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105話 イェソドの路地裏

 薄暗い部屋の中で目が覚める。静かに身体を起こし、ベッドから立ち上がる。

 シリウスとフェリス、そして、狼の子供シルヴィの静かな寝息の中、アステルは部屋から出ていく。

 リビングに出ると、既にエドナは朝食の準備を進め、シュドウは静かに椅子に腰かけている。

 そして、ライラはソファに座りコーヒーを飲みながら、本を読んでいた。


 相変わらず絵になるその姿を見つめていると、視線に気付いたライラがおもむろにアステルを見た。

「おはよう。よく眠れた?」

「おはようございます。はい、眠れました」

 そっかそっかと、ライラが頷いた。


 アステルが椅子に座ると、シャキッとしたシリウスと獣耳を折り畳み、眠たそうにを擦るフェリスが姿を見せた。そして、シルヴィが尻尾を振りながらアステルの元へと歩み寄り、前足を上げアステルの身体に預ける。

 その重みを受け止め、シルヴィの頭を撫でていると、スズカとラセツ。カインがリビングに姿を見せる。

 エドナが作った朝食を食べ、各々が今日の目的を果たすために動き出す。


 みんなが出ていく中、ライラはソファに座り、本を読む。時々、カップを持ち上げ、静かに飲む。

「先生、皆もう出ましたよ」

 ライラはアステルの言葉を聞き、傍に置かれていた押し花の栞を本へと挟み、パタンと閉じた。

 優雅な佇まいを見せるのとは裏腹に、よっこらせ。と軽く呟きライラは立ち上がった。


「んじゃ。……まあ、行こうか」

 キリっとアステル達を見て、ライラは言った。

 歩き出したライラの後ろを、アステル達が歩き出した。


 イェソドの街中を進んでいく。

 昔と同じ、ライラの夜のような黒髪が靡く後ろ姿を見つめ、アステル達が歩く。

 そうして、メインストリートを外れ、静けさが目立つ地区へと辿り着く。


 アステル達が周囲を見渡す中、ライラは真っすぐに前だけを見つめ、目的地へと威風堂々と歩き続ける。

 やがて、一つの建物の前で立ち止まり、アステル達もまたそれに合わせて止まる。

「……先生?」

 ジーっとドアを見つめるライラを見て、アステルが声を掛けた。


 訝し気にドアを見つめる。罠か何かを警戒しているのだろうか。

 そんな事を考えるアステルをライラは真剣なまなざしで見つめる。

「……ノックした方がいいと思う?」

「……好きにしたらいいんじゃないんですか?」


 呆れたように返すアステルの言葉を聞き、ライラはニッと笑みを浮かべる。

「好きにね……」

 ライラはドアの前に立つ。

 そして、勢いよくそのドアを蹴り飛ばした。


「開けろ! デストロイト市警だ!」

 激しい音が鳴り響き、建物の中が露わになる。

 薄暗く、埃と酒の臭いが仄かに漂ってくる。

 その臭いを気にすることなく、ライラは中へと入っていく。アステル達はため息を吐きつつ、その後を追っていく。


「な、なんだ!?」

 中には複数人の荒くれ者がたむろしており、慌てるように立ち上がる。

 裏商人の姿はないが、木箱等の商品らしきものが積み重なっているのが見える。


「なんだてめえらは!?」

 荒くれ者の一人が声を荒げるように言った。

「通りすがりの郵便配達員でーす」

 ライラは適当に答えながら、周囲を見渡した。


「ああ!? 舐めてんのか! どこに扉を蹴り飛ばす配達員がいるんだよ!?」

「目の前にいるじゃん」

 男達とは対照的に、ライラは酷く落ち着いた声音で返す。

 それが返って彼等の反感を買う。


「てめぇ! 舐め腐ってんじゃねえぞ!」

 男の一人が傍に置かれていた鉄パイプを手に取り、大きく振りかぶりライラへと向かい走り出した。

 鉄パイプが振り下ろされる瞬間、ライラはおもむろに腕を上げる。

 手の平で魔力が小さく爆ぜ、力が反発し鉄パイプは力なくライラの手に収まる。


「……え?」

 男の口から、間抜けな掠れた声が漏れた。

 ライラはニッと笑い、男の襟を掴み、身体を回転させ男を投げ飛ばした。男は味方を巻き込み、床を転がる。

 そして、ライラは自身の手に残された鉄パイプを静かに床に突いた。


 パイプと床の接地面に黄色い魔法陣が生まれる。

 ライラは腰に手を当て、鉄パイプを手の平で支えたまま、腰を曲げ上半身を前へ突き出した。

「最初に言っておくよ。私はかーなーり、強いよ」

 地面から黄色い魔力が鉄パイプを包み、次第にその形を変え、剣になる。


「ふざけやがって……! ギルドに雇われた冒険者か!?」

 床を転がる男達が立ち上がり、武器を手にする。

 剣や角材、鉄パイプ。そして、銃を構える。

 アステル達もまた、身構える。


 アステルは黎明色の魔力の剣を生成し、握りしめる。

 それをライラは横目で見届け、地面に突き刺さる剣を蹴り上げ、男達に剣先を突き出す。

「安心しなよ。死なない程度には、手加減してあげるよ」

「いつまで、そんな余裕な態度で居られるんだろうな!?」


 引き金へと掛けられた指に力が加わる。引かれるその瞬間、フェリスが放った風の刃が男の腕を切り飛ばした。

 男は絶叫を上げ、地面を転がる。荒くれ者者達に動揺が広がった。

「死なない程度には手加減はする。でも、痛い目に合わないとは言ってない。嫌だったら、大人しく降伏したら?」


 男達は震える手と身体を無理矢理動かし、雄たけびを上げて駆け出した。

「あは。……蛮勇だね」

 ライラが小さく呟いた。


 アステル達と男達の力の差。または、経験値の差は歴然だった。

 アステルは降りかかる角材を黎明の剣で切り落とし、男の腹部へ強烈な蹴りを入れる。

 そして、シリウスは刀で鉄パイプを受け止め、鞘で男を殴打した。

 フェリスの風の塊が男達を吹き飛ばした。


 風が床に散り積もった埃を舞い上げ、扉から差し込む光に反射し、薄暗い部屋の中で輝く。

 剣を持った男がライラへと斬り掛かる。

 ライラはその剣を受け流し、男の首元に剣をそっと添えた。

「長生きしたいなら覚えておくといいよ。……勇敢と蛮勇は違う」


 ライラが男の肩を押すと、男は力なく床に尻を着けた。

「ま。君たちが死のうが生きようが、どうでもいいんだけどさ」

 ライラは剣を放り投げ、男を見下ろし言った。

 そして、歩き出し奥へと進んでいく。


 その後ろをアステル達が追いかけ歩き始めた。

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