暴走?
俺達が戦場に到達した頃。戦況はかなり旗色が悪くなっていた。
奴は、負傷して動きの鈍ったサニーを執拗に狙っており、レイを始めとした仲間達が阻止しようと一丸となって武器を繰り出すが、他の者には全く目もくれやしない。仕留められそうな弱った獲物から潰してしまおうって魂胆か。
ここでサニーが倒されてしまえば一気に戦線が瓦壊する。急がねば。
「それじゃあやりますか」
手早く前準備を済ませた後、単身で奴の前に堂々と姿を晒してみせる。【自由自在】を発動させて位置は奴より上をキープ。更にヘイトを稼ぐ為に鼻先を掠めるように飛んでやると思惑通りにあっさり釣られやがった。所詮は蜥蜴か。ちょろくて何より。
猛攻を受けていたサニーは未だ瞳は死なず、倒れてもいなかったが、盾も鎧もボコボコに凹んでおり、身体のあちこちが朱に染まっていて見ているだけで痛々しい。
ちろり、と胸の奥で憤怒の炎が揺れた。
(……たかがラッキーヒット一本であんま調子乗んなよ?あれでサニーの負傷が無かったら、お前今でも完封食らってんぞ?)
苛立ちを押し殺し、奴をこちらの望む場所に誘導する事に専念する。右に左に、時には高度を変えながら、何度目かの位置調整を仕向け──よし、ここだ!
「ウオオーッ!!」
背後から気合一閃。【一刀両断】を籠めた長剣でサックリ尻尾がぶった斬られた。
──グギャアアア!?
つんざくような怒号を上げ、地を転げ回る。その様子を上空から眺め僅かに溜飲が下がった。ザマミロ。
さあ、選手交代だ。代打、俺──では勿論無くて、我らがスーパールーキー、暗夜のノクターンこと、ジュゲム君が貴様の相手をしてくれる。
「レイ!今の内にサニーを後方に移してくれ!」
本来なら後送は俺の役目なんだろうが、ジュゲムの支援は俺しか出来ない。目を離す訳にはいかん。
声が届くやいなや逡巡する様子を一切見せず、満身創痍の兄を肩に担ぎ上げ駆け出すレイ。抗議の声を上げるサニーだが抵抗する体力、気力は残ってないらしかった。
それにしてもジュゲムは本当物怖じしないな。失敗の許されない状況下で見事に仕事をこなしてくれた。
斬った箇所は注文通り、瘤よりやや根元寄り。これで岩を飛ばす事は出来なくなった。
何より平衡感覚を奪えた事は大きい。よっぽど尻尾が重要器官だったんだろう。今も立ち上がる事すら覚束ない様子。あの調子だと歩く事にも難渋しそうだな。そんな風に推察してから、よくよく思い返してみれば、移動に、方向転換に、姿勢制御にと頼りきりだったような。
だけどあんな巨体がふらついてるのも、それはそれで恐いな。間違っても転倒に巻き込まれた挙げ句、圧死なんて死に方は嫌だ。自分で仕向けておいてそれは間抜け過ぎる。
当然この隙をテオ達が見逃す訳もない。今がチャンスと総攻撃を仕掛けるテオ達。我も我もと逸るジュゲムを慌てて引き止める。
「待て待て、まずは術を掛け直すから一旦落ち着け。それと身体の状態を訊かせろ」
「む、言われていた程の反動は無い。確かに多少の怠さはあるが問題ない。連続使用にも耐えられよう」
マジでか。確かに大半は隠れるだけで、実働時間は一分にも満たなかったけどさ。普段使いの強化系やら補助系だけでなく【一騎当千】まで使った、正に大盤振る舞いだったのに。
「ははあ、基礎能力が高い奴ほど反動が少ないのかな。急激な能力向上に対する違和感の程は?」
「未だ慣れぬ分、多少戸惑う所はあったが御しきれぬとは言わぬ」
だから早く掛け直せと催促された。折角自分が作った好機なのに蚊帳の外というのが我慢出来ないらしい。一刻も早く参戦させろと目が語っている。
冷静にジュゲムの姿を眺める。どこか庇うような素振りを見せはしないか、反応が鈍い箇所はないかと。結果、別にやせ我慢をしている訳でもなさそうだと判断を下す。
ただ、ちょーっとやる気に充ち溢れているのが不安材料ではあるものの、サニーとレイが抜けた穴を埋めて貰わねばならないのも確か。ここは希望通りに致しましょう。だけど武器に付ける言霊は【一刀両断】ではなく【快刀乱麻】の方が良いかな。
先ずは武器に言霊を付ける。その後に補助系、強化系、最後に【一騎当千】をばチチンプイプイ。
「切れ味が悪くなったと思ったら離脱してくれよ。直ぐにどんどん動きが鈍くなるからな……って、もしもーし、聞いてるか?」
術を掛け終えた途端、嬉しそうに口元を歪めるジュゲムに不安を覚える。
「……フ、フハハ!──来た!来たぞ!!我が身に眠りし力の目覚めの刻がっ!!」
おい馬鹿、やめろ。人の魔術をその設定に利用すんな。俺まで同類に見られたらどうしてくれる。
普段の冷静さは鳴りを潜め、はしゃいで吶喊していくジュゲムの背を見て思った。
……ヤバい。人選、ミスったかも。
「ハァーハッハッハ!!」
「あーあ。完全に力に酔っちゃってるよ。……って、いい加減にしろ馬鹿ー!今の避けられるだろ!何で力比べ挑んでんだよ!体格差考えろ!……あああ、もう、ハラハラし過ぎて見てられん!」
動きの止まったところで強制回収。そのまま一時離脱して岩陰に連行。
「何やってんの?何やってんの!……俺、ちゃんと説明したよな?身体に無理を強要すればする程、反動となって返ってくるって。コレ、術が切れたら絶対地獄見るぞ。何より後遺症が残ったらどうすんだ。最悪、これが元で冒険者生命を絶つ事になったら、とか考えねえの?いくら俺の魔術思想が「その場凌ぎの使い捨て」でも、流石に利用者までその対象にはしてないぞ!」
地面に下ろして一気に捲し立てる。冒険者生命云々のところで漸く顔色が変わった。
「そ、それは、困る。──ム?身体が動かん」
「でしょうね!あれだけ無茶をさせたらそうなるわ!……お前ちょっと歯ァ食いしばれ」
問答無用で【百薬之長】をぶち撒ける。辺りに酒精の香りが漂う。ジュゲムといえば痛みに呻きながらも自慢の装備を酒塗れにされ、やや情けない面持ちになっていた。
「その、我が悪かったのは自覚しているが、少し扱いが雑ではないか?」
「雑ではないよ?筋肉痛の類いにはコレが一番効果があるんだ。多少の酒臭さは大目にみろ。後でちゃんと消してやるから」
と、ニッコリ。
「オラ。直ぐに掛け直してやるからさっさと行け。さっきと同じ真似してみろ。喜んで使い捨てにしてやるからな」
「しっかり雑ではないかー!やはり怒ってるだろお主!」
怒らいでか。




