君の名は
でかい──。それが奴を見た際の第一印象だった。
ヤッバいな、ファンタジー舐めてた。あれだけフラグだ何だと宣っておきながらも、俺が想像してた大きさって象さんサイズだったんですけど。だと言うのにコイツときたら、身の丈悠に五メートル超えてんじゃねーか。
肘をやや曲げた腕は細く短く、他の部位に比べると貧弱そうに見えるが、その分、大地を踏みしめている二本の脚が、より太く力強く感じられる。
特徴的なのは尻尾の先端からやや上がった位置にある、瘤のようなもの。その尻尾を一薙ぎするだけで電信柱ほどの樹などは数本纏めて圧し折られ、中でもあの瘤の直撃を食らったモノは幹ごと粉砕されてしまっていた。そんな凶悪な破壊力を見せつけるかのように、悠然と尻尾を揺らしこちらを見下してきた。
それは俺の居た世界ではとうに絶滅した種族──恐竜によく似ていた。その巨体が醸し出す圧倒的な存在感。そして、その身から放たれる暴力的な気配に完全に飲まれてしまう。
空気が重たく感じられて、息をするのも辛い。見えない力に抑え込まれたように、足は地面に縫い付けられ指一本動かせない。そのくせガチガチと歯は鳴り止まず、自分の意志ではどうする事も出来ない。視界の端に映る同期の連中も似たような状態に陥っていた。
そんな中、先頭に立つ先輩方は一向に怯まず、チラチラと動きを見せて相手を牽制していた。凄いな、このプレッシャーの中でも動けるのか。
「チッ!アンカーテイルか。なんだってコイツがこんな所まで出てきやがんだ」
「だけどこの走竜の脚力を思えば今回の事態の速さにも納得ですね。それにここで出会えた事も僥倖と言えます」
「そうね、ソル兄さんの言う通りだわ。下手すれば素通りされて王都を急襲されていたかもしれないもの」
「は、確かにな。しかしコイツはひよっこ共には荷が重いか。──テオ、ここは俺らが気張らんとなあ!」
「ああ、そのつもりだ!君達は巻き込まれないよう離れているといい」
そうは言われても恐怖に竦んでしまった身体は全く動いてくれないのだが。
しかし、敵はこちらの事情はお構いなしに、まるで相撲の仕切りのように頭を低くもたげ極端な前傾姿勢に入る。恐らくは突進の構えだろう。腕が短すぎて地面に着く事が出来ず、かなり無理めな体勢に見えるのだが、尻尾を巧く使ってバランスを保っている。
その視線は、俺の斜め前に立つサニーの姿を真っ向から捉えていた──。
(あれ?俺ら、今居る位置ってまずくない?)
サニーも背後を気にしてか位置取りに手古摺っている様子だ。下手に奴を刺激してはいけないと思うあまりか、碌に動きも見せていない。テオ達もどうにか奴の気を引けないものかとあれこれ手を打っているようだが、あまり効果は得られていない。完全にサニーをロックオンしている。
あの巨体だ、突進の直撃は避けられたところで掠っただけでも大事故確定。
(……って、ヤバいヤバい!! 金縛りに遭ってる場合じゃねーぞ! ど、どうにかして動かないと……!! あああ、な、何かないか何かないか!? ……ハッ!そうだ!!)
「──ゆ、【勇気凛々】!」
震え上擦った声で言葉を紡ぐ。途端、今まで身体の奥底から全身までを纏わり付いていた不快な何かが消え去った。よし!これで動ける!
瞬時に複数の【刻印】を発動させ空に舞い上がり、上空から尻尾が届かぬギリギリの距離を見極め、挑発行為を繰り返す。
ブンブン飛び交う小蝿が煩わしかったのだろう。俺を睨み付け、前傾していた身体を起こし尻尾を大きくうねらせる。──来る!
ブオンと重たい風切り音を響かせ、身体の捻りも加え放たれた尻尾の一撃は、予備動作の判り易さから余裕で回避。が、かなり距離を保っていたにも拘わらず、風圧に煽られ後方に流されてしまう。
……うそん。この距離で影響受けるのか。洒落にならんわー。全然勝てる気がしない。
それでも奴の注意を地上から離す事には成功した。
「でかした最弱王!」
「──グオオオオッ!!」
喜色に満ちたサニーの声。次いで竜人の咆哮が響き渡る。
おお、やるなアイツ!自力であのプレッシャーを跳ね退けたのか。
その声に後押しされたか、他のメンバーも硬直から解き放たれた。
「ナイスだ!ジュゲム(仮)」
再度、奴への挑発行為に勤しみながら、彼のファインプレーに親指を立てて応えて見せる。
「ジュ、ジュゲム?……まさか、我の事か?我の事かぁ!?……何故!何故、誰も我の真名を呼ばぬのだ!」
長すぎて覚えられないからです。覚えた所でこの緊迫した状況下では、まともに呼んでられないだろうけど。落語じゃ無いんだし。
「ラ、ラクゴ?──ええい!訳の分からぬ事を!ならば!これからは我の事を『暗夜のノクターン』と呼ぶが良い!」
うわー、コイツ。遂に二つ名の自称に踏み込んだか。後々響くだろうなー、黒歴史として。
「そしたらノクたん!ミイちゃん達が安全な場所に避難するのに力を貸して!」
「ぬぁぜぇだああぁ!!」
妙ちくりんな渾名を付けるミイに涙目で抗議の声を上げるが、それでも殿は引き受けてくれるようだ。
よしよし、その調子でうちの唯さんの事も宜しく頼んます。それまでは頑張って引き付けておくからなー。




