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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ


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第5夜 鍛錬

 だらだらと歩く。

 いつもなら、気怠い朝をそう迎えていた。


 しかし今日は登校前に自宅周辺をほんの20分程ではあるが走ってみた。

 『体を鍛えよう』ただそう思ったからであるが、運動部に所属している訳でもない自分が鍛えようとしたところで、それしか手段が思いつかなかったのだ。


 ほんのわずかな時間走っただけでこんなに汗をかくとも思っていなかったが、中学時代の体操服は汗でずっしりと重たかった。


 「ちょっとあんた汗だくでなにやってんの?」

 母親にあきれられながら制服に着替え学校へ向かう。


 学校へ着くと蕪木がいつものように人懐っこい顔で挨拶をしてきた。

 「おはよーくにーちゃん!あれ、なんか今日は元気だね?」


 いつもどれだけ眠そうな顔をしているのだろう。

 しかし走ったおかげで、間違いなく目は覚めていた。


 先日の田辺との一件以来、現実と夢のギャップについて考える事が多くなった。

 特に、力が必要な場面では夢の中で感じるそれと現実でのそれとの間に大きな乖離がある。

 

 例えば殴り合うようなシーン。

 現実世界でケンカなどした事が無いので実際の感覚は解らないが、夢の中では拳の握り方一つで相手へ与えるダメージが異なる事が実際に体感した事のように理解が出来た。

 殴る蹴る同様に、掴んだり投げ飛ばしたり、夢の中ではそれが「自然にできる状態」であるが故、冷静に観察する事を忘れなかった。

 もちろん、最後は死ぬのだ。

 痛い思いも当然しているわけだが、どうせ死ぬのならば少しでも有意義な経験にしたいと思っていた。

 

 夢の中の出来事を経験や実感と表現する事は抵抗があるが、基本的に夢の中では「一刻も早く死ぬ事」に重きを置いていた自分が、あれこれ無駄とも無謀とも思える抵抗し、生きながらえた事で得た結果だ。誰かに妄想と罵られようと、日を追う毎に少しずつ蓄積されるものも増え、実際にこうして走ってみようと思える程度には分析できた訳だから、決して無駄ではなかったのだと思う。


 「ちょっと朝走ろうと思ってさ。少し走ってきたらバッチリ目が覚めちゃってね。」

 身体が温まっているからか、いつもよりも数段明るいトーンで声が出た事には驚いたが、蕪木の驚きはそれを上回っていた。

 「え?くにーちゃんって、そんなお真面目キャラだったの?なに、ダイエット??」  

 

 文科系一直線のような自分が朝走ってきたと聞けばそりゃ誰でも驚くのかもしれない。

 ・・・が、どんなに夢の中で技術を習得しようとも現実世界で意味がない物であるならばそれはそれで勿体ないと思うし、もしまた先日のような事があれば相手を1発くらいはバシッと殴ってみたいと言うなんとも仕方がない事が理由でもある。

 なんにせよ、夢を見たら死ぬまで起きれないんだと言う情報が相手と共有できない以上

 「ま、そんなとこよ。お、川田来たぜ」

 ニコニコしながら適当にごまかすしかなかった。


 初夏に差し掛かった頃、学校生活でも大きな変化があった。

 先ずは体育の授業。

 腕立て伏せや腹筋・スクワットなどしごきのような始まりだったが、今は球技や陸上競技などやっと授業らしくなってきた。

 3人いる体育教師は陸上部、空手部、柔道部の顧問を務めていた。

 それぞれ堅気とは思えない見た目をした教師が竹刀を片手に見守る授業は今でもそれなりに緊張感はあるが、それでも延々とやらされ続けるスクワットよりは楽しいものだ。


 次にクラスの席替え。

 中学時代はくじ引きで公平公正に決める事が多かったが、担任の方針で

 「自由に好きなところに座れ」

 と言う、高校生ながら画期的だなと感じる席替えだった。

 授業に差し障るようなら元に戻すという注釈付きだったが、自主性を重んじられたようでなんだかうれしかった。

 もちろん、隣近所は仲の良い人間同士が集まる。

 貝塚・蕪木・照内・生井・野口と組んで教室の中央後方を陣どり日々の学校生活が少し楽しくなった。


 そして、なんといっても高校生活の華とも言える部活動。

 基本的に生徒は全員一度はどこかの部に所属しなくてはならないという謎の校則によって、入学当初は帰宅部を決め込んでいた生徒も嫌々ながら入部していった。


 1時間の授業をまるまるつぶして入部希望の希望を聞くと言う時間があった。

 別室に一人ずつ呼ばれ2,3分ではあるが、一応生徒の話を聞いてくれる時間だ。

 「次、くにーちゃんの番だってよ」

 先に呼ばれた蕪木は、アルバイトしたいから入部したくない!と駄々をこねたようだが担任には一蹴されたらしい。

 

 「失礼します!」

 「おお國井!まぁ座れ座れ!どうだ、あれから田辺にはイジめられてないか?」

 しばらく指に痛々しいギプスをはめていた田辺だったが、顔を合わせても無視される程度で実害はなかった。

 「あー・・・はい、まぁ、話はしてくれませんけど、大丈夫です。」

 あくまでも自分はスクールカーストで「その他大勢」の立ち位置なんですと言うアピールも含め、弱々しい声でそう伝える。

 担任はそれならまぁ大丈夫だろうと言いつつ本題に入る。

 「お前はあれだ、音楽で推薦されてきたんだから当然ブラスバンド部だろう?」


 それを聞いて、学校をここに決めた理由がもう一つあった事を思い出した。

 どういう訳だか音楽だけやたらに成績が良かった為、本来であれば頭の良い生徒の為のシステムであるはずの推薦入試が、平々凡々とした自分にもその恩恵を受けられたのだ。

 数年前まで不良の巣窟とまで言われた高校も、今では名前を変わりイメージの払拭に努めているようだが、少しでも「まともな生徒」が入学してくれるよう推薦入試の条件が物凄く緩かった為だ。

 

 3年間トラブルも起こさず、目立たない生徒ではあったが真面目に部活動にも取り組んできた。

 数度の面談こそあったが、高校入試免除は中学3年の自分にはありがたい制度であった事は間違いない。

 

 「あ、はい。入部したいです。」

 担任の有無を言わせない語勢でそう答えてしまったが、面白くないようなら辞めてしまえば良いと簡単に考えていた。

 これが後々面倒なトラブルの火種になるとは思わずに。


 放課後、いつものように帰路につこうと身支度を整える。

 既に部活動の見学は自由だったが、今はなんだか少しでも走りたい気持ちだった。


 日直当番だった自分は日誌を担任に提出する為に職員室に立ち寄る。 

 日誌を渡し「失礼します」と職員室を出ようと思ったところで、野球部の顧問教諭である鈴木に腕を掴まれる。


 「川田先生!こいつ川田先生のとこの?」

 さわやかな笑顔で川田に問いかけるが、川田はにべもなく答える。

 「あーそいつブラスバンド志望なんですよ。ほら、音楽推薦で入ってきたヤツだから」

 あー!おまえか!と言いつつ鈴木は自分の太ももとケツを撫でまわしてきた。


 「お前な、音楽だけで推薦入学してくるってのは珍しいんだぞ?どうだ、野球部入らないか?」

 確かに音楽の成績だけで推薦入試を受けたという話は聞いたことがない。

 珍しいかもなと自覚はしていたが、こう面と向かって言われるとまるで悪い事でもしたような気分になってきた。


 「いやぁしかし・・・このケツ!見てくださいよ。どっしりした良い下半身!もったいないなぁ、ねぇ中川先生!」

 鈴木から二つ隣の席で様子を見ていた、最近は鬼軍曹と言うあだ名が生徒間では定着している中川が答える。

 「こいつ他はあんまりだけど、スクワットだけは元運動部にも負けないっすからね。確かに文化部は勿体ない。」

 生徒に対する口調とは異なる中川の発言に、間髪入れずに川田が口をはさむ。

 「おい、國井、おまえ野球部入ったら間違いなくキャッチャーだな。」


 鍛えたら一年でレギュラーも狙えるかもしれない、と教師同士で盛り上がっている。

 褒められているのかけなされているのか。

 もしかしたら馬鹿にされているのかもしれない。

 

 真意は解らないが、あの鬼軍曹や野球部顧問の話題になったのはちょっぴり嬉しかった。

 少なくとも、何しろ自分は弱々しく自分自身に対して自信のかけらも無かった中学時代が嘘のようだ。

 

 しかし、ネタになる程度にはしっかりした下半身をしているのは新たな発見として素直に受け止める。走りこむなりスクワットするなり、自分で出来る事はとりあえずやってみよう。


 既に変わりつつある日常が少しずつ変化しているという事は、目を覚ました時の絶望感が少しでも緩和される事に繋がるのかもしれないのだから。

野球部顧問に腕を掴まれてからの一連の流れは実話だったりもします。

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― 新着の感想 ―
[一言] いきなり学園編から夢になって、時代劇に切り替わるのはすごくよかったです。面白かったですよー。
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