立つ鳥跡を濁さず
戦い終えて、避難していたメンバー達とも合流し、治療などの諸々の雑事も済ませ。
改めて、間近で奴の体躯を仰ぎ見る。見れば見る程反則級だろ、このデカさ。よくぞ犠牲者なしで乗り切れたものだとしみじみ思ってしまう。
「いやはや圧巻だねえ。まさか初心者の講習でこんな危険な奴に遭遇するとはなあ……」
鱗にソッと掌を押し当てて感触を、手の甲でコンコンと強度を確かめ、激戦の証とも呼ぶべき傷痕を指でなぞる。
「有り得ねえ。何でこんなの相手出来んの?」
こうやって触れてみるとよく分かる。こんなん掠っただけで死ぬわ。徹頭徹尾、逃げを選択した俺の判断はやはり正しかった。
「それじゃ始めますか」
唯と三人娘に協力をお願いし、解体に取り掛かる。
まずは素材用・袋【神出鬼没】を取り出し【伸縮自在】を掛け、四人に四隅をそれぞれ持ってもらい広げていく。次に遺骸を【自由自在】で浮かせ袋の中に入れるように置く。ちゃんと切り落とした尻尾も回収済みだ。その状態で遺骸に【弱肉強食】を使えばあら不思議。面白いようにバラバラに分かれていく。
食用に適した部位だけは食材用の袋に詰め替えて、残りの素材を確認していく。──牙、爪、鱗、骨、皮、樽、魔石、エトセトラ、エトセトラ……って樽って何さ?
気になって指先で叩いてみると、表面は革のような軽い音が、留め具の部分は金属のような高い音がした。中を覗き込んでみると血液だった。
……もしかして体組織から錬成したの?そしてどうしたらいいのコレ?
使い途を考えてみたがさっぱり思い浮かばない。その内『馬鹿の考え休むに似たり』との格言を思い出し思考放棄。ここは素直に一滴の血も残さない仕様に感心しておこう。俺ってスゲー。
最後に袋を元の大きさに戻せば一丁上がり。
「ふう、おしまい。疲れた疲れた。やっぱデカイ図体してるだけあって相当魔力食うね~」
「…………ヲイ」
「文句は受け付けません。あんなのマトモに解体していたら例え全員で掛かったとしても夜が明けてしまう。服だってドロドロに汚れるだろうし、何より身体を休めたい」
俺だっていい加減疲れた。あのプレッシャーを浴びての命を懸けた鬼ごっこは体力と精神力をガリガリ削ってくれた。魔力も立て続けに酷使したので頭も痛くなっている。これ以上の重労働は御免蒙る。
そう言うと渋々といった態ではあったが引き下がってくれた。
その後、夜明けを待って帰路に着く。サニーは自分の足で歩ける位には回復したが、ジュゲム君は疲労が抜けきらない模様。魔物の気配が少ないのも相俟って、足取りは彼に合わせたゆっくりしたものだった。
そんな中、俺は先輩方に囲まれあれこれ質問をぶつけられていた。他に何が出来るのかを根掘り葉掘り聞かれたので【刻印】については触れず、幾つかを口頭で説明すると「凄いんだけどいまいち残念な奴」との評価を貰った。……便利だからいいじゃん!
まあクリーニング魔術なんて戦闘に使えないからな。それでも町の皆様並びに女性陣には大変好評なんだぞ!
コホン、気を取り直して……。
「サニー達ってまだDランクだったよな。テオ達はCに到ってるんだっけか」
「そうだね。だけどサニー達の腕前なら上がってくるのも早いだろうさ。因みに言うと、アンカーテイルはCランク相当の魔物だから」
サラリと口にしたテオの言葉に顔が引き攣る。
……えぇ~?唯のEランク昇格を目標の一つにしてたけど、一つ二つ上のランクでアレ?この件については唯と話し合う必要があるかも。
「ランク云々を言うならGランクでアレ相手に対抗手段がある君達の方がよっぽどおかしいからね?」
「俺自身のステータスがヘボいからなあ。俺達だけだとあんな戦果は望めなかったよ?」
俺の場合、たった一回の【一騎当千】で身体がガタガタになるし、【首尾一貫】も効果を発揮できたかどうか怪しい。
唯だって、先輩方が足を止めてくれたから安全な位置まで下がれたのだし、ジュゲムが尻尾を切り落としてくれたから魔力を練る時間が稼げたと思う。
「本当に覇気の無い男ね。あれだけの働きをしてみせておきながら、どうして自分を下に見せたがるのか……」
おや。レイから認めている発言をされたのは初めてだ。気のせいか纏う空気も幾分柔らかく感じられる。
「だって本当に弱いからなあ。最弱王って呼ばれてるの知ってるくせに」
「それについては疑問に思っていたんだが、何故あれだけの働きが出来るトオルが最弱王なんだい?」
あ、テオ達は俺の欠陥知らないのか。──ならば特別に見せてやろう、我が実力を!……マジ笑えるから。
そう思い懐からギルドカードを取り出すのであった。
「わはははは!何だこりゃ!? 聞いちゃあいたが本ッ当ヒデエな!」
「はあ!? レ、レベル1!?いや、ちょっ、何で!?」
「嘘でしょ……?いやいやいやいや有り得ないでしょ!だってトオル、あのリオ達にあっちこっち連れ回されたんでしょ!?」
カラカラと笑い飛ばすサニー。戸惑いの声を上げるテオとパティ。ソル、レイ、キャサリンは変な生き物を見るような目付きだ。アンジェは何か考え事をしているのか俯いていて表情が読めない。
「なんかなー、生まれつきレベルの恩恵授からなかったっぽいんだわー。俺も王都に来るまで知らなかったけど。これでもまだマシになったんだぞう」
「ステータスも異常ならスキルの数も異常ですの。初心者にあるまじき量と質ですもの」
サニーの大声に怯えた様子のキャサリンが、テオの腕に掴まりながらギルドカードを覗き込み感想を洩らす。
ふふん。体力面は一般人並みだが、スキル群の一部は中級勢にも劣らないからな。見た目は子供、頭脳は大人な名探偵もビックリだ。……スンマセン、ナマ言いました。そこまで知能高くないっス。
「──以前」
ポツリと呟くように話し出すアンジェに周囲の視線が集まる。
「パティと共にリオ達と酒場でご一緒する機会がありまして。その席でトオルさんの事を伺ってみたのですが、あのリオが、強さについて一切言及しなかった事をずっと不思議に思っていたんです」
「あー、そういやあったあった。確か「色々足りない、よく分からない奴。でも悪い奴ではない」だったっけ。ケイの評価は「面白可笑しな奴」だったかな。……ホントだ、今思い出しても強さについては「よく分からない」としか言ってなかったわー。うん、今なら分かるよ。これはそうとしか言えないよね……」
うんうんと腕を組みながら納得とばかりに頷くパティ。
「型に嵌まれば強いのだろうけど、肝心の俺自身が使い熟せていないからな!リオ達が言い淀むのも仕方ないね!」
「おお!仕方ねえ、仕方ねえ!ワハハハハ!」
「何故!そんなに楽しげなんでしょうね!?トオルさんも!兄さんも!」
そんなソルの言葉もどこ吹く風と笑い飛ばし、帰還の足を早めるのであった。




