表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/53

第二十七話 その柔らかさと暖かさに用があった

「ただいま~」

 これぞうは帰宅後元気よく居間に入った。

「あらあら、ぷぷぷっ……」これぞうを見てあかりは笑い出した。「見たわよ。これぞうったら、幼児と手を握ってニヤつきながら通りを歩いていたわね。ここに可愛い嫁がいるのにも拘らず。ロリに目覚めたのかしらぷぷぷっ……」

 このように可愛い弟をからかうのが姉の趣味の一つだった。

 あかりは居間の机の席につき、その向かいのにはみさきも座っていた。二人して夕方のニュースを見ていたようだ。みさきはこれぞうの顔を覗き込んだ。

「ちょっと姉さん。何を言うんだ。それを言うなら児童だよ。彼女はもう小学生さ。幼児ってのはそれ以前の段階だよ」

「え?ツッコむのそこ?」とあかりは呆れて言う。

 これぞうはみさきの視線に気づいた。何てことはない。穏やかないつもの表情で見ている。

「ちょっと待ってよ、みさきさん、あかり姉さんの淑女ジョークなんかを真に受けちゃいけない。僕はね、こうしてあなたを嫁に貰ったのがその証拠となるように、どちらかと言えば年上の方が好きなんだ。児童を愛ではするが、そういう感情は持たないよ」これぞうはみさきの前に座って言った。

「テレビ、見えないよ」とみさきは返した。

 これぞうはそれは悪かったと思って少し横にずれた。

「別に、そんなこと言わなくてもこれぞう君を信じているよ」

 みさきは顔はテレビに向けまま、目線だけは横にいるこれぞうに向けて言った。

「みさきさん……いやぁ僕は信頼されてるんだなぁ。これも日頃の精進のおかげって訳だ。はっはは~」

 これを机の向かい側で見ていたあかりは「さすが、みさき先生は大人の余裕があるわね。夫婦で信頼しているだなんて、見せつけてくれるわぁ~」と言った。

 みさきはそれを聞いて頬を赤くした。これぞうはそれに気づいた。

「姉さん、そうして茶化すのは程々にして欲しいなぁ。僕たちはまだまだそういうのに敏感な段階なんだからさ。恥ずかしくなっちゃうだろう?」 

「まぁまぁいいじゃない。その初々しさがある内が華よ」あかりは弟のこともその嫁のことも可愛いと思っていた。


 みさきの膝に置かれた手がこれぞうの視界に入った。先程まで握っていた子供の手を、その柔らかさと暖かさを思い出す。そうする内に、これぞうは自然とみさきの手を取っていた。これぞうはその手をゆっくり自分の胸の前まで引き寄せる。

 次には両手でみさきの片手を撫でたり指で押したりしてみる。とにかく触りまくった。

「ふむふむ……」と言い、これぞうは研究するように熱心にそれを行っていた。  

「……何?」みさきは当然の問いを投げかけた。

「ああ、これはすまない。いや、何ってわけじゃあ……」

「これぞう、可愛いお嫁さんと仲良くしたいのは分かるけど、何も晩ごはん前に居間で始めないでよね」あかりはまたこれぞうを茶化した。

「姉さん、そういうことじゃなくてさぁ……なんていうか、子供の手は、みさきさんの柔らかい手ともまた違って……うぅむ、何と言えばいいのだろうか……」これぞうはまだみさきの手を握ったまま言葉の続きを考える。

「子供の手の感触が新鮮だったんだ。柔らかいし暖かい。みさきさんだってそうだけど、それとは少し違う。いや、かなり違う。それでね、来る第一子誕生の前にも、なんだか親の気持ちになったみたいな……僕もいつかは自分の子と手を繋ぐと想うとね、なんだか不思議な感じになったんだ。そんなこんなで今再び、こうしてみさきさんと子供の手の感触を比べているという訳」

 みさきはこの言葉を聞いてはっとした。言葉にするには難しいこれぞうの気持ちを感じ取ったからだ。これぞうにも親の自覚が芽生えて来たと分かった。それは自分にとって嬉しいことだった。

「いやしかし……プニプニとして柔らかい手だ……児童に引けを取らない柔らかい手だね」これぞうはワンダフルな感触を楽しんでいた。

 みさきは恥ずかしそうでもあり、嬉しそうでもある表情でこれぞうを見つめていた。

「うん?みさきさんどうしたの?あぁ、恥ずかしかったかな?姉さんの前だし」

 みさきは、そうではないという意味を込めて首を横に振った。


 ここで台所から母が料理を持って登場した。

「これぞう!いつまでもみさきさんの手を握ってないで箸や茶碗の準備くらいしなさい」

「ああっ、これはお母さん。気がつかなかった。ごめんよ」と言うとこれぞうは慌ててみさきの手を離した。

 みさきは自分も手伝うと言ってこれぞうと共に台所に向かった。

 あかりは、ちょっと冷やかしたつもりが夫婦の絆を見せつけることでやり返されたなと思った。そんなあかりの表情は朗らかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ