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24話 光風霽月

 アステルが目覚めるとそこは洞穴の中、地面には布が引かれ、アージェントウルフのツヴァイが寝そべり、枕の代わりをしてくれていた。

 身体を起こすと、隣で寝ていた狼の子供シルヴィが、起き上がり尻尾を振りだす。そんな子供の頭をアステルは優しく撫でた。


 周りを見ても、そこには誰もいない。

 立ち上がり、洞穴の入り口に立つ。

 雨は降り止み、心地のよい風が木々を静かに揺らす。

 目を奪われる程の満天の星が広がっている。


 そんな星天を見ていると、誰かが物を落とす音が静かな世界に響いた。

 アステルがその方向へ視線を向けると、足元に枝等を落としたシリウスとフェリスの姿。

「「アステル!」」

 二人はアステルに駆け寄り、抱きしめた。


 「わっ……」

 突然抱き着かれた衝撃に微かに声を漏らした。

 アステルに抱き着く二人の肩が、小刻みに震えている。そんな二人の頭を優しく撫でた。

 優しい風が少女達の髪を優しく靡かせた。


 その時間が暫く続き、落ち着いた後に洞穴の中で火を焚いた。

 二人から何があったのかを聞いた。

 グノーシスとセレーネが助けに入り、皆の傷を治し、アステルの魔力の器を修復した事。

 そして、その二人が身を挺して時間を稼いでくれた事を。


「……。そっか」

 地べたに座り、膝に顔を埋め、目の前で揺れる火を見つめる。

 目頭が不意に熱くなり、瞼を力一杯閉じた。


「アステル、泣いてもいいんだよ?」

 シリウスが必死にその涙を止めようとするアステルを諭した。

 それにアステルは震える声で返す。

 

「私のお父さんと、お母さんは、八年前に死んだ」

「うん」


「あの人達は、人間、じゃなくて、傀儡」

「うん」


「あの人達は……。私の、お父さんとお母さんじゃない」

「それは違うよ」


 フェリスの否定にアステルは顔を上げ、二人の顔を見た。

 目頭が火に反射し、輝いている。

「あの町にいたグノーシスさんとセレーネさんも、親だったよ」

 シリウスが真っすぐ見つめ、言った。


「確かにアステルが生まれてから一緒に過ごした八年間の記憶は、植え付けられたものだけど、一緒に過ごした三日間の記憶は本物だよ」


 冷たく熱い雫が頬を伝い、乾いた洞穴の地面を濡らした。

 三人の声が静寂の星天(ほしそら)へ響いていた。


 涙が枯れた後、三人は星天を見ていた。

「私の名前、星って意味なんだ」

「綺麗な名前だね」

「うん、私も好きだよ。この名前」


 シリウスの言葉に頷いた。

「星は一つでも輝けるけど、本質は沢山の星々と共に輝く事で、暗い夜を照らしてくれる。そんな星みたいに沢山の友達を作って、明るい未来を歩いて欲しい。ってよくお父さんとお母さんに言われたんだ」

 シリウスとフェリスは静かに聞き、星天を見上げている。


「シリウスとフェリスって名前もね」

「私達?」

 二人は見上げる顔を下げ、隣で真っすぐと蒼い瞳で星天を見上げるアステルの横顔を見た。

「アステルがくれた名前だよね」


 召喚獣が奴隷として扱われるこの世界では、名前を付けられない事も多い。彼女達もこの世界に呼び出され、少年兵として名前を付けられることなく、アステルが住んでいた町。ダアトを巻き込んだ戦争で戦わされていた。

 そんな二人に名前を付けたのがアステルだった。


「うん。シリウスとフェリスは星座の名前」

「星座?」

「星を繋ぐ事で出来る形の事。シリウスは犬の星座で、フェリスは猫の星座」

「そのまんまだね」


 二人は自身の名前の由来を聞いて笑う。

「そうなんだけど。シリウスの星って夜空の中で太陽の次に明るい星で、フェリスは幸運って意味もある。ダアトからお父さんとお母さんが身を挺して、私を逃がしてくれた時。どこにも行く場所がない私は、これからずっと一人なんだって思った。そして、彷徨っている時に二人を見つけた。私には光輝いて見えて、幸運だと思ったんだ」

 

「私達もアステルの出会えて幸運だったよ」

 二回の両親の喪失は、二回とも自身を守るため。重くのしかかるその重責に、押しつぶされそうになるけれど、きっと、この二人がいてくれたら耐えられる。そんな気がした。


 アステルは星天から視線を下ろし、振り向いた。

 洞穴の中で燃える焚火が揺らめいていた。

「ごはんにしようか」


 三人は焚火の傍に座り、各々荷物から一つの箱を取り出した。

 それは、今朝セレーネが作って渡してくれた弁当。

 戦闘等もあって、中身はぐちゃぐちゃになってしまってはいるけれど、味は問題なく、母の優しさを感じる。

 最期の料理だ。

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