十面埋伏
ミーティングを終え、更にミーティングについての反省会も終わり。女性陣は夕飯の支度、男性陣は野営地の防衛要員といった感じに仕事が割り振られた。とはいえ襲撃が無ければ自由時間と変わらないので、俺は職員並びに先輩方の下に向かい過去に似た事案は無かったかと訊ねてみた。
──魔物の生息域に乱れって結構大事じゃね?ファンタジーを扱った物語でも、こういうのがフラグになってたりするじゃないか。定番だと魔物の大氾濫とか、巨大魔獣の襲来だとか。
そんな感じにつらつらと自分の考えを述べてみると“物語”という単語に表情筋を僅かに引き攣らせたテオが答えてくれた。
「うん、確かに言ってる事は間違いじゃない。ただ経験者として言える事は、こうした変化は度々あるんだ。大体は一時的な乱れで暫くすると元に戻る事が多いかな。けどトオルの言う通り、ごく稀に大災害の前触れというケースもある」
「だからこそ依頼の最中に気付いた些細な変化などでもギルドへの報告が奨励されています。ギルドはそうやって集まった情報を元に対応を考え、規模によっては町に居る冒険者にミッションが発令される事も有ります。その時には出来る限りの協力を願います」
テオの説明に職員が補足を交え解説する。
ミッション《指令》とは平時のクエスト《依頼》とは異なり参加が義務付けされている。よっぽどの理由が無い限り拒否は出来ない。
とはいえ下っ端の仕事は裏方に限られるだろうけど。間違っても前線に送られる事は無い筈だ。
「王都の近くでこれだけ、しかも急速に乱れが生じてんだ。今回の件は間違いなくミッションが出るだろうよ」
サニーが今後の流れを予想し教えてくれた。
「それは調査隊派遣?それとも討伐隊?」
「調査隊という名目の討伐隊だろうな。というのも公式に討伐隊と銘打つと騎士団の連中が黙ってないからな。あんなトロい奴らと足並み合わせるなんて冗談じゃねえや」
「兄さん!」
ははあ、暗黙の了解ってヤツですか。発言力の強いのが近所に居ると厄介だねえ。お仕事一つ取り掛かるにも建前が必要になるんだから。
ソルのお小言を楽しそうに流してるサニーの姿を眺めながら呑気にそんな事を考えていた。
──さてと。
周囲に人が居ない事を確認して、胸元から『参』の割符をこっそり取り出す。
先程の話し合いで、明日の朝一で街に戻る事は満場一致で決まったが、どんなに急いでも到着は昼過ぎになる。
ならば時間を無駄にせずに情報だけでも先に渡してしまった方がいいだろう。それさえあれば、あっちも判断しやすくなるだろうし、何よりこちらも凶悪な魔物の存在有無は前もって知っておきたい。
【刻印・以心伝心】を発動させ念話を送る。
(もしもし、こちら透。ヒューイ、聞こえるー?)
{……っ!? トオル、無事だったか!?……そうだ、そうだよ……折角便利な道具を預かっておいて、なんで俺はその事を失念してんだ……!}
(あ、その様子だとギルドにはもう異変の報告が入っているんだ?)
{ああ、昼を回った辺りからボチボチ入り出した。お前今何処に居る?}
(まだ講習の真っ最中。予定していた野営地には到着してる。途中で戻るかといった意見も出たんだが、既に行程を半分以上消化した後だったし別グループとの合流を優先した。誰一人欠ける事なく無事合流は果たしたよ。怪我もない)
{そうか、それは何よりだ。……全く!よりによってタイミングが悪すぎたな。どっちか一日ズレてくれてりゃあここまで心臓に悪く無かったのに……}
(ありゃ?心配かけてしまったか?ごめんなー。で、報告。まず、ここら一帯の様子だが──)
かくかくしかじかと、なるべく主観を交えず報告する。
{ほう、ゴブリンの上位種は他のエリアでも幾つか目撃情報があったがブラックゴブリンまで出たのか。よく撃退できたな。──迅速且つ詳細な情報提供に感謝する。こちらから伝えられる事は……、今入っている情報では、それほどヤバそうな魔物はまだ確認されていない。ただ、なんせ範囲が広く原因についても何も解ってない状態だ。この先何が起きても不思議じゃない。お前も最後まで気を抜かずに無事に帰ってこいよ}
通話を終えて、掌の中の割符に目を落としボソリと一言。
「……無事にと言われても、現在フラグ・十面埋伏の計を食らっているんだが」
こんな状況でこれら全てを神回避して、何事も無く王都に辿り着くなんてまず不可能だろうよ。俺のリアルラックの無さをナメんなよ!




