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旅立ちの前に


 ──次の日。暫く王都を離れる旨を伝えるべく、フローラさんの部屋を訪ねた。


「それではオーマ領へ行かれるのですか」


「はい。それで最短でも一月程は留守にするかと。あと出発するまでに地理などを少しおさらいしたいのです」


「ええ、それは勿論構わないのですが……そうですね、良ければ私がお教えしましょう。オーマ領についてどこまで知っていますか?」


「えーと、大雑把な位置くらいです。──あと、米の産地で醤油と味噌がある。それだけで、聖地と崇める価値がある」


 後半は真顔。こちらの意気込みを感じ取り、フローラさんはやや慄いたようだった。


「そ、そうですか。聖地とまで……。コホン、では、まずは地理のおさらいでしたね? こちらに私が写した地図があるのでそれを使いましょうか」


 そう言うと抽斗から手書きの地図の束を取り出して見せた。それを一枚一枚、机の上に並べていく。これだけの量をフローラさんが写した、だって?


「お恥ずかしい。実は私、若い頃から地図を見るのが好きでして。それが高じて自分でも描くようになったのです。──これなんてそうですね。お役目の合間に少しずつ描き足していったのですが、今見返してみれば少々歪ですね」


 恥ずかしそうに、でもとても懐かしそうに一枚の地図を指差す。それでも市販の地図と比べてもかなり上物に見える。だがこの地図の価値はそれ以上だった。何せ地図の所々には、道の特徴や彼女の所感、お世話になった宿や店、人の名前などが記されていたからだ。


「とても素敵な地図ですね。これを清書してしまうのは惜しいと、素直にそう思います」


「だな。これはフローラさんの思い出が込もった地図だ。俺が同じ事を試みても、きっとグルメマップにしかならない」


 そう感想を洩らすと、フローラさんはころころと笑った。なんでも巫女の中に同じ事を実行した者がいるらしい。


「とは言え、行った事の無い土地は写す事しか出来ません。オーマ領が出来たのは今より20年程前、私が足を運ぶ事は叶いませんでした」


 そこから、オーマ領の成り立ちを聞かされた。

 30年程前、当時Aランクの冒険者が王国からの依頼を受けて仲間と共に未開地の開拓に取り掛かった。彼らは十年の月日を掛けて、未開地を切り拓き、砦を築き、開拓村の基礎を作った。

 その働きが認められ、王国から爵位と領地が与えられ、ギルドからはSランク昇格を認められたと言う。

 そこから彼らは領地開発に舵を切り替え、そんな彼らの名声に引き寄せられた者達が開拓村に住み着き、現在に至る、と。


「英雄譚というよりサクセスストーリーだな。地道な活動が認められた成功者。地に足着いてる感じで好感が持てる」


 いや、英雄譚を聞くのも好きですよ? でも雲の上を歩くが如しの内容はお伽噺にしか聞こえないんだよ。人間は地面の上を歩くもんだ。憧れるなら断然こっちだろう。……まあ、未開地での活動に焦点を当てると、英雄譚に早変わりするんでしょうけど。


 領地開発に力を入れだした後はだいぶ緩やかになったものの、今でも領地を拡げる事は怠っておらず、20年前は一つだった開拓村は三つに増えているという。

 生活圏が拡がるという事は、神殿の責任範囲も増えるという事だ。これまでにも定期的にオーマ領に調査を送り込んでいるようだが、このオーマ領という地域は少々──いや、か~な~り~、神殿泣かせの土地柄であるらしい。


「あそこは領主様から住民まで腕利きの元冒険者が多くいらっしゃいまして。他の土地と比べましても、開拓のやり方が些か尋常ではないのです」


 彼らに政治的野心は露ほども無いが、美味い飯や酒といった即物的な欲求には呆れる程に正直だった。しかしそこに有るのは手付かずの土地だけ。それがまた彼らの開拓魂〈フロンティアスピリッツ〉に火を点けた──。

 「美味しい物を食べたいなら、自分で作ればいいじゃない」を合言葉に、“必要と自分達が思った分だけ”という形だけの制限を設け、切り取り御免の政策を採ったのだ。腕っ節に物を言わせたともいう。……計画性? ねえよ、んなもん。


「ここにある地図は三年前に作られた物ですが、今現在オーマ領がどのような形になっているか、全く想像もつかないのですよ」


「……お、おおう、それはまた……」


 なかなかの脳筋思考で染まった土地のようだ。そっかー、サニー達はそんな所の出身かー。どうりでレイに覇気がどうのと言われる訳だよ、うん納得。

 ……一番泣いてるのって中央から派遣されてくる徴税官じゃあるまいか? だって今までの話を聞くだけで、丼勘定が横行してそうだなって容易く予想が着いたもの。


「そんな訳でして──、こちらの地図を託しますが、あまり信用は為さらぬように。大幅に変更された点があれば、お戻りになられた後、教えて下さるとありがたいです。お預かりしている魔道具も肌身離さずお持ちしておりますので、何か分からぬ事があればどんな些細な事でも遠慮せずにご連絡下さいませ」


 地図を貸してもらえるってのはありがたい。バックアップも約束してくれて至れり尽くせりだ。

 フローラさんにはいつもお世話になってしまうな。その恩に報いる為にも、地図作成の協力くらいは喜んでするともさ!




【とある季節の風物詩】


A 「誰が引いても恨みっこなしな!」


B・C・D・E 「おうともよ!!」


A・B・C・D・E 「せ~の!」


A 「NOOoooo~~!?」


上司 「それでは、今年のオーマ領の徴税担当官はAとする」


B・C・D・E 「意義なし!!」



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