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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ


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第29夜 失恋-後編-

 会場に戻ると自分たちの次のバンドの演奏がちょうど終わるタイミングだった。

 ちょっとした青春ドラマのせいで聞き逃してしまったが、会場の反応を見る限りは見るべきものではなかったのかもしれないという、ともすれば失礼極まりない感想を抱いてしまった。

  

 最後の10組目がステージに上がる。

 バンドと言っても様々な形態があるが、ラストは高校三年生と言う二人組。

 アコースティックギターを持った男子とミニキーボードを手にした女子のデュオだ。


 不思議な雰囲気を持つ二人組はこの会場の誰よりも異彩を放っているように感じる。

 それを証明するかのように、二人がステージに立っただけですぅっと会場が静まり返った。


 司会者の紹介もそこそこに、演奏が始まる。

 音色も声色も涼やか。

 歌詞の内容も森の中を駆け巡る妖精を主人公に、悩める高校生の言葉にならない苦しみをサラリと歌い上げている。

 技術もセンスも明らかに数段上に居る。

 爽やかな曲調とは裏腹に、格の違いと言う残酷な事実を強烈に叩き込まれる。

 その現実に精神的なダメージは計り知れないはずなのに、そのダメージを癒してもなお有り余る魅力がステージから溢れている。


 「あ!!」

 と言う、主人公の妖精が驚きと共に息絶えるセリフで曲が終わる。

 これは歌ではない。まるで短編映画を見ているようだった。


 「「ありがとうございました」」

 曲の一部でもあるかのように、二人が絶妙なハーモニーで感謝の言葉を述べた。

 賛辞を込めた拍手の音に紛れて誰かがすすり泣く声が聞こえる。

 ふと目をやると、先ほどまであんなに威圧的だった不良然とした人たちも涙をぬぐっている。

 音楽と言う表現の奥深さを体感した瞬間だった。


 その後は淡々と進む。

 参加グループのうち1組しか選ばれない全国大会へのチケットが誰の手に渡るかは明らかだった。

 審査員による講評が始まる。

 辛辣なセリフもあれば激励や共感、感謝の言葉まであった。

 大人からは厳しい意見しか言われない物だという思い込みがある自分にとっては、例え厳しい内容であっても、あくまで演者と審査員と言う対等な立場で話をしてもらえるというのは、素直にありがたいと感じる。


 1組目から始まり、いよいよ自分たちの番だ。

 老眼鏡をかけた初老の男性がマイクを手に口を開く。

 「演奏の技術自体は最下位に近いけどね」

 解っていた事ではあるが、面と向かって言われると辛いものがある。

 「音楽ってのは上手ければ良いってものでもないし、聞く人がきちんと見えているアレンジやステージ上のコミュニケーションは目を見張るものがあったよ」

 伸びしろがある分また来年も楽しみにしています、と締めくくられた。

 

 後に一般投票も含めた結果が知らされたが、全体で3位。

 あと一歩と思えなくもない結果であったが、妖精デュオを目にした後ではメンバー全員が納得の結果だ。


 イベント会場までは最寄りの駅から電車に揺られおおよそ一時間。

 県庁所在地がある場所だ。都心方面とは違う意味で栄えている街並みは田舎の高校生にはそれだけで魅力のある物だったが、想いの丈をぶつけ切った後では、せっかく地元よりも都会めいた場所まで来たのだからと遊びに行く元気がある者は誰一人としていなかった。


 帰りの電車では睡魔が襲う。

 眠いなぁと思った時にふと、手の動きの件を思い出した。

 「須田さんさ、なんであの手の動きが『アイシテル』になるの?」


 自分と同様に寝落ちしかかっていた須田が顔を上げた。

 「んー?あーあれね。なんていうかな、手話って解る?」

 「解るというか、そういう物があるってことくらいは」

 実際、ドラマで何度か見たことがある位の知識しか持ち合わせていない。


 「五十音を表す手話があって、指文字って言うんだけど、たとえばこれだと『ア』だし、これだと『ホ』だし」

 須田はそう言いながら、手の指をまっすぐそろえた状態で手の甲をこちらに向け、指先を上に向けている。

 『ア』はアルファベットの『a』を、『ホ』は『帆』をそれぞれ手で表現した形なんだそうだ。


 「さっき、くにーちゃんがやってたのを並べて読んだら『ア・イ・シ・テ・ル』になったから」

 ニヤニヤしながらこっちを見る

 「もしかして、倉ちゃんの事話すのにちょうど良いタイミング?と思ってたら」

 「私もそれに気付いたってわけ」

 スヤスヤと寝息を立てていたのかと思いきや、高橋も急に割り込んできた。


 ここで新たな疑問が浮かぶ。

 「どうして須田さんたちは手話が解るの?」

 そう問うと、須田と高橋は顔を見合わせてうふふと笑う。

 「私たち、母親同士が手話を学ぶサークルに通っててね」

 「そうそう、それがきっかけで仲良くなったんだよね!」

 手話が解る訳ではないが、退屈すると指文字でしりとりをしてて自然と覚えたんだというような事を、示し合わせたかのように説明をしてくれた。


 同時に指文字は英語に例えるならばローマ字に該当するような物で、実際には補助的に用いられる手段だという説明を受けた。

 「あんまし指文字だけでって使わないよね~」

 胸の前に出した左手の甲を右手の掌で数回なでるような動作が本来の『愛してる』と言う手話表現になるんだそうだ。


 ここで、先ほど須田が例として挙げた言葉が『アホ』であった事に気付いた。 

 その事を軽く詰るものの、話題はすぐ別の方向へ流れていった。


 そうこうしているうちに、青春を載せた電車は最寄り駅に到着した。


 改札を抜けると、誰から提案したわけでもないが、互いが互いの手を取り合う。

 全員の手がつながったところで須田が口を開く。

 「みなさん!本当にお疲れさまでした!せ~のっ!!」

 

 全員で叫びながら両腕を高く上げる。

 高く上げながら、泣いた。

 泣きに泣いた。様々な感情が渦巻いて、涙が溢れて止まらなかった。


 練習中、一度も自分たちのバンド名を口にしたことはない。

 まして、みんなでこうやろうよ、と打ち合わせた訳でもない。

 この出来事は、みんなの気持ちが一つになれた事へのご褒美のように思えた。


 『『『『『 Flicker!サイコー!! 』』』』』

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