近づいてくるカインは、何度も倒れたのか服が泥だらけだ。必死に強くなろうとしている。

「なんすか?」


 今まで知っている顔としか接して来ていないせいで、カインの敬語は下手だ。

「これ、あげるよ」

「剣?」


 アステルがそっと差し出した剣を受け取り、カインはその剣を見つめた。

「剣なら……」

「あれはダメ。武器は使い手の命を守るものだよ。あれは、もう君を守り切った。休ませないと」


 カインは自身を見つめる蒼い瞳を見て、その視線を再び剣へと戻した。

 刀身を抜くと、刃こぼれが一切ない。鏡のような刀身。

 確かに、剣というものはこんな感じだった。と改めて思う。


「ありがとう。……ございます」

 付け足すように敬語に直すカインを見て、アステルは苦笑いをした。


「カインはシリウスとフェリスと修行した方が身が入るの?」

「何の話すか?」

「鍛冶屋の店主さんから、可愛い子の方が身が入るって」


 鍛冶屋の店主から聞いた話をアステルは考えていた。

 カインは刀身を鞘に仕舞った。

「あのおっさんの話は鵜呑みにしなくていいすよ。中年の戯言なんで」

「そうなの?」


「大体、修行つけて貰ってるのに可愛いとか関係ないすよ」

「身が入るなら私との修行減らして、二人との修行を増やそうと思ってたけど」

「確かに、シリウスさんやフェリスとの修行は身が入るけど」

 

「だったら」

 二人との修行を増やそうか。

 そう言い掛けた時、カインは遮る様に言う。


「アステルさんとの修行が一番気合入るんだ」


「なんで?」

 思ってもいなかったことを言われ、アステルは首を傾げた。


「俺の師匠はアステルさんだろ? 二人との修行の成果を見せるんだ。一番気合が入るに決まってるすよ」

 へぇ……。とアステルは感心させられた。


「成果を見せるって言われても、私は二人より弱いよ?」

 近接戦闘においてはシリウスが、魔術においてはフェリスの方が上だ。

「……? シリウスさんとフェリスはアステルさんが一番強いって言ってたぜ。近接も魔術も出来るからって」

 

「そうなんだ」

 アステルが二人の方へ視線を向けると、楽しそうに談笑していた。それを見て、微笑ましく感じる。


「実際アステルさんとの模擬戦はシリウスさんとフェリスを同時に相手してるみたいで一番やり難いしな」

「そっか。じゃあ今まで通りで行こうか」

「ああ。だけど仕事でここに来てるんだろ? アステルさんは、仕事の合間でいいすよ」


「わかった。だけど、調査する場所が見つかってないんだ」

 肝心のパンドラの扉を見つけない限り何も進まない。

 このまま進展なく時間を浪費するのは避けたい。


「場所?」

「うん、パンドラの扉っていうのを探してる」

 アステルの言葉を聞いたカインは考え出す。

 そして、暫く考えた後口を開く。


「パンドラの扉の場所なら分かるぞ」

「本当?」

 思いもしない発言だ。

 数日間探しても手掛かりすら無かったのに、すぐ側にあるとは。


 そして、シリウスとフェリスを呼び。アステルはカインの話の続きを聞く。


「パンドラの扉は俺の親父が代々見て来た場所なんだ」

「なんで今まで言わなかったの?」

 フェリスが聞いた。

「いや、聞かれてないし。パンドラの扉の調査なんて思わないだろ」


「それはそうか」

 とフェリスは頷いた。

 そんなフェリスを見て、苦笑いした後シリウスが話を続ける。

「場所はどこにあるの?」


「ホド北側にある森の最深部だ」

 カインが指を差したのはカインの自宅の方向。そこはアステル達がホドに入って来た場所との正反対、草原の向こうに山があり、その麓には森がある。


 時刻は既に昼を過ぎている。帰りが暗くなる可能性を考えると、今行くべきではないだろう。

「明日の午前中に向こうに行こうか。カイン、案内頼めるかな?」

「いいすよ」

 カインはアステルの頼みを快諾した。


「ありがとう。じゃあ、お礼に今日は私が相手をしようか。調査が始まると機会が減るだろうしね」

「まじっすか!?」


 アステルはシリウスから木剣を受け取り、左手で持つ。

「左? 手加減すか?」

「いや、私の課題だよ。左手で剣を振る事が出来れば、右手にストックした魔術を撃ちやすいから」


 今までは、右手にストックされた魔術を撃つ際は、魔力の剣を消すか、左手に持ち替えていた。

 今よりももっと強くなるには、その工程をなくし、左手で剣を振るい、右手で魔術を撃つ。

 その為の修行だ。


「なるほど……。俺は、本気でやるんで。怪我しないよう気を付けろよ」

「うん、気遣いありがとう」


 そして、乾いた木が打ち付け合う音が響く。

 シリウスとフェリスは楽しそうにそれを見ていた。

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