外伝・ギルド職員の大事なお仕事
冒険者ギルドのギルド長室、そこに先の講習に同行した冒険者達が集められていた。集めたのはこの部屋の主であるギルド長、俺──ヒューイの母でもある。
ギルド長の体格は小柄で更に幼い顔立ちをしている。一見小娘めいていて、とても一児の母には見えない。そんな事は子供の頃から散々言われてきたし、今では俺の方が年上に見られる事も。まあ、種族的に見たら若い個体であるのは違いないんだが、息子としては複雑だ。だがその外見からは想像出来ない程の実力を有している。
前ギルド長である父が現役冒険者だった頃に、どこからか連れてきた腕の立つ少女。何処へ行くにも父の後を付いて回り、いつの間にやら結婚し、いつの間にやら子をもうけていたとは当時を知る者達の談。父が冒険者を引退し、ギルド職員、のちにギルド長に就任した際も当然のように隣に居たそうだ。……本当に隣に居ただけなのだが。
そして彼が亡くなった際に、「荒くれ者の集う冒険者ギルドを束ねるには腕っ節が何より重要」という謎の脳筋理論により押し上げられ、後釜に据えられた。父がギルド長に就いた時も同じ理屈で押し通されたらしい。何故誰も止めなかった。
と言うのも、彼女には致命的に長としての素質がなかった為だ。ついでに言うと事務的能力も皆無だ。本当に何故誰も止めなかった。
噂では副ギルド長の暗躍がまことしやかに囁かれているとか。俺も聞いた時は彼女ならやりかねんと思ってしまった。彼女、有能なのは間違いないのだが、その能力の使い所が間違ってる。「可愛いものを愛でるのが趣味!ギルド長を甘やかす事こそ我が使命!」と公言して憚らない、なかなか業の深い女性だからな。
せめて、ギルド長ではなく特別顧問なり、お飾りの役職を押し付けてくれれば良かったのに。お陰で周囲の者達が余計な面倒を抱える羽目になっている。
その最たる者が自分自身なのだから笑えないよな。
「協力感謝。尽力感謝。危険手当、出る」
「まずは、先日の講習会への協力、並びに今日までの騒動への尽力に感謝する。お陰で王都での混乱は無く、周辺への波及も軽微なものとなった。ささやかだが前回の報酬に危険手当を上乗せし、更には貢献ポイントも付与するので、後で受付にて手続きをお願いしたい」
端的過ぎるギルド長の言葉に補足を付け加え、事務的に話を進めていく。人生の大半をこの人の通訳として務めてきた俺には朝飯前な作業だが、この特技によって古株の者達や他ギルドの面々にも、貴重な人材として扱われている。正直かなり複雑な心境だ。
「要請、複数。掲示板確認」
「今回の異変の元となったアンカーテイルは討伐され、冒険者や騎士団の力によって王都周辺の混乱は収まりつつある。だが、それによる魔物の大移動は未だ各地で起こっており、各支部から派遣要請が複数来ている状況だ。もう少しの間、力を貸して欲しい。詳細は掲示板で各々確認してくれ。尚、今回については転移陣の使用が許可されている」
「掲示板でって事は、コレは《指令》じゃなくて《依頼》という扱いなんだな?」
サニーが手を挙げながら質問すると、ギルド長は任せたとばかりに視線を送ってくる。
もう無理か!?もう限界なのか!?これだから数百年単位で引き籠ってた種族は厄介なんだ。人付き合いが極端に下手すぎる。
「場所が違えば状況は変わるからな。我々からはあくまでも《依頼》でしかない。もしかしたら出向した先で、そこの支部が《指令》を出すかもしれないが」
「ふふん、しかし現状では依頼でしか無い訳だ。──なら、例えGランクの人間を臨時で雇っても構わないわな?」
「サニー、それは! っ、……コホン、失礼した。本人の同意があればギルドからは何も言わない。但し!あくまでも同意があれば、だ。無理矢理連行なんて真似をすれば罰則は免れんぞ」
私情を挟みそうになるのをグッと堪え、しかしながら老婆心で釘を刺しておく。基本、冒険者同士で取り決めるならギルドは不干渉を貫くが、たまに悪質な輩が出るので最低限の決まりはあるのだ。
「分かってる分かってる。ちゃーんと説明して同行してもらうさ。それに連れてったところで無理も無茶もさせる気はねえよ」
満足いく回答にご機嫌なサニーは、ひらひらと手を振りそう返す。
「まったく兄さんは……レイは構わないのかい?」
「サニー兄さんが言い出したのならほぼ決定事項でしょう?それに、私自身も見極めたいと思ってます。ソル兄さんは反対なの?」
「いや。確かにあまり戦いに向いていない彼を連れ出す事には積極的に頷けないけど、彼の扱う魔術は僕も気になってる」
(……あの馬鹿!だからあれほど人目を気にしろと言われてただろうに!やれやれ、サニーに害意は無いだろうが完全に面白がっているな。ある意味厄介な奴に目を付けられたもんだ。アイツ、断りきれるんだろうか?)
聞こえてきた会話により大体の流れを把握したところで、心の中で風変わりな友人を罵倒しつつ、その身を案じてしまう。
だが、同情はしない。
本人からの報告は無かったが、どうせ何かやらかしたのだろうと予想は付く。
遭遇した相手が悪かったのもあるかもしれないが、アレは一つでも手の内を見せてしまうと、そのまま二の手、三の手と次々披露してしまう悪癖がある。どうも、「一つ見せるも、二つ三つ見せるも、悪目立ちするのは同じ」と割りきってしまうらしい。
(いや、同じじゃないからな!? それだけ相手に情報与える事になるからな!? ホイホイ手の内見せてんじゃねえよ!)
それで興味を持たれているのだから世話はない。この様子だとあいつが断らないと半ば確信している感じだ。
楽しげなサニーにテオが不思議そうに話し掛ける。
「正直、サニーがそれほど彼に興味を持つのは意外だな」
「そうか?元々知り合う前から興味はあったぜ。あの《紅虎》殿の秘蔵っ子って噂を聞いた時からな」
「……リオの、秘蔵っ子?僕は本人から、迷子になってた所を拾ってもらったと聞いたけど」
「わはは、らしい話だ。まあ、噂なんてそんなもんだよな。その後に最弱王なんつー通り名まで聞こえたもんで、どんな奴かと直接会いに行ったんだ。で、実際話をしてみて、なんか気に入った」
“なんか気に入った”か。何が琴線に触れたのやら。こりゃどう足掻いても逃げられんなアイツ。
しっかし、サニーもテオもここを談話室か何かと勘違いしてはないだろうか。一応ここはギルド長室で、目の前にはギルド長が鎮座しているのだが。
横目でチラリとギルド長の様子を窺うと、意外な事に二人の会話に興味津々らしい。
……何だ、その“息子の新しい友達を見てみたい”オーラは。言っとくが断じて紹介などせんからな!
「……疲れた」
サニー達が退出した直後、バタリと机に身を投げ出すギルド長。その姿には威厳の欠片も見当たらない。
「お言葉ですがギルド長は疲れるほどの事を何かしましたか?」
「反抗期?」
そんな時期、来ている事すら気付かぬままに過ぎ去っていったわ!
喉までせりかかった言葉を飲み込み、努めて淡々とした対応を行う。
「……それでは通常業務に戻ります。お疲れ様でした」
これ以上の長居はよろしくない流れを生む。逸る心を押さえながら、踵を返し扉に向かう。
「ヒューイ」
「なんでしょうギルド長」
チッ、逃げ切れなかったか。扉の前で振り返り事務的に返す。そんな俺にもう一度声が掛かる。
「ヒューイ」
「──駄目だ、紹介しない。そもそもギルド長が底辺の冒険者を気に掛けたりしたところで悪影響しかない」
「ケチ」
「何とでも」
「……友達想い」
「母さん、流石にそれはやめてくれ」
何となく気恥ずかしくなって厭そうに顔を顰めると、何が嬉しいのか珍しくフフッと声を出して笑った。
ハア~、これだから母親ってのは厄介なんだ。
【ちょこっとカミングアウト】
作者の母親は、神戸のお嬢さんを経て、大阪のオバチャンに至り、今は四国のお婆ちゃんに成っております。
途中で最強ジョブに就いてるせいで幾つになっても勝てる気が全くしねえ!(*TーT)b




