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第二十八話 龍、再びソニックオロチの地に舞い降りる

「わぁ~今日も晴天!お天道様も相当ご機嫌だなぁ~」

 これぞうは自室の窓から二月の青空を見上げた。陽光は窓から差し込み、自室の畳を照らす。幾年にも渡ってこの光を浴びた畳は、緑色の状態でここに運ばれた頃からすっかり色を変えて黄色になっていた。これぞうはどちらの色も愛しいと思った。

 庭の物干し場に目を向けると、そこには母とみさきの姿があった。

 これぞうは窓から顔を出し、庭にいる二人を見た。厳密にはみさき一人に注目していた。

「ああしてお母さんと仲良く洗濯物を干す我が妻を見れば、いよいよ所帯持ちとなった実感が湧くというもの」幸せに浸るこれぞうの頬は思わず緩んだ。

 

 ここで勉強机の上に置いた携帯電話が鳴った。高校の頃から今でも使っているガラケーだ。もう彼の周りでガラケーを使っている者はいなかった。家族の中でも彼だけがガラケーのままだ。

「はい。もしもし、これぞうです」

「あ!これぞう!これぞうなのね!携帯電話を通しての声は限りなく本人に似せているだけで、その正体は電波が生み出した奇跡の旋律だとか聞いたことがあるけど、それでも今私が耳にしているのこの旋律はこれぞうによるものなのね」

「ああ、そうだよ。間違いなくあなたの従兄弟の五所瓦これぞうがお届けする電波の奇跡だよ。なんだい、その大げさな例を引っ張っての本人確認は?アドレス帳に登録した僕の連絡先にかけているのだろう?とにかく電話の受け手はアドレス帳通りさ」

「いいえ、あなたにかける時にはアドレス帳で作業を簡略化しないわ。空で覚えたものを、真心こめてワンボタンずつプッシュするの。分かるでしょう、この龍王院桂子りゅうおういんかつらこの真心が」

「桂子ちゃん……愛の重量がちょっと……もう少し軽量化した方がいいと想うよ」

 彼の従姉妹桂子は、彼に対しては重めな愛情表現をする愉快な女であった。

「まぁそれは置いといて、あなた今実家にいるのでしょう?」

「ああ、確かに。今は自室で妻がいる幸せを噛み締めていたところさ」

「あらあら、おのろけ電波を送るのは止してちょうだい。妬いちゃうから。でも部屋にいるなら良かった。じゃあ部屋の窓を全開にしておいて。いいわね?」

「え、ああ、今丁度全開にしたところ……何で?」

「そう、ならいいの。じゃあまた後でね」ここで桂子は電話を切った。

 これぞうはガラケーを見て言う。「え?一体なんだっていうんだ?桂子ちゃんっていつも嵐のような人だからな。やることが無茶苦茶っていうか、パワフルすぎるんなよなぁ」

 従姉妹との通話を終えると、これぞうは今一度青空を見上げ、背筋を伸ばした。伸びをすると気持ち良い。その時、太陽の中に黒い影が見えた。

「ややっ!」

 これぞうは視力2.0以上の両目でそれを見つめる。遠い、限りなく遠い場所だが、何かが空から舞い降り、こちらに向かってくる。

「ん?何だ?こっちに来る?新手のUMAかな?よし、カメラを回そう」

 これぞうはガラケー内臓のビデオカメラを機動させた。最新のスマホと比べると大きく画質が劣るカメラだが、とりあえず回す。

 それはこちらに近づき、段々段々大きく見えてきた。遂にはそれが人間のシルエットだと気づいた。

「えええ!!まさかまさか!さっきのはこのことか!」

 これぞうが驚いている間に、そのシルエットは窓から部屋に侵入した。ドンという大きめな音が部屋に響いた。彼は逃げるタイミングを失い、空から落ちたそれの下敷きになった。

 

「着地成功!あ~二月の空、超気持ちいい~!これぞう、これぞう?」 

 あたりを見回してこれぞうを探すその者は、これぞうを下敷きにしていると気づき、どうりで部屋に姿が見えないわけだと納得した。

「これぞう、ジェントルマンなのね。レディを支えてくれるなんて。でも私はこの点で素人ではないのだから、気遣いは不要だったのよ。さぁ寝てないで起きなさい」

 窓からの侵入者は先程電話をかけて来た桂子だった。

「ゲホゲホ。もう、埃が舞っている」これぞうは起き上がると埃にむせた。

「桂子ちゃん!君はそんな歳にまでなって何を考えているんだ。じゃじゃ馬が過ぎるんじゃないか?」と言ってこれぞうは、桂子が背中から引きずるパラシュートを指差した。パラシュートは窓の外の瓦の上にまで垂れている。

「だからさ、そもそも上から飛び込んで来るのが非常識だし、その上ああして窓からパラシュートを垂れ下げていたら近所の人が何事かと思ってびっくりするだろう?」

「ああ、それもそうね」と言うと桂子は背中のパラシュートを取り外した。そしてパンパンと手を打つと「甲本!」と言った。

「はいはい」甲本は呼び声に答えた。

 龍王院家の使用人の甲本は、ヤモリのように瓦と壁を這ってこれぞうの部屋に侵入した。

「わぁ!甲本さん!どこで待機してたの?」

「ははっ、まぁこのお嬢さんの呼声が聞こえる範囲に待機しているのが僕の役目。それより久しぶりですねこれぞう君。遅れたけど結婚おめでとう。式の時には改めてまた祝福を送らせてもらうよ」甲本は爽やかに挨拶を済ませた。

「こら、ベラベラ話してないで片付けに取り掛かりなさい」桂子はパラシュートの始末を命じた。

「はいはい、まったくお嬢さんときたら馬から始まる連中と煙同様高い所が好きなんだから……」ぶつくさ言いながらも一流の仕事師である甲本はテキパキしたアクションでさっさと片付けを行った。


 ここでドンドン音を立てて廊下を駆ける者があった。これぞうの部屋の扉が勢い良く開いた。

「何!今の音は!どうしたのこれぞう!」

 桂子の着地音がうるさかったので何事かと思ったあかりが部屋を訪ねた。そしてあかりと桂子の目が合った。

「また落ちてきたのね、わがままお嬢様」

「あらお久しぶりねあかり。あなたこそ寝相が悪くてベッドから落ちたのかしら?」

 あかりはあの音で起きたばかりだった。寝起きの髪型はやや乱れていた。

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