襲来
今は夜。食事も終えて夜番の時間まで仮眠を取っていた時の事。
──唐突に意識が覚醒した。
「……うん?」
ムクリと身体を起こして明瞭な意識に首を傾げる。
元来俺は寝起きがあまり良くない。目覚めた時は大抵頭に靄が掛かっている状態で反応も悪い。これ程のはっきりとした目覚めは随分久し振りの事だった。
「フラグを意識するあまり、気が昂っているのかな?」
周囲の様子を窺ってみたが特に異変は感じられなかった。交代まではもう暫くあるようなので、もう一度寝直そうと試みたがうまくいかない。完全に目が覚めてしまったらしい。
こうなっては仕方がない。どうせあと一、二時間で交代だろう、と眠るのは諦めて現在見張り番の女性陣が集う焚き火の傍まで赴く。
「あら?透さん?交代まではまだ時間があるわよ?」
「何だか目が冴えちゃってさ。お邪魔していいかな?」
「どうぞ。飲み物は要る?」
「貰うよ。──ありがとう」
礼を言って受け取り、輪からやや離れた位置に腰を落とす。
自然の懐に抱かれて女性陣のお喋りをBGMに暖かい飲み物でホッと一息。これはこれで結構贅沢な時間なのかも。
そんな穏やかな時間を過ごす中、仔狐のまいんはマイの膝の上で丸まって寝ていたのだが、いつからか気付けば頻りに耳をピクピク動かせていた。
何か気になる音でも拾ってるのだろうか?こっそりと【刻印・飛耳長目】を発動し耳を澄ましてみたが、聴こえてくるのは女性陣の話し声と焚き火の爆ぜる音ばかり。他には何も聞こえてこない。そこに強い違和感を覚えた。
「──静か、過ぎる?」
虫の囁き、鳥の啼き声、獣の遠吠え、魔物の唸り声──。そういった他の生物達の営みの声が全く無いのだ。
その言葉が耳に届いたのかお喋りの声も止み、辺りに静寂が訪れる。思い出したかの様に焚き火の小枝がパチリと爆ぜた。
すると、まいんも目を覚まし、落ち着かなく動き回り周囲の匂いを嗅ぎ始めた。明らかに何か異変を感じ取っている。その様子を見て主人であるマイが警告を飛ばす。
「これは……。念の為、火を消すわよ。闇に目を慣らしといた方が良いわ」
「トオルちゃん、他の皆を起こしに行って貰えるかな~?」
ミイの指示に頷きを返し駆け足で向かう。数分後、全員がフル武装で集結していた。誰の表情も警戒に引き締まっている。
緊迫した空気が漂う。どれくらい時が経っただろうか。ふとまいんと獣人コンビが同じ方向を睨み付けた。暫く遅れてようやっと俺の耳にも、地響きに似た足音と木々が倒れる物音が届いてきた。
徐々に近付いてくるその音は結構な速さで、そして真っ直ぐこちらに向かっている。接触は避けられないらしい。
「──来るぞっ!!固まりすぎず、離れすぎず、互いにフォロー出来る距離を取れ!」
先頭に立ったサニーが声を上げる。その隣には抜剣したテオの姿。彼らの仲間達も臨戦態勢に入っている。音の正体はまだ判らないが、総力戦の必要有りと判断したようだ。
──ドドドドドッ!──バキィ!メキメキッ!……ガサリ。
「……っ、ヒッ!?」
思わず喉から悲鳴が洩れる。
そこに現れたのは、冷たい瞳に鋭く尖った牙、太くしなやかな尻尾。硬質な鱗に覆われた、巨大な爬虫類だった。




