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銀貨1枚は約10万円


(観客、増えてきたなー)


 唯の遮蔽物として佇みながら、今も尚、二人にアプローチし続ける男の言葉を聞き流しながら周囲を見渡す。


(娯楽が少ないんだろうな。いい見世物になってるよ。この男も周囲の視線には気付いてるから、引き下がれなくなってるし。……全然脈はないのはいい加減分かりきってるだろうに)


 唯は未だに笑いの発作に襲われていて、相手にならない。レイに至っては男の存在を完全無視。……俺? 俺は只の遮蔽物ですよ? 遮蔽物が口を利く訳無いじゃないか。お触りは許しまへんでー。



「……分かった。君が姉想いなのはよーく分かった。つまり、お姉さんを口説くにはまず君に認められる必要があるんだな?」


 ふう、と疲れたような息を吐き、何やら一人納得する男。


「俺はこれでも腕が立つ。この剣で君のお姉さんを守るに値する事を証明してみせよう」


  ……何がどうしてその結論に到るんだ? 決闘でもするつもりか? 誰が受けんだ、そんなもの。

 そう思っていたのだが、男は剣を抜き、次に懐から銀貨を一枚取り出した。それをピーンと指で弾くや、


「ハアッ!!」


 と、気合一閃。空中にある銀貨を見事断ち斬ってみせた。

 言うは易く、行うは難し。今の芸当を披露するには、優れた腕前と業物の武器の二つが無いと無理だろう。周囲の観客も「ほ~」と感嘆の声を上げている。

 俺もパチパチと喝采の意味を込め拍手を送る。凄いな。充分、大道芸でも食っていけるぞ。

 そんな失礼な事を思っているとは露とも知らず、得意気な表情ではにかみ、二つになった銀貨を俺に渡してきた。


「これで俺の腕前は証明出来たろう? 今日の記念に君にはそれをあげよう。ああ、礼には及ばないよ」


 掌に乗せられた銀貨だったものを凝視する。

 ……は? 何の価値があるんだコレ? 断ち斬っちゃったら塵同然なんですけど? どうせくれるのだったら、もっと市場価値のある物寄越さんかい。……ってコラ! 唯に手を伸ばすんじゃない! 油断も隙も無い奴だな。


 近付いた拍子に肩越しの唯の髪に触れようとしたので、空いてる手で無言で振り払う。その態度が燗に障ったのか、少し苛立ち混じりの声で言い含めてきた。


「……君程度の腕前では判らないかもしれないがね、今の技は誰にでも出来る事じゃ無いんだよ。彼女達のような可憐な花には優れた守り手が必要なんだ。分かったらお姉さん達の事はこの俺に任せるんだ」


 おいおい、銀貨一枚で彼女達を買うつもりか? しかもその銀貨を自ら台無しにしておいて? 随分安く見てくれるじゃないか。


「お断りよ。あなたのような下心満載の男より、この子に守られた方がずっと安全だわ」


「ふくっ……、~~っ!!」


 俺が何か言うより早く、ピシャリとレイが言い放ち、唯が笑いを噛み殺す事に失敗した間抜けな音を漏らす。──ブルータス、お前もか。レイは俺の実年齢知ってる筈だろうが! ギルドカード見せたよね!!

 そして唯。人の肩に爪を立てて声を堪えるのはやめて下さい。大変痛いので。俺まで声を押し殺さなきゃいけなくなるだろ!




 やだなー、怖いなー。先程のレイの一言が切っ掛けで、目の前の男から敵意をバシバシ向けられてんだよ。レイもなーんで俺を巻き込むかな? 自分で対応すりゃいいだろうに。

 このまま黙っていたらマジで決闘なんて羽目になりかねん。それだけは全力で回避したい。……よし。

 唯に断りを入れて離れてもらい、言霊魔術を三連打。鞘に【紫電一閃】 剣に【一刀両断】 そして手甲に【正確無比】

 受け取った二つに断たれた銀貨を同時に宙に放り、瞬時に抜剣。素早く抜かれた剣でまずは一つ。返す刃で二つ目も中空にある内に断ち斬った。


「おおーっ!!」


 先刻の男の時より、更に大きな歓声が沸く。男はといえば、ヒクヒク頬を引き攣らせていた。


「これくらいの曲芸は、俺にも出来るよ?」


 鞘に剣を納めてから、落ちた欠片を拾い上げ、無邪気に笑って見せつける。

 うん、ぶっつけ本番の割には上手くいった。ハッタリとしては上々だろう。このままどうにかこの場を遣り過ごせはしないものか。……お、あんな所に良い配役が。


「それと、許可を得るって言うのなら、同行者があと二人いるんだ。そっちにも話をつけてくれないと」


 欠片を二つ、無造作に指で弾く。それらは狙い違わず、いつの間にやら観客の最前列を陣取っていたサニーとソルの手元へと納まった。

 ──ふ、【正確無比】よ。貴様は良い仕事をする。

 受け取った欠片を矯めつ眇めつ、弄くり回し、貼り付けたような微笑みを浮かべるお二方。……自分で振っといて何だけど、マジ恐いッス。


「……へえ。こんな欠片一つが僕らの可愛い妹に付けられた価値、ね。しかも僕らの友人達にも失礼な態度を取ってくれたよね。どうしようか、兄さん?」


「おお。随分、巫戯化た事を吐かしていやがったよなあ。流石の俺もこいつは笑えねえわ」


 そんな台詞と共に笑顔の質を変貌させる。サニーは獰猛で攻撃的な笑顔に。ソルは氷の如くに冷えきった笑みへと。

 ……おおう。肚の底まで震えがきやがる。普段の明るく朗らかな笑顔はいずこへ? 優しげな柔和な笑みよカムバック。


「げえっ!? アイツ《悪童》サニー!?」

「は? じゃあ隣の男が《白光》か? 確かあの二人には目の中に入れても痛くない妹が居るんじゃなかったか?」

「おお、《妹姫》な。……あー、確かにあっちの子、当時の面影あるな」

「マジか──終わったなアイツ」


 ひそひそざわざわ。

 流石は地元。サニー達を知る者が多数居るようで。この様子だと実力の程も知れ渡っているな。良い事だ。これでこの先絡まれる確率が減る。妹想いのお兄ちゃんズは友達想いでもあるのだ。

 それにしても悪童ですか。なかなか似合いの二つ名ですな。今ですらでっかいヤンチャ坊主なとこあるからな。妹姫もある意味まんまだ。ソルの白光だけはよく分からんな。……あの冷え冷えした眼差しが由縁とか言わないよね?


「さ、て、と……、いい加減にしようか、唯?」


 騒動の矛先が完全にあちらに向かったのを見て、背後の存在に振り向き声を掛ける。


「……ふ、ふふ、ごめんなさい。ここまでツボに入るとは自分でもっ……!?」


 涙目になりながら、つっかえ気味に詫びたかと思えば、また口を抑えて目を逸らす。


「……おい? 全然反省してないだろ?」


「その、ね……子供扱いされた時の透さんの顔が、拗ねた子供そのもので、つい。そういえば歳の離れたお兄さんがいるのだったわね。あ、ごめんなさい……思い出したら、また。ふ、ふふ、ふふふふっ……!!」


 何と。原因は俺でしたか。何だか気恥ずかしくなって、照れ隠しに抗議の声を上げる。


「……ああ、ああ。確かに! 俺が弟である事も、歳の割に童顔である事も認めよう。認めるさ! だけどな! こーんな手の掛かる姉ちゃん持った覚えは無いぞ!!」


「ふっ!? やめ、その表情でそんな台詞吐かれたら、あ、ダメ、限界……あは、あはははははは!」


 遂に堪えられなくなった唯がお腹を抱えて笑いだした。俺も笑った。

 ──良かった。もうさっきの事は引き摺ってないようだ。

 唯の笑顔を取り戻す切っ掛けになった、目の前の男にささやかな感謝を捧げ、怒り狂うサニー達の無双を眺めた。



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