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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ


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第30夜 異界-前編-

 体が宙を舞っている。

 いや、舞っているのではないな。

 回転しながら飛んでいる雰囲気だ。 


 ───ドサッ!!


 地面に背中から着地して、今宵の夢の世界の幕が開けた。

 目の前にはものすごい量の土煙。

 これは一体どうした事か。


 夢の世界で目覚めて先ずしなければならない事は状況把握。

 どんな理不尽な状況であれ、世界観を掴まない事には始まらない。 

 結局最後は死に至る訳だが、効率よく死に向かうにしても、夢の中を生き抜くにしてもこれは大切な事だ。


 時間の経過と共に土煙が晴れていく。

 次第にうっすらと二つの人影が見えてきた。

 

 「クヌ!ごめん!うっかり巻き込んじまった!!」

 右の人影が叫ぶ。

 「クヌ・イー大丈夫!?」

 続いて左の人影が走って近寄ってきた。


 クヌ?クヌ・イー?

 もしかしてそれはこの世界における自分の名前なのだろうか。

 情報を処理しきる前に駆け寄ってきた人物の顔を見て、危うく思考回路がフリーズしそうになる。


 「!?!?!?」 

 あれ。

 どうした事か。

 生井ちゃんじゃないか。


 「すぐ回復魔法かけるね!」

 そう言うと体に手を当てて目を閉じ、体に力を入れたようだ。

 全体がじんわりと心地良い暖かさに包まれた。

 これは何とも不思議な感覚だが、とても気持ち良い。


 「ナム・イーの回復魔法があるって思うとつい油断しちゃうね」

 間を置かず、もう一人の人影も姿を現す。

 なんという事か、こっちは蕪木じゃないか。


 「いやいやいやいや、カビ・キーはもう少し考えてから攻撃魔法使おうよ!」

 力を抜いた生井ちゃん─で良いのかどうか解らないが─は、少し早口にそう叫ぶ。


 現実で出会った人間が、こうして目の前にいる。

 夢の中で初対面だった渡辺や高石とは違う順序で現れた二人を見て、恐怖のあまり言葉に詰まる。

 「どど・・・どうして、蕪木と生井ちゃんが・・・?」

 震える声で絞り出した声を聴いて、二人はキョトンとした顔をしてお互いを見つめ合った。


 「あちゃー・・・打ちどころが悪かったかな・・・?」

 「もう一回、回復魔法かけとく?」


-----

 

 二度目の回復魔法をかけてもらった後、二人にくっついて歩く。

 歩きながら観察をしてみると、ここはどうやらファンタジーの世界のようだ。

 

 ナム・イーはローブ状の舞台衣装のようなシックな色合いの服に長い杖を持っている。

 一方、カビ・キーも長い杖こそ同じだが、服装は赤い布で出来たシャツに深いグリーンのサルエル状のパンツをはいている。

 そして、自分の格好は綿っぽい素材でできた黒いパンツに白の長袖シャツ。

 まるで、ただの高校生がそのままファンタジーの背景に合成されたかのように、モノトーンで極めてシンプル。武器の類いも、魔法の杖も持っていない。

  

 周囲の様子はと言えば、だだっ広い草原だ。

 時折、青々とした木々が視界を覆うかのように伸びているかと思えば、足元には小さく柔らかな色彩の花も咲いている。

 遠くには、山頂に雪化粧を施したアルプスのような山脈が見え、歩く先には町のような村のようなちょっとした人工物の集まりが佇んでいた。


 話しかけるべきか。

 いや、話しかけるにしても何をどう話せば良いのだろう。

 普通に歩くよりはだいぶ早いペースで進む二人の背中を眺めつつ逡巡していると、こちらの脳内会議などお構いなしにカビ・キーが話しかけてきた。


 「クヌは今夜何食べたい?痛い思いさせちゃったから、クヌの食べたい物食べようよ。」

 現実と変わらず鼻にかかった独特の声を出している。

 「この間のクヌの活躍のおかげで手持ちのお金がかなりあるから、今日はちょっと高いもの食べてもいいね!」

 事情は良く解らないが、ほくほくとした顔でナムもカビの意見に同意している。


 「いや、あのさ。」

 二人の交わす雑談のペースも現実の二人そのままだったが、間隙を縫って割って入ってみた。

 「なんと言えばいいか、生井ちゃんと蕪木・・・だよね?」

 改めて、二人に名前を聞いてみる事にした。

 しかし、反応は芳しくない。

 芳しくないどころか、カビのせいで頭打っちゃったとか、ナムの回復魔法のレベルが低いせいだと、言い合いが始まる。


 責任を互いになすりつけ合う事に意味がないと悟ったのか、二人はまるで小学生にでも説明するような口調で自己紹介をしてくれた。

 「俺は、キー族の攻撃魔法使い、カビだよ。カブキじゃない、カビ・キー。」

 「僕は、クヌと同じイー族の回復魔法使い、ナム。ナマじゃないよナムだよ。」

 口調こそ砕けていたが、二人とも顔は真剣そのもので大真面目。

 ふざけている訳でも知らない振りをしている訳でも、役になり切っているという訳でもなさそうな雰囲気に、これ以上質問を続ける気にはならなかった。

 

 「あ・・・あぁ、そうか。ありがとう、もう大丈夫だよ。」

 それに、今ここが夢の中とは言え、現実世界では友人と呼んでいる二人にあまり心配をかけるのは気が引ける。

 イマイチ事態は呑み込めないが、とりあえずは二人に合わせておこうと思った。

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