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事故防止運動


一部、自然災害に関する記述あり


 ここに来て早二週間。その間、魔物の襲撃は幾度かあったものの、俺も唯も特に危機に陥る事もなく日々を過ごしている。

 そして現在の俺は、破損した防壁の補修に励んでいる。建てられてから今まで、風雨に晒され、また魔物の侵攻を食い止めてきたその防壁は、あちこち崩れかかっており、それが無視できず、暇を見つけては補修の作業を手伝っているのだ。


「おーい! その辺りはもういいから。他の部分に取り掛かってくれー」


 もう一度、自分が手掛けた箇所を手で押したりなんかして、しっかりと確認する。


「うむむ、素人目に見てもまだ危うい。もうちょっと、こう……」


「あーあ、アイツまた始まったよ」

「おいお前、ちょっと行って引っ張ってこい」

「無茶言うな。誰かー! 親方呼んでこーい」


   ・

   ・

   ・


「いい加減にせんかクソ餓鬼がっ! いつまで同じ所で遊んでやがる! 日が暮れちまうぞ!」


「うひゃあ!?」


 無心になり壁の補修に取り組んでいると、地上から親方のダミ声が飛んできた。吃驚して【自由自在】の制御に失敗し、体勢を崩してしまう。何とか持ち直し地上を見下ろすと、怒り顔の親方を先頭に、ニヤニヤと面白がっている出稼ぎ労働者の皆さんの姿があった。


(……あー、またやっちゃったか)


 ついつい悪い癖が出た。一つの事に没頭すると周りの声も耳に入らなくなってしまう。

 地上に降りて、親方からの説教を食らい、それでもめげずに自分の担当した箇所の更なる補修の必要性を訴え掛ける。が、けんもほろろ。にべなく却下された。直さなければならない箇所はまだまだ多く、ある程度の強度が確保できたら切り替えろと厳命された。

 それでも未練がましく手掛けていた箇所を仰ぎ見てしまう。うーん、やっぱりここから見ても危なっかしいな。もうちょい補強の手を加える必要がある。

 俺の視線に気付いた親方が、は~っ、と拳に息を吐き掛ける。殴られるのは嫌なので無言で首を縦に振った。……仕方ない、後でこっそりやろう。




「わはは、ちったあ懲りたかよ?」


「誰が懲りるか。酷えや、親方を呼ぶなんて。真面目に仕事してただけなのに」


 因みにあの後親方から「コイツを野放しにするな」と腰に縄を括られ、隣の男に繋がれている。子供扱いから犬猫扱いにランクアップしたよ、やったね!


「だ~か~ら~。こんなもん応急処置でしか無いんだから、手ェ抜くぐらいで丁度いいんだよ。お前がガチでやり過ぎなんだよ」


「そーそー。つーかお前が担当してる箇所って、本来誰も触らない箇所だからな? 普段は自然に崩れるに任せて、崩れたら大々的に取り掛かるってのが主流だから」


「それがいけないんだ、それが! そんな事だから危険な箇所がいつまで経ってもそのまんまだし、事故も無くならないんだよ!」


 脆くなって崩れかかってるのが目に見えて分かってるのに、手を付けないなんて只の怠慢じゃないか。定期的に魔物の襲撃受ける土地で、あんなんが防壁とか片腹痛いわ。

 もし、魔物の襲撃時にボロボロ崩れ出したらどうすんだ? あまつさえ、その時に下に人が居たら、なんて考えるだけでゾッとする。どうもこちらの人達は安全に対する意識がおざなりだ。作業中の事故を見ても、とみにそう思う。

 真っ向から反論する俺の剣幕に、幾人が「しまった」という顔をするがもう遅い。この件に関しては一歩も引かない姿勢をこれまでにも見せてきているのだ。


「いいか! 一回目の事故はまだ不幸な事故と呼べるかもしれないが、同じような事故が二回三回と続くなら、それはアンタらの意識に問題があるんだよ!」


 例えを一つ出すならば、足場が脆くなっている場所で転落事故があったとしよう。幸い大きな怪我もなく済んだとして、「次からは気を付けて、避けて歩くとしよう」で済ませてしまうのは何故なんだ!? 何故、危険な箇所をそのままにしておくんだ! 直せよ! せめて周囲に告知しろよ! それだけで事故件数は減るんだよ!

 同じような転落事故が相次いでおり、その事を不思議に思った俺が親しくなった幾人かに協力を仰ぎ、聞き取り調査を行ったところ、以下のような証言が集まった。

 曰く、「自分の担当箇所ではない」「担当者が誰か分からない」「その時手元に道具が無かった」「いつか誰かが何とかしてくれる」「どうせ魔物が壊してくれるからバレないと思った」等々。

 ……最後の奴、怒らないから前に出なさい。うん、先生怒らないから。親方に言いつけるだけだから。





「ないわー。あれはないわー。言っとくけどこんな真似、国許でしたら即刻訴訟案件だぞ。騒がれて、叩かれて、賠償云々言われて、責任追求されるんだぞ。その時になって「後でやろうと思ってました」は通らないんだぞー」


「恐えな、お前の国。何でそんなに厳しいんだよ」


 未だブチブチと不満を垂れ流す俺に、隣で縄を持った男が、呆れ目で突っ込んでくる。


「んー? やっぱり自然災害が多いからかな? 中でも一番キツいのは地震だな。デカイのが来ると土台のしっかりしていない家屋は軒並み倒される。他にも台風のデカイのが来ると農作物に甚大な被害が出るし、大雨で水害が起きたり、山崩れが起きたりした時は、家とかフツーに流される。あと地域によっては火山が数年おきに爆発して、その余波が人里まで来る事も。あ、地震の後の津波も恐い。物凄く恐い。最近では竜巻も増えたんだっけ? これに豪雪地帯の猛吹雪や雪崩も入れていいのかな」


 指折り数えていくと結構あるな。流石は災害大国と揶揄されるだけの事はある。


「今は軽ーく挙げてったけど、どれもこれも死人が出るものばかりだからな?」


「お、おう。……とんでもねえな、お前の国」


「──そんな訳で、来るべき何かに備えよう、って意識が強いんだよ。特に地震に対してはかなり力を入れてる。新しい建物作る時は、どれだけ揺れに強いのか?っつー耐震強度を調べたりするからな。規準に満たないとやり直し」


 それに比べ、ここの設備の貧弱さよ。だいぶガタがきてる箇所は震度4くらいであっさり倒壊するんじゃねーか? こんなんで魔物の侵攻を跳ね返せんのかね?


「まあ、お国自慢はさておいて。──俺は生国以外は王都近辺しか知らないのだけど、辺境じゃこんなに魔物が湧いているのが普通なのか? 結構襲撃の頻度が多いように感じるんだが」


「ああ、王都に比べりゃ何処でも多く感じるだろうな。だが、ここの、特に今の時期が特別ってのもあるぞ。収穫期が近付くと開拓民達が挙って凶暴になるからなあ」


「はー、……へ? 開拓民達が? 野生動物でなく?」


 ……何だ、その扱い!?


「おうよ。田畑を荒らされた開拓民達が、怒りのままに山狩りとかするからな。それに追われた魔物達がこっちに迷いこんでくるんだ」


 俺の疑問に苦笑を浮かべ、この土地特有の季節の風物詩を説明してくれた。


「しかも今年は、獣か魔物か知らねえが、知恵の回る奴が居るらしくてよ。広範囲に被害が出てるわ、そのくせ目撃談も数少ないわで、開拓村の連中の目が殺気立ってやがった。村に行く時は気を付けろよ?」


 ……えー、あー、うん。突っ込んで良いかな?

 ──何に!?



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