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他力本願


 工事関係者に喝を入れた後、俺は独り、王都の北東区画に位置する歓楽街、その一角を歩いていた。

 夜になれば独特の賑わいを見せる場所だが、昼下がりのこの時間はまだ行き交う人も少ない。そんな寂れた時間帯を見計らい足を運んだのだ。

 因みに唯はといえば、軽犯罪者向けの奉仕活動に出向いている。はじめの数回は俺も付き添いで付いてったけれど、現場の雰囲気を見て心配する事も無さそうだと判断してからは一人で行かせている。

 俺からすれば、未だ肩身の狭い思いをさせて心苦しいのだが、本人は楽し気に活動に従事しているので、その心遣いに甘えさせてもらっている現状だ。

 だがこのままではいけない。と言うのも、先の走竜戦での報酬が思いの外多く、これまで稼いできた分を合わせ、唯が自らを買い戻せるだけの金額となったのだ。だのに、無実の罪で捕らわれ犯罪奴隷に落とされた唯は、刑期が終わるまで自由の身になる事が出来ない。

 彼女は自ら買い戻す努力を怠らず、俺との契約を果たした。ならば俺も彼女が自由になる為に協力すると誓った手前、何もせぬ訳にはいかない。その為にこの連日連夜、新しい魔道具作りに勤しんだのだ。



 ──カラン、カラン。

 扉を開くと、来客を告げる鐘が鳴り、カウンターに座っていた女が気怠げに顔を向ける。こちらの姿を確認すると、煙管を燻らせ口を開いた。


「あらぁ、アナタまた来たのぉ」


「こんにちは。マスターは?」


「居るわよぉ。アナタもマメねぇ。定期報告くらい、こっちから伺うのに。それに、どうせ来るのだったらお店が開いてる時間帯に来て欲しいわぁ」


 申し出は有り難いが、神殿の一室を間借りしている身では、周囲の視線が気になってしまう。そして、それ無理。保護者様に知れたらどんなお小言が待っているやら。


 二階の奥へ続く廊下を進み、扉をノックする。


「おう。入れ」


 中から男の声で入室を促され、失礼しますと一声掛けてから扉を開く。

 部屋の中には壮年の男性が一人、窓際に佇んでいた。

 歳の頃は頭に白いのが混じっている事を鑑みて、五十を過ぎているように見えるが、鋭い眼差しに隙の無い佇まい、何より人を従えさせる雰囲気が彼を年齢不詳に仕立て上げている。

 ……あと額の角な。オールバックに整えられた生え際から二本の角がひょっこり突き出している。鬼人族と呼ばれる種族らしい。

 他種族の寿命は様々で、いちいち把握なんて出来ない。自己申告がない限り見た目で判断するしかない。


「どうも。ご無沙汰です」


「おう。確かにご無沙汰だわなあ。暫く前に王都にゃ戻ってたみたいだが、定期報告の時期が来てもなかなか顔を出さないんで、何かあったかと気を揉んでたところだ」


 ……恐いわ~。流石はこの辺り一帯を牛耳る盗賊ギルドの元締め。こっちの動向は筒抜けですか。

 あとね、お顔も怖いの。こちらの反応を見て気を良くして笑ってるけど、厳つい顔と鋭く尖った牙が、まるで威嚇しているようで落ち着かないの。


「……ま、そっちの事情は後で聞かせてもらうとして、まずは報告をするか。つっても読み上げんのもめんどくせえな。オマエ勝手に目ぇ通しとけ」


「うす」


 書類の束を投げ渡され、やや歪に書かれた文字を目で追っていく。これまでに受けていた報告から更に詳しく事件を追ってくれているが、やはり決定打になる証拠は出てこないようだ。


 いい加減、唯の問題も何とかしたいと頭を悩ませ、出てきた案がこれだった。

 弁護士も探偵も居ないこの世界。何か似通った職業はないかとヒューイに相談してみたところ、「秘密を探るというなら盗賊ギルドじゃないか」と、うっかり口を滑らせてくれた。

 慌てて口籠っても、もう遅い。渋るヒューイを説き伏せ、最終的には拝み倒して、何とか繋ぎを取ってもらい、唯の件を調べてもらっているのだ。

 まあ、そんな彼らの手を借りて分かったのは、連中がどうしようもない恥知らずって事だったがな。


「店主と衛兵の繋がりはバッチリ取れた。双方、裏賭博に手を出していてそこで知り合ったらしいな。恐らく店の金が消えたのもそっちに流れたんだろうよ。だが、盗みに関しては調書をでっち上げてる。これをひっくり返すだけの物的証拠が上がらねえ。密室の中の出来事だからなぁ」


 忌々しげに舌打ちを一つ零すマスター。彼らのあまりに身勝手で悪質かつ陰湿な手口が腹立たしいのだろう。


「テメエらの欲得の為に、立場や権力でごり押しして無理を通す。こいつらにゃ美学ってモンがねえ。気に入らんな」


 あと、こいつは補足だが、と前置きして。


「こいつらの犠牲になったのはお前んとこの嬢ちゃんだけじゃねえ。ウチの者が調べただけでも結構な数だ。中には大事にしたくない奴が内々に金を渡して揉み消しちまったもんもある」


「それ、よく調べられましたね。それこそ物的証拠は何もない密室案件でしょうに」


「連中を毛嫌いしてる奴を探し出して、酒の力でチョイチョイ、てな」


 こちらの持ち上げに気を良くしたのか、人の悪い笑みを浮かべて教えてくれた。

 ただやはり証拠にはならない。証言を頼むのも無理っぽい。マスターもその辺は理解しているようで眉間に皺を寄せ考え込んでいる。


「やはり正攻法では難しい、か。そこでマスターを見込んで話があります」


「──ほう?」


「とある魔道具を用意しました。マスターならばコレの価値を正しく理解できると思います」


 と、リュックからこの数日間の努力の結晶を取り出す。

 机の上にスクリーン用の布を広げ、カメラにあたる小物を窓際にセット。そして彼の目の前で起動させた。


「……ククッ。おいおいおいおい、何だこりゃ」


 口許を手で覆いながら爛々と目を輝かせ、スクリーンに映し出された窓の外の風景を凝視するマスター。旦那、旦那、笑みが隠しきれていませんぜ。

 恐らく彼の頭の中では高速でコレの有効活用法をシュミレートしている事だろう。


「遠方の風景をリアルタイムで映し出す魔道具です。これを三つ御用意しました」


 チラチラとカメラの前に手を出したり引っ込めたりしながら、機能を確認してもらう。それから更にリュックに手を突っ込み、新たな魔道具を引き出す。


「そして、こちらは念話を可能とする魔道具です。こちらも、三つ」


 それぞれにa、b、cと対に描いたもの。一つを手渡し“聞こえますか”と念を送ると、マスターは最早隠す気もない様子で、凄みのある笑みを浮かべた。


「今日までの依頼を取り下げます。そしてこちらを一時貸与とし、改めて依頼を。──ユイ=オクドに課せられた無実の罪を晴らして欲しい。手段は問いません」


 ぶっちゃけ殴る蹴るして無理矢理自白させてくれても構わない。

 今までは一日本人として真面目に証拠を探してきたが、調べれば調べる程、連中の悪辣さが目に余る。


 そしてこの件でもここは異世界なのだと強く思い知った。「自白しか証拠が無ければ無罪になる」という日本の法律がここでは通用しない。彼女の持ち物の何処に“盗った”金があったというのか。そもそも密室裁判自体もこれまた日本の法律では禁じられている。

 郷に入りては郷に従え。ならば強制的自白による有罪もありだろう? 既に似たような目に唯は遭っているのだから。





 裏タイトルは【奴隷解放運動】

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