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勝利


 唯の暈しまくった説明に釈然としなさを感じるものの、問い質す余裕が有る筈も無く。思考を切り替え端的に聞くべきところを聞く事にした。


(どうすんの?ソレ)


 赤々と燃え盛る火柱について尋ねる。どうやら唯は今回全く自重をしなかった模様。今まで見た火柱の最大規模を遥かに上回っている。その明かりは離れた場所に立つ俺達の足元に薄く影を作るまでに及んでいた。


{……ぶつけてみる、とか?}


(あ。何か考えがあったんじゃ無いんスね。……あんま広範囲に撒き散らされると、側に居る俺達まで巻き込まれるんで、そこんとこ気を付けて)


{……それもそうね。分かったわ。それじゃ集中したいから切るわね}


 その言葉と共に念話が切れ、徐々に炎が形を変える。あんまり見ていると夜目が利かなくなってしまう恐れがあるので視線を外す。ちゃんと釘は刺したし、こちらに被害が及ばないようにはしてくれるだろう。

 そのままぐるりと視線を巡らすと、やや離れた場所では走竜が立ち上がろうと未だ藻掻いており、テオ達はそちらに警戒を向けながらも、炎の上がった方角が気になるのか何やら逡巡している様子だった。俺もそちらに駆け足で向かう。


「何かあったと見るべきだろうが、しかし……」


「あっちには手負いとはいえサニー、それにソルとレイ、おまけに教官が付いてるけど……」


「それでもここは私達が抑えて、トオルさん達に向かってもらっても……」


「あ~、すまん。アレ、うちの唯さんの仕業。今からなんか仕掛けるっぽいから、一応備えてて」


 その言葉にキャサリンがクワッと目を剥いた。まあ、魔術師としてはアレは見過ごせないか。制御出来ているようには見えないものな……と言うか正確には唯は未だ魔術師と呼べる代物ではないし。


「あれがですの!?しかもあそこから!?……って、あの方、何をなさってますの!?」


 そんな!(火柱はともかく)まさか距離でも非常識な部分があっただなんて。ボクらの教育係、魔術担当のクリス先生からは特に何も言われやしなかったのに。

 唯にとって、この程度の距離は余裕で射程範囲だからなあ。しかも【一望千里】使ったら更に距離は延びますよ?1km先を狙撃とか普通にやらかすし……もしやボク達、匙を投げられてただけですか?


 キャサリンの後半の言葉も気になるっちゃ気になる。恐る恐る背後を窺うと、あれ程燃え盛っていた火柱の姿は無く、眩く輝く一個の球体が宙に浮かんでいた。

 ……闇夜に映える綺麗なオレンジ色ですこと。あの火柱を無理くり凝縮させたんかな?で、これ絶対先刻のよりも光量・熱量上がってるだろ。だって明らかに輝きが違う。足元の影だって色が更に濃くなってるし。

 しかもそれで終わりではなかった。光球はみるみる色と形を変えていき、金色に輝く一本の矢となった。

 ……これ知ってる!!数多のファンタジー作品でお馴染み、この世界でも火魔術の初歩の一つ【炎の矢】だ!威力はとんでもない事になってそうだけど!えーと?それだと先程の光球は【火炎球】のつもりだったんだろうか?

 悪目立ちしないよう色々考えてるみたいだけど……まあ、努力は認めるよ、うん。





「お~」


 そうして放たれた矢は、キラキラ輝く軌跡を描いて飛んで行く。最早気分は花火見物。頭上を飛び越えてゆく矢を目で追いかけながら呑気な声を上げてしまう。

 矢は一直線に奴の顔目掛けて飛んで行き、それに対し走竜は頭を振って避けようとするが、直後、つんざくような悲鳴が上がった。


「……うわー、うわー。追尾弾とか本気でエグいな。しかもあの頑丈そうな皮膚をまるでバターみたいに溶かすとか、どんだけだよ……」


 視界の先には、左目を潰され、眼窩周辺を大きく爛れさせて倒れ伏す奴の姿。四肢は地に投げ出されピクリとも動かず、首だけを僅かにもたげ、ギャアギャア喚き悶え苦しんでいる。

 ……あれ?これもう致命傷なんじゃね?多分、脳までダメージいってるし、放っといても死んじゃいそう。しかしたった一撃で勝負を決められてしまっては、これまで頑張ってくれたテオ達の立つ瀬が無いではないか。

 固まったままのテオ達の様子にオロオロ狼狽えていると、「ふ~~~」と長い長い溜め息の後、アンジェが話し掛けてきた。


「……放置するのも気の毒ですし、止めを刺してあげましょう。それにトオルさんにも何か案があったのでしょう?」


 何でしたらご自身で試されますか?と無表情に尋ねられ、ブンブン首を横に振る。俺が仕留めたところで何か活かせる訳も無し。体を張ってくれた働きに花を持たせる意味でも、謹んでお断りさせて頂きます。


「お願いします」


 手に持った槍【乾坤一擲】に即席【首尾一貫】を上乗せして託す。

 こいつには条件が幾つかあって使い勝手が悪く、今まで宝の持ち腐れ扱いだったのだ。その条件とは──。


 条件1 貫通に適した刺突武器である事。

(矢とか槍とかそーゆーヤツだね。細剣だっていけるかも)

 条件2 仕掛ける相手に首と尾がある事。

(獣型や爬虫類に多いかな。あと鳥類も含まれるかな?)

 条件3 必ず首に当てる事。

(戦闘中にそんな余裕有る訳ねえ。まぐれ当たりが出りゃ御の字だよ!)


 ただでさえ首とは急所の一つ。これまでどれ程入念な下準備を重ねて事に及ぼうと、野生的勘とも防衛本能とも呼べる何かに因って避けられ続け、一度も成功した試しが無い。

 しかし!この厳しい条件を達成出来さえすれば、青い槍兵さんが持つ宝具もかくやといった効力を発揮する、筈なのだ!……俺だって男の子だもん!ああいった浪漫武器に憧れたって良いじゃないかあぁっ!!


「ええっと、投げて首に当てれば良いのですね?」


「そう。あと、尾の向いてる先に誰も居ないか注意してね」


「……理由を聞きたくなるのですが……いえ。とりあえず、投げてみます、ね!」


 乾いた笑みを僅かに浮かべ、言葉と共に力強く槍が投げ放たれる。

 あれだけの大きな的、しかも死に体同然では回避できる筈もなく。首部分に突き刺さった槍は、そのまま何の抵抗もなく吸い込まれてゆき──どのような軌跡を辿ったのか、切り落とされた尾の位置から勢いよく飛び出して来た。


「──何でっ!?」


「……ああ、そういう事でしたか」


 仰天するパティと呆れたような感想を洩らすアンジェ達が見つめる中、役目を終えた槍がボロボロ崩れ空中に溶けて消えていった。

 同時に今の一撃が止めとなり、短い断末魔を上げて走竜の命の灯が消える。

 ダラリと地面に投げ出された首。残った右目は空を睨むように開かれているが最早何も映さない。



「ふい~、終わったー」


 緊張の糸が切れ、ゆるゆると息を吐く。

 恐かったし強かった。速かったしタフだった。亜竜の一種とはいえ、流石は竜を冠する者。これまで対峙したどんな敵より強敵だった。


 しかし、それでも──。こうして奴は地に倒れ、俺達が生き残った。

 ──俺達が勝ったのだ。


 ……が、ようよう振り返ってみれば、最後の方は自重を止めた俺と唯がやりたい放題やらかしただけのような。あれ?俺あんましジュゲム君に偉そうな事言えなくない?

 やりきった感よりもやっちまった感が強いのは気のせいだと思いたい。



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