103話 作戦会議の夜
ライラ達と初対面のスズカやラセツ、カインの紹介を簡単に踏まえつつ、料理を食べて行く。
広いテーブルの上を埋め尽くす程の料理は、皿の底が見える程綺麗に食べ尽くされ、残った多少の料理はスズカが酒を呑みながら摘んでいく。
空いた皿をアステルとシリウス、フェリスが下げて行く。
「ありがとう、三人とも。ライラなんて一回も手伝った事ないのよ」
「キッチンに入るなって言ったのはエドナでしょ?」
エドナの言葉に少しだけ不服そうにライラが言った。
「食材に触らなければ、入るのは構わないわよ」
「時が来たらね……。あ、アステルちゃんこれもね」
アステルは溜息を吐きつつ差し出された皿を受け取った。
「何の時よ……」
エドナも溜息を吐きつつ、呟くように言った。
ライラはそんな二人を他所に、食後にエドナが淹れてくれたコーヒーを口に含む。
「スズカちゃんとラセツさんって、あ。スズカちゃんで良い?」
ライラは美味しそうに残された料理をつまみ、酒を呑むスズカを見た。
「うむ。構わないぞ」
「じゃあ、スズカちゃんで。二人はカグラの人だよね。どうして、フォレスティに?」
「妾は外の世界を知る為、そして、アステルの力になる為だ」
酒を呑み、ぷはぁー。と息を漏らすスズカを見つめる。
「俺はスズカ様の付き添いだ」
「あは。スズカ様って、なんか偉い人みたいだね」
ライラはラセツの言葉に笑いを含めつつ言った。
「うむ。実際、カグラでは偉い方だからな」
「え? そうなの?」
ライラはスズカの言葉に首を傾げた。
「スズカ様はカグラの王だ」
「……ラセツさんも冗談を言うんだね」
「冗談ではない。妾は正真正銘、カグラの王だ」
「あー……スズカ様って呼んだ方が良い?」
「いや、妾はカグラの王であって、フォレスティの王ではない。今ここにいるのは、ただのアステルの友だ」
「そっか。じゃあ、スズカちゃんって呼ばせてもらうね。それにしても、アステルちゃんも随分な大物と友達になったんだねぇ」
ライラは感慨深そうに頷き、今度はカインを見つめた。
「少年はアステルちゃんのお弟子さん?」
「は、はい」
「この歳で孫弟子かぁ。……なんか、萎縮してる?」
「いや、……流石にアステルさんの先生相手は、緊張。します……」
「ええ? こんなに愉快で綺麗なお姉さんなんだから、緊張しないでよ」
「あ、はい。……すみません」
カインが困惑しつつ、謝罪の言葉を発した。
「少年は真面目だね。なんか、アステルちゃんの弟子って感じするよ。弟子は師匠に似るって言うしね」
「そうですか?」
「そうだよ。ほら、私とアステルちゃんも似て——」
「え?」
「え?」
カインの声に重なるようにライラの声が漏れた。
「貴女とアステルちゃんが似てるだなんて、冗談はやめなさいよ。アステルちゃんが可哀想よ」
「いやいや。頼もしくて、かっこよくて綺麗なライラお姉さんと似てるって言われることのどこが可哀想なのさ」
食器を片付けて終え、キッチンから出てきたエドナの言葉にライラが反論した。
「そういう所よ」
「ええ? 事実を言ってるだけなんだけど……」
「カイン、先生の話は真面目に聞いてたら疲れるだけだから、適当に流しなよ?」
「え、それでいいのか?」
エドナの隣に立っていたアステルの肩から顔を出し、フェリスが言った。
「良くないよ?」
「大丈夫だよ、カイン。私達も大事そうな事以外は聞き流してるから」
シリウスが言った。
「え? そうだったの?」
ライラがシリウスを見つめ、カインは交互に二人を見つめた。
「私はちゃんと聞いてますよ」
「ア、アステルちゃん!」
アステルの一言でライラの顔がパアっと輝きを見せた。
「だから、いつも先生に振り回されるんだよ?」
フェリスが苦笑いを浮かべつつ言った。
「そうかも知れない。だけど、それが私達をここまで連れてきてくれたのは変わらないから。……嫌だと思ったことはないよ」
「うんうん。だよねだよね。やっぱり、アステルちゃんは私の一番弟子だよ。ハグしてあげようか?」
「いえ、それは大丈夫です」
ライラの言葉にアステルが食い気味に拒否の言葉を述べた。
「ええ? ……本当にいいの?」
いたずらっぽく笑みを浮かべるライラを、アステルはジッと見つめた。
「……はい」
「まあ、みんなの前だからね」
アステルはライラを見つめる瞳を微かに細め、ジトとした目で見た。
相も変わらず、ライラは悪戯な笑みを浮かべていた。
「お話はそこまでにして、今日の報告と、今後の事話すわよ」
エドナが言い、アステル達は席へと戻る。
アステルの目の前に座るライラは、背もたれに全身を預け、脱力しきり腕がダランと下がっていた。
エドナはそんなライラを一瞬見つめ、すぐに全員を見た。
「まずは、私達が何故ここにいるか。から話しましょうか」
本来であれば、ライラ、エドナ、シュドウはアサイラムにいる筈。
それが、なぜここイェソドにいるか。
「最近流通している銃器について調べてるんですよね?」
ギルド支部の受付嬢、カレンが言っていた言葉。そして、今日あった事を元にアステルが言った。
「確かに、その調査の依頼は請け負ってはいるけれど。それはついでよ。……本来の目的は、あなた達三人よ。ライラ」
「え? 私が話すの?」
ライラはめんどくさそうに溜息を漏らし、身体を起こした。
そして、わざとらしい手振りをしながら話し始める。
「ある日、突然。アサイラムの上空に白いワイバーンが出現しました。これは、町の危機だ! って事で、適当に魔術撃ってたら上空から、やめろーって叫び声がしてさ。撃つのやめたら、そのワイバーンが降りてきてさ。その背中にあの……えーと」
ライラ人差し指をクルクルと回し、思い出したかのようにパチンと指を弾いた。
「カスタネット君!」
「エイブル君よ」
エドナが食い気味に言った。
「あー、そうそう。そんな名前だっけ。まあ、とにかくさそいつが降りてきて私に言ったんだよ。……パンドラの扉に向かったアステルちゃん達の姿が消えたってね。このナイフを残して」
ライラは懐からナイフを取り出し、それをテーブルの上に置いた。
それは強制送還術の紋章が刻まれていたナイフ。しかし、それはもう効果を失いただのナイフになっている。
「タンバリン君が先生に?」
アステルが首を傾げた。
「そ。まあ、私は大丈夫だって言ったんだけどさ、エドナや町の皆がうるさい訳よ」
「よく言うわね。あなたが一番内心心配してたじゃない」
「いやいや、私はアステルちゃん達の事信じてるから。やめてよね、ない事言うのは」
「信頼しているからって心配しない訳じゃないのよ」
「どうしても、私が心配してたって事にしたいんだ?」
ライラは頬杖を突き、エドナを見つめた。
「その事を聞いてから、あなたに依頼した仕事の精度が落ちているとか。町のみんなから情報は来ているのよ。第一、自分からアステルちゃんを旅立たせておいて、数か月落ち込んでた癖に私達に隠せると思ってるの?」
「そうなんですか?」
アステルはライラを見つめ、首を傾げた。
「落ち込んでない! ただ、アステルちゃん達の修行もなくなって、何もすることないからちょっとぼーっとしてただけだって!」
ライラは立ち上がり、ソファへと歩き出した。
もう、やめてよね。と呟き横になった。
そんなライラを見つめ、エドナは、もう……と苦笑いを浮かべつつ溜息を漏らした。
「エイブル君が来たのは、二ヵ月が経たない程前の事よ。私達は一週間程前にアサイラムを出たの、アステルちゃん達を追うためにね。流通した銃器の調査は、アサイラムを出る事を知ったギルドマスターが直々に来て依頼してきたことよ」
「そうなんですね」
納得するアステルを見つめ、エドナが静かに頷いた。
「ライラは渋ってはいたけれど、二年前にギルド本部にここのギルド支部から、アステルちゃん名義で増援依頼を出しているでしょう? 無関係とは思えなかったから、私が引き受けたの」
「消えた人々の捜索の増援ですよね? 関係あるんですか?」
二年前、カレンに自身の名義でギルド本部に届けを出す事を勧めた。
しかし、それはイェソドから消えた人々の捜査。
証拠や痕跡がない。ただ、二年前に異常と感じる程いた町の衛兵が偽物。傀儡だったということしか分かっていない。
「それは分からない。私達の目的は、アステルちゃん達だったから、捜査の大半は後回しにしてたのよ」
「そうですか。……先生や町のみんなに心配をさせてしまってすみません」
「いいのよ。あなた達はいつだって私達の弟子で、町の皆にとって娘や妹なんだから」
エドナは微笑みながら、アステル達三人を見つめて言った。
「……はい」
「ライラの推測では、パンドラの扉に龍が出現して、ナイフを使った時に送還術に巻き込まれて魔界に転移したのだろうと。思っていたけど、どうやらカグラに転移したみたいね?」
エドナはスズカとラセツを見た。
ラセツは真剣な眼差しでエドナを見ていたが、スズカは残された料理を頬張りながら酒を呑んでいた。
「はい。……ナイフを使った際、私達の前にミュトスが現れ、理由は不明ですが魔界ではなく、カグラに転移していました」
「世界の意思が?」
エドナが首を傾げた。
「はい。約束を果たすと、……一度の死を回避すると。そう言ってました」
「ライラ、分かる?」
エドナがソファに寝転がり、本を開き顔の上に載せているライラを見た。
「さあ? でも、アステルちゃん達三人は彼岸契約をしている訳だし、それが関係してるんじゃない?」
彼岸契約。召喚獣と魂から繋がる契約。
しかし、約束がなんの事かがわからないが、ミュトスが現れなければ、あのまま魔界へと転移し、アステル達は死んでいた。
そういう事だろう。
「……なんにせよ、あなた達が無事に帰ってきてくれてよかったわ」
エドナが言った。
「……はい」
「じゃあ、次は今日の報告をしましょうか」
エドナの言葉に、場の空気が一気に引き締まる。
相も変わらず、ライラはソファに横になり、顔の上に本を乗せているが、構うことなく、議題は次のものへと移り変わろうとしていた。




