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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ


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9/60

第6夜 墜落

 ごぉぉぉぉぉ・・・


 遠くから聞こえてくる風を切るような音で意識がはっきりする。


 気が付くと周囲は真っ白な世界だ。

 物凄い勢いで風が吹き付けてくる。

 この今まで体験したこともない強風は一体何事なのか。

 

 とてつもなく風が冷たい。

 体が自由に動かないほどの強風に煽られ、身をもがいていると急に自分の体が上下入れ替わった。

 これはもしかして。

 自分の状況を分析しようとしていたところ、突然周りの世界が一変した。


 白い世界から抜けだし、視界に素晴らしい景色が開ける。


 やっぱりか・・・

 頭の中は既に絶望感でいっぱいだ。

 どうやら、自分はどこからか落下しているらしい。

 風が吹いているのは間違いないのだろうが、それよりも自分が落下していく事で受ける風の方が遥かに強い。


 自分の眼下にはちょうど半分が海、半分が陸地で占められている。

 どこかで見た事のある地形のような気もするがそれがどこなのかは解らなかった。


 テレビでパラグライダー体験をしてきゃーきゃー騒ぐ芸能人を見て、そんなに怖い物なのかと疑問に感じた事を思い出した。

 なるほど、これは確かに怖い。

 あの時は疑ってごめんなさいと言う自責の念を感じる程度に思考がクリアなのにも気が付く。

 

 この後どんな展開になるにせよ、自分自身が置かれている状況は把握せねばならない。

 夢の中だろうとやるだけやる、と決めたのだ。


 動かしにくい手も慣れてくるとなんとか動かせるようになる。

 体を這わせて身に纏っているものを確認していく。

 しかし、そこには衣服以外に身に着けているものが無かった。


 これが意味するところは一つ。

 自分の意志で飛ぶ事が叶わなければ最終的には墜落するしかない。

 こんなに無茶苦茶な設定の夢も、ここ最近では珍しい気もする。


 もっともパラシュートのような物を装備していたとして、結局はうまく開かなくて終わり、と言うオチも考えられる。

 そう考えると、何もなくただひたすらに落下し続けると言うのはある意味で潔い。


 最近は毎夜見る夢の世界は、自分が死ぬ事で終わりを迎える。

 どんなに長くても、逆にどんなに短くても、死んでしまえばそこで終わり。

 そうして、目が覚めるのは決まって目覚ましの鳴る5分程前である。


 夢である以上色々な世界観が登場するが、今回のように為す術が全くないという事は少ない。

 しかし、ならではの理不尽さは多少感じるものの、現実に近い世界で魔法のような特別な力が使えたり、時間を止められるような特殊な力があるわけではない。


 夢の世界を観察するようになってから発見した事であるが、どうもその世界観に則った設定とも呼べる物があるようだ。

 例えばそこがゲームの世界観に近ければ火を出すくらいの魔法は使える事もあるし、戦争が起きている世界ならば扱った事もない銃が普通に使える。

 もっとも、それらとてそれぞれの世界観においては極めて自然なものであり、決して必要以上にチートな事はないのだ。


 あれこれ試してみるものの、重力に抗う事なく落下し続ける自分の体はその勢いを抑える事はできない。

 出来たのは、体を広げて抵抗を増やしてほんの僅かではあるが進行方向を変える事と、逆に抵抗を減らしてスピードを上げる事だけだった。

 このままではどう考えても墜落するしか手段がない。


 過去に見た夢に解決策が無いか思考を巡らす。

 確か以前にお尻を地面につける事で、まるで見えないクッションが浮かんでいるかのように体がふわっと浮いた夢を見た事があった。

 あの時は良いだけ晴れた空の散歩を満喫した挙句、電線に触れて感電死したんだよな・・・。

 魔法使いよろしくホウキにまたがって空を飛んだ夢も見たっけ。

 あぁ、でも結局は魔法の力で暴走したホウキをコントロールできずに、地面に突っ込んで死んだんだった。

 

 ダメだダメだ。

 最終的に死ぬしかない夢を見ているだけに、そこに解決策があるとは思えない。


 あれこれ考えているうちに地面の様子が解る程度に近づいてきた。

 正確にはこちらが近づきに行っているのだが。


 これでは流石にもうどうにもならない。

 大人しく突っ込むか。

 そうは思うが、なんとなく頭から突っ込むのは怖い気がして、なんとか足から着地できないかと身をくねらす。


 背中を落下方向へ向け視線を空に向ける。

 こうすると足元から地面に着くような気がするのだから不思議だ。

 

 このまま空を歩けたら良いのに。

 考えるでもなしに足で空を切ってみる。


 すると、一瞬ではあったが体が重力に逆らうような抵抗をしたのを感じる。

 ・・・おや?これはもしかしてそういう世界ですか?

 淡い期待を抱き足元を蹴るような動作をする。

 すると、やはり同じようにほんの一瞬落下スピードが落ちたように感じた。


 これは自分が空を飛ぶなり歩くなり出来る世界なのではないか。

 そうなれば少なくとも墜落して死ぬ事もないと感じたら胸に急に安堵感が広がる。

 

 その時、視界の端に見覚えのある物を捉える。

 地面から生える鋭い槍のような形をした三角形のそれは、発電所で作られた電気を各地に送るための送電用の鉄塔だった。

 

 体重65kgの人間が重力に逆らわずに自由落下した場合のスピードがいかほどになるのかは知らない。

 しかし、鉄塔が見えたという事は残された時間は僅かにしかない事を強烈にアピールしていた。


 満たされた安堵感が絶望に変わる暇もなく地面に叩き付けられる。

 ゴンともガンとも取れる音がしたと思ったが、その音を聞き取る間もなく意識が無かった。


-----

 

 遮光カーテンから漏れる日の光とスズメ達が気忙しく鳴く声が、少しずつ脳内に浸透していきそれと引き換えにゆっくりと目が覚めていくのがいつものお決まりなのに。

 聞き取れなかった音を再度聞くとともに、頭をしたたかに打ち付けて目を覚ました。

   

 目を覚まして一番最初に訪れる感情は、激しい絶望感。

 それは今日も変わらない。

 目覚まし時計に表示されてるデジタルの日付が昨日よりも一日進んでいる事だけが唯一の救いともいえる。


 夢の印象も相まって、打ち付けた頭が痛い。

 墜落と同時に自分もベッドから落ちたのだ。

 尿意があるとトイレを探す夢を見る事があるが、微妙に現実世界とリンクしているのは夢のメカニズムとして不思議な部分でもある。

 自分が共感できるはずもないが、それをロマンと言う人もいるかもしれない。


 「ふぅ・・・」

 よし、シャワーでも浴びよう。

 コブになりそうな頭をさすりながら、タオルを探す。

 

 さぁ、今日は一体どんな一日になるのだろう。

 いつもと変わらないつまらない一日でも良い。

 せめて、現実では安堵が絶望にめまぐるしく変わらない事を祈るばかりだ。

寝てる時に「ビクッ」ってなるあれ。

ジャーキングと言う不随意運動なんだそうですね。


ちなみに夢占いで落ちる夢は「運気の低下」を暗示しているそうですよ。

心身共に草臥れているときに落ちる夢ってよく見る印象です。

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